黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
クィディッチ

ハリーは遥か上空でゆっくり飛んでいる。眼下の試合を眺めながらスニッチを探しているようだった。一度はブラッジャーがとんでもない勢いで襲いかかって来たが、ハリーは危なげもなくひらりとかわした。

「さて、今度はスリザリンの攻撃です。チェイサーのピュシーはブラッジャーを二つかわし、双子のウィーズリーをかわし、チェイサーのベルをかわして、物凄い勢いでゴールへ──ちょっと待ってください!あれはスニッチか?」

リーはエイドリアン・ピュシーを追いながら、突然実況をぶち切った。ゴールの直ぐ手前まで来ていたピュシーは左耳を掠めた金色の閃光を振り返るのに気を取られて、クアッフルを落としてしまう。観客席が騒付いた。

ランはじっと目をこらした。流石のランとて遠過ぎてまともに見えたものではないが、ピュシーの傍らを駆け抜けた金色が弾丸のような速さで競技場を飛んでいるのを僅かに目視する。スニッチはまるで挑発するかのようにその場で何度か旋回すると、速度を更に増して飛んだ。
観客席がどよめくのと同時に、ハリーはスニッチを追って急降下した。その動きにつられて箒を走らせるスリザリンのシーカー、テレンス・ヒッグズもスニッチを確認した。チェイサー達も自分の役目を忘れてしまったように、宙に浮いたまま固唾を飲んで見守っている。
二人のシーカーはスニッチを巡って抜きつ抜かれつの接戦を始める。しかし、一段とスパートを掛けたハリーの方が速く、ヒッグズを制してスニッチに手を伸ばした──突如、グリフィンドール席から怒りの叫びが上がる。

「ハリー!」

思わず声を張り上げたラン達の視線の先で、フリントに邪魔されたハリーは間一髪で箒にしがみ付いた。コースを外れたニンバス2000だったが、その性能のお陰かはたまた乗り手の才能か、瞬く間に向きを変えてフィールドへと舞い戻った。

「反則だ!」
グリフィンドール寮生が口々に叫び、大ブーイングが捲き上る。

マダム・フーチがタイムを取り、フリントに厳重注意を与えているうちにスニッチはどこかへ姿を消してしまった。グリフィンドールにフリーシュートが与えられたが、その程度ではグリフィンドール寮生の怒りが冷めることなく、皆が「最低だ!」「巫山戯ふざけた事を!」と口々に叫んだ。

ランの一つ下の観客席ではウエストハム・サッカーチームのファンのディーンが「退場させろ!審判!レッドカードだ!」と怒鳴り付けている。

「サッカーじゃないんだよ、ディーン」
ロンが宥める。
「クィディッチに退場はないんだよ。ところで──レッドカードって何?」

ここまで嫌なプレイは久し振りに見たと、ランは眉を顰めて唇を曲げた。確かに、退場があれば良いというディーンの意見にも頷ける。更にハグリッドもディーンに味方した。

「ルールを変えるべきだ。フリントはもうちっとでハリーを地上に突き落とすところだったぞ」
怒り心頭なのは何も生徒席だけではない。実況のリーもグリフィンドール生だ、不快げに顔を歪めていた。その実況は中立を保つことが難しくなっていた。

「えー、誰が見てもはっきりと、胸くその悪くなるようなインチキの後…」
「ジョーダン!」
「えーっと、おおっぴらなファールの後…」
「ジョーダン、いい加減にしないと──」
「はい、はい、了解」
マグゴナガル先生に凄味を効かせられ自身が退場させられそうになったリーは、仕方なく頷いた。

「フリントはグリフィンドールのシーカーを殺しそうになりました。誰にでもあり得るようなミスですね、ええ、きっと。
そこで、グリフィンドールのペナルティ・シュートです。スピネットが投げました…決まりました。さあ、試合続行。クアッフルはグリフィンドールが持ったままです」

クアッフルを抱えたスピネットが再びゴールへ投げるが今度は決まらず、スリザリンのピュシーが奪う。双子の放ったブラッジャーをかわし、フリントにパスした。

「スリザリンの攻撃です。クアッフルはフリントが持っています──スピネットが抜かれた──ベルが抜かれた──あっ、ブラッジャーがフリントの顔にぶつかりました!鼻をへし折るといいんですが──ほんの冗談です、先生。ピュシーがクアッフルを取り、ゴールへ走る──スリザリンの得点です。あーあ……」

スリザリンから大歓声が上がる。得点差が僅か十点となり、グリフィンドールに嫌な風が吹き始めた。

*****

「そう言えばラン、君って確か、試合前の大広間で言っていなかった?」
「そうそう、確か…スリザリン・チームのメンバーの特性ってやつ?」
ディーンとロンに尋ねられたランは、「ああ、そのことね」と頷いた。

「グリフィンドールとスリザリンの最大の違いは何だと思う?」
「最大の違い…?」

ランに促されて皆は競技場全体を見渡した。

「注意して比べてみて。一目瞭然よ」
「うーん…」
「ええーっと…」
「…あっ!」
はたとネビルが気が付いて、恐る恐る自信無さ気に言った。

「もしかして、それって、大きさ…?」
「そう。──選手の体格の差よ」
ランは試合展開を目で追いながら頷いた。

「スリザリンは大柄な選手が殆どで、体格で選手を選んでいると言っても過言ではないと思うわ。まあ、詳しい選考基準は流石に分からないけれど」
「そっか、だからランはハリーは大丈夫って言ったんだ」
「そう」
「ええっと…つまり?」
「箒のスピードは乗り手の体重に反比例する。箒がずば抜けて良いものであれればまた話は別だけれど、全選手の箒を見たところ、性能はハリーのニンバス2000がずば抜けて優れているわ」
「へえ〜!箒にも色々あるんだな」
ディーンが興味深げに何度も頷いた。

「ハリーは小柄で視野が広く俊敏、箒の操縦技術も充分に優れている選手。ブラッギングやブラッチング、ブラーティングやコビングなんかの反則をされると当然危険だけれど、スピードではハリーには誰も敵わないわ。今までのプレーを見ていてもそれは確実だろうと思う。ブラッジャーと相手のラフプレーにさえ気を付けてさえいれば、ハリーは大丈夫でしょうね」
「ブ、ブラッギ…?」
「ブラッギング。クィディッチの反則行為の一つさ」
目の前を高速で横切って行ったクアッフルを持つスリザリンの選手を目で追いながら、ロンが早口で言った。

「僕は箒の事はあんまり詳しくないけれど、やっぱり高い箒ほど性能がいいの?」
「…まあ、一般的にはそうね。ニンバス競技用箒会社が生産したニンバス2000は、現存する競技用箒の中では最も速い箒よ」
マホガニーで作られた箒の柄は滑らかで光沢があり、柄の上部にニンバス2000と金の文字で書かれていて、小枝が綺麗に束ねられた尾を持っている美しい箒である。ランも値段までは把握してはいないが、きっとガリオン金貨が何百枚あっても足りないくらい高額であろう。

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春風