黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
クリスマス

十二月の半ばに入った。ホグワーツには深い雪が降り積り、天高く広い青空が見渡す限りに広がって、周囲の山々は白に覆われている。湖は表面全体がカチカチに凍り付いていた。ありとあらゆる色彩が失われて、何もかもが薄墨色の中に閉じ込められている。

「……」
ある夜、ランはベッドに仰向けに寝転びながらカタログを読んで、専ら頭を悩ませていた。眉根には深く皺が寄せられている。
冊子から手を離すと、それはバサリと顔を覆うように落ちた。

「……はああああああ」

ランが──もう何度目か分からない溜め息兼雄叫びを上げた。

「ちょっとラン、いい加減本当にうるさいわよ!!」
「もう、あなたって意外なところで優柔不断よね!」
ランのこの世の終わりを迎えたような絶望的な声に、最初こそ一体何事だと心配してくれていたパドマとアマンダも、それが幾度となく繰り返された今では取り付く島もない。呆れを含んだ怒りの抗議の声が上がる。その二人は相も変わらず恋愛話に花を咲かせながら、薬草学の課題を終わらせにかかっていた。

「…決まらない」

──クリスマスプレゼントが、決まらないのだ。

*****

親友であるパドマとアマンダへのクリスマスプレゼントは、もう既に決めた。そしてハリーとロン、ハーマイオニーも決めた。その他の兄弟達、家族へのプレゼントも勿論決めた。その準備は、途中までは着々と進んでいたのである。
問題は──セドリック、ルーピン、スネイプの三人へと送るプレゼントなのだ。

学年は違うものの友人であるセドリックには、お世話になっているお礼も兼ねて送るべきだとランは思っている。そして、それは大人と子どもという立場の違いはあるものの、ルーピンとスネイプに対しても同様である。大いにお世話になっている彼等には、本腰を入れてきちんとしたものを贈らねばなるまいと、ランは頭を悩ませていた。

セドリックは、今では寮を超えたとても良い友人だ。話し上手でもあり聞き上手でもあり、その上知識や経験も豊富なセドリックは、ランにとっては貴重なとても話の弾む友人である。
ルーピンとは、その長期に渡る手紙の遣り取りである程度の好みは把握している。ユーモアに溢れた彼の手紙を、ランはいつも心待ちにしていた。

「……」

一番厄介たるのは──間違いなく、スネイプである。クリスマスなどという浮かれたイベントには無縁そうな彼に贈るものなど、正直に言って全く思い付かない。
“スリザリン贔屓の陰険教師”──それが、一般的なセブルス・スネイプの対外的な評価ではあるが、ランに言わせてみれば、少し当たりが強くて少し厳しいだけの非常に教育熱心で優秀な教師である。恐らくその元来の性格から来る人当たりの悪さや、プライドの高さから来る頑なさが、彼をこの上なく嫌味たらしく陰険な人物に見せているのであろう。ラン自身も人当たりが良いとは言えないからこそ、分かることがあるのだ。

魔法薬学の教授たる彼は、生徒達に鬼のような量のレポートを毎週のように課す。実際に生徒としてそれを熟しているランの目から見ても、他の教科と比べるとかなり多いとは思う──このホグワーツにおいて誰よりも厳しいとランが内心確信している、マグゴナガルの変身術と同等であろう。
しかしその一方で、その膨大な量の課題の全学年全寮、全生徒分の採点と評価を行うのはたった彼一人である。ハロウィーンの夜、魔法薬学準備室の机の上に積まれていたレポートを目の当たりにしてしまったランは、彼の影の苦労と奮闘を知っている。スネイプは、自身の個人的な時間を削って生真面目に職務をこなす、実に教育熱心で優秀な教師であった。しかし、その彼の尽力を知り功績を認める者は非常に少ない。確かにグリフィンドールの生徒に対する態度を鑑みれば、それも仕方のないことなのかもしれないが。

先日の一件でどうやらスネイプが紅茶を飲むということは伺えたが、あの良い茶葉を上回る程のものを、ランの資金では到底用意できそうにもない。
心底困り切ったランは、最早見飽きてしまったカタログを無意味に捲り続けた。


「…ねえ、何か案はない?」

実の弟のロンとは違い、ランは小遣いをそれなりに貯め込んでいた。
──洋服は必要なもの以外は兄達のお下がりで済ませていて、お洒落は必要最低限すらもしない。クィディッチはプレーすることも観戦することも好きではあるが、ロンとは真逆で推しのクィディッチチームは特にない。そのクィディッチの用具類は殆どチャーリーのお下がりを使っている。本や教科書の類は、ビルやチャーリー、パーシーのものを貰ったり時には借りたりして読んでいる──塵も積もれば山となる。貯まるのは当然のことであった。

「そういうものは自分で考えるからこそいいのよ」
「誰へのプレゼントなのか知らないけど、もう思い切ってカードだけにしちゃえば?別に物じゃなくっても良いわけだし」
いっそのことカードだけにしようかとも考えたが、やはりそれでは少し味気ない。ランはそのアマンダの言葉を反芻した。

「必ずしも、物じゃなくてもいい、の……か。──!!」
何かを閃いたランは、ベッドからガバッと飛び上がるなり、天蓋のカーテンを勢い良く開け放って、靴を引っ掛けて扉へと駆け出した。

そうだ。決して──売り物でなくても、良いのだ。

「ラン、どこ行くの!?」
「ちょっとそこまで!」
「ランは薬草学のレポートは終わらせたの?」
「終わった!」
「私たちのレポートを手伝って!私なんて後二十インチも羊皮紙を埋めなきゃいけないの!」
「私の本棚の上から二段目の右から五番目にある本、使うといいわ!引用できる頁に栞を挟んだままだから!」

そう叫ぶとランは全速力で談話室へと続く階段を駆け降りていった。パドマとアマンダがきょとんと顔を見合わせる。

「…一体何を思い付いたのかしら?」
「さあ?あの子のことだから、私たちには分からない次元のことで悩んでいるに違いないわ。さあアマンダ、さっさと終わらすわよ!私たちにはまだまだやらなきゃいけない課題が山積みなんだから!」

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春風