黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
休息

その後、校庭にてセドリックと分かれたランは、一人談話室へと向かった。セドリックはこれからハッフルパフチームでクィディッチの練習があるらしい。ハロウィーンであんなことが起こらなければ、ランは自分とてきっと今頃学校内寮対抗クィディッチに夢中になっていたに違いないと思った。

「「おーい!ラン!」」

聞き慣れたその見事なユニゾンに振り返ると、やはり、遠方にフレッドとジョージが廊下を全力疾走しランの方へと向かって来ていた。相変わらず落ち着きがなさ過ぎる双子に、ランは軽く溜め息を吐いた。

「ラン、元気か?」
「俺らの情報網じゃ、ロンたちと喧嘩したんだって?」
「…情報網も何も、あなたたち同じ寮でしょ」

両側から肩を組まれたランは、流石に抵抗する気力もなく、双子の為すがままにさせた。双子はランの頭上で代わる代わるテンポ良く話し始めた。

「ま、アイツらもちょっとは頭が冷えたろうさ」
「きっとホグワーツにも慣れて来て、ちょっと気が緩んだんだよ。頭を冷やす事件があるには丁度いい頃合いさ」
「あなたたちこそ冷やす必要があるんじゃない?それ…まさか、糞爆弾?」

ランは、先程から気になっていたフレッドの右手に目線をやりながら、恐る恐る尋ねた。

「そうさ!それも、威力を上げる為に火薬を倍に仕込んである特別製だぜ?」


フレッドの右手に握られていたのは、やはり糞爆弾であった。確かホグズミードにあるゾンコの悪戯専門店の商品で、双子はそれを去年の冬季休暇に大量に隠れ穴へと持ち帰り、それら全てを誤って大爆発させてモリーに一日中叱られていたことを、ランは思い出して遠い目をした。──あの時の強烈な悪臭を、ランは一生忘れることはできないと思っている。

「…体の部位が吹っ飛ばされなければいいけど」
「大丈夫、俺らにはマダム・ポンフリーがついているさ」
暗にそれがとてつもない威力であることが知らされ、ランは何とも呆れたように目を細めた。

「…ほどほどにね」
「ああ!だが、これには大きな問題があってな」
「投げるのを失敗したら、自分たちにまで被害が及ぶってワケさ。なあラン、何か案はないか?」

そんな二人の申し出に、ランは目を瞬いた。ラン自身は、この手の研究自体は非常に興味深くて好きである。例えばそれが学校中を巻き込むような悪戯道具の開発であっても、知的好奇心が満たされるのであれば、ランは有無を言わずにそれに協力してしまうのだ。


「そうね…。対象を追いかける呪文でもかけたら?それなら、例え投げる時に標的が逸れたとしても、自分や他の人への被害はある程度減らせるでしょ」
「お、それいただき!でも、俺らそんな呪文習ったっけ?」
「調べれば出てくるわよ」
「ラン、教えてくれ!頼むよ!」

少し躊躇したランではあったが、直ぐに手持ちのインクを取り出して廊下の石壁にバツ印を一つだけ描き、興味津々にこちらを見るジョージに教材一式預ける。
ランは懐から出した杖でフレッドの右手にある糞爆弾を浮かすと、標的を石壁の印へと絞り、呪文を唱えた。


Oppugno襲え

ドカンッ!!!
──石壁へと当たった糞爆弾は、粉々に飛び散って、辺りに粉塵が舞い上がった。


「うわっ!!ゲホッ、ゴホッ!!」
「くっせぇ!!我ながらスゲー威力だぜ…」
「……対象から意識を逸らさないことが重要ね。じゃないと自分に向かって飛んで来るわよ」
「げっ、マジかよ」

フィルチに見つかる前にと、手早く辺り一帯に清め呪文をかけながらランが説明をすると、双子はニヤニヤと悪戯げに笑ってランを見た。
ランは双子をジロリと見やった。

「…何よ」
「いーや。何やかんや、ランって規則は適度に無視する傾向にあるよな」
「廊下で平気で魔法を使うしな」
心外な言い掛かりに、ランは少し眉を顰めた。

「廊下が糞爆弾塗れの方がフィルチは怒るでしょう。学校を清潔に保つことに貢献するくらい、何てことないわ」
「まずその廊下を汚したのは俺らだけどな」

母であるモリーにフレッドとジョージの監視を申し出ている以上、ランにも罪悪感はある。しかし、この双子の兄達の悪戯グッズの開発には興味を惹かれていることも事実。自分も人のことは言えやしないなと、ランは苦笑した。


「取り敢えず、ラン!」
「ありがとな!助かったぜ」
「「元気出せよ!!」」
意気揚々と廊下を駆け出した二人を見送った。その場にポツンと残されたランは、暫くそこに立ち尽くした。

「……」

──きっと、自分を元気付ける為に、この話を持ちかけたのだろう。
こんな時、ランはつくづくこう思うのだ。

「…誰かを笑顔にする、天才ね」

あの双子の兄達のお陰で、自分がどれだけ救われているか、きっと知りやしないだろうな。
ランは一人小さくそう笑みを洩らすと、談話室へと足を早めたのであった。


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春風