黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
クリスマス

クリスマス休暇の前日、ハーマイオニーは実家へと帰って行ったが、ハリーとロンへ図書館でニコラス・フラメルのことを調べるようにと、二人の耳にタコができるくらい再三再四に渡って指示を言い聞かせた。

ハグリッドがうっかりフラメルの名前を漏らして以来、三人は本気でフラメルの名前を調べ続けていた。スネイプが何を盗もうとしているかを知る為には、本を調べる以外に三人には方法はないのだ。厄介であったのは──フラメルが本に載る理由が分からないので、どこから探し始めていいのかが分からないということであった。『二十世紀の偉大な魔法使い』にも載っていなかったし、『現代の著名な魔法使い』にも『近代魔法界の主要な発見』、『魔法界における最近の進歩に関する研究』にも載っていなかった。図書館には、何万冊もの蔵書、何千もの書棚、何百もの細い通路があり、余りにもその規模が大きいことも問題であった。


「ハーマイオニー。この信じられないくらい分厚い本、いる?」
「ええ、ちょうだい。読み切れなかったら借りていくから」
「マジかよ…信じられねぇ…」
クリスマス休暇の前日の昼食の前も、三人はフラメルのことを探していた。

そんなロンとハーマイオニーの会話を聞きながら、ハリーは“閲覧禁止”の書棚に近付いた。この書棚にある本を見る為には、先生のサイン入りの特別許可書が必要であったし、ハリー達のような一年生には絶対に許可は貰えないだろうというそとは充分に分かっていた。ここにはホグワーツでは決して教えない強力な闇の魔法に関する本があり、上級生が“闇の魔術に対する上級防衛法”を勉強する時だけ読みことを許させていた。

「君、ここで何を探しているの?」
「い、いえ!別に」
「それならここから出た方がいいわね。さあ、出て!出なさい!」
司書のマダム・ピンスに目を付けられたハリーは、毛ばたきで追い立てられてしまって、図書館を出ざるを得なくなった。
ハリーは図書館の外の廊下で二人を待ったが、二人が何かを見つけてくることを余り期待してはいなかった。五分後、案の定ロンとハーマイオニーは首を横に振って出て来た。三人は誰からともなく溜め息を吐いた。

それでもハーマイオニーは、調べる予定の内容と表題のリストをハリーとロンに託した。授業の合間の短い時間にしか探せなかったので無理もないが、もう二週間も収穫なしだ。ハリーは、できることならばマダム・ピンスの執拗な監視を受けずにゆっくりと探す必要があると感じた。

「私が家に帰っている間も続けて探してね。見つけたらすぐに梟で知らせてちょうだい」
「君の方は、家に帰ってフラメルについめ聞いてみて。パパやママなら聞いても安全だろう?」
「ええ、安全よ。二人とも歯医者だから」
ハーマイオニーの答えにハリーは眉を下げて笑った──ハリーには、歯医者がフラメルを知っているとは到底思えなかった。


しかし、クリスマス休暇に入ると、楽しいことが沢山あり、ハリーとロンもフラメルのことを忘れてしまった。寝室にはハリーとロンの二人しかいなかったし、談話室もいつもより閑散としていて、暖炉の側の心地良い肘掛け椅子に座ることができた。二人はそこで何時間も座り込んで、大広間からかっぱらって来たパンやトースト用のクランベット、マシュマロなど、串に刺せる食材は何でも刺して火で炙って食べた。特にマシュマロは、口の中で蕩けて絶品であった。
ロンはハリーに魔法使いのチェスの手解きをした。ルールはマグルのチェスと全く同じであるが、駒が生きているところが大きく違っていて、ハリーはまるで戦争で軍隊を指揮しているようだと思った。

クリスマス・イブの夜、ハリーは明日の美味しい御馳走と楽しい催しに胸を高鳴らせてベッドに入ったのであった。

*****
翌朝のクリスマス当日の早朝、二人はその寒さによって目を覚ました。そしてガバッとベッドから飛び起きた。
真っ先にハリーの目には、ベッドの足元に置かれた小さなプレゼントの山が目に入った。

「メリークリスマス」
ハリーが大急ぎでベッドから起き出してガウンを着ていると、ロンが目を擦りながら寝惚けまなこで挨拶した。
「メ、メリークリスマス」
おっかなびっくりしながら、ハリーも挨拶を返す。育った環境の影響もあって、ハリーはクリスマス・プレゼントには全く期待していなかったのだ。

「ロ、ロン!ねえ、これ見てくれる?プレゼントがある!」
「他に何があるっていうのさ。大根なんか置いてあったってしょうがないだろ?」
そんなことを言いながらロンは、ハリーよりも高く積まれた自分のプレゼントの山を開け始めた。

──こんなクリスマスは、初めてだ。
ハリーは胸を高鳴らせて、プレゼントをゆっくりと丁寧に開封していった。


まずハリーは一番上の包みから取り上げて開封を始めた。ハグリッドからは、梟の鳴き声のような音がする荒削りな木の横笛。バーノンおじさんとペチュニアおばさんからは、メモ帳にセロテープで貼り付けられた五十ペンス硬貨。ウィーズリーおばさんからの厚い手編みのエメラルドグリーンの“ウィーズリー家特製セーター”と、大きな箱に入ったホームメイドのファッジ。ハーマイオニーからの蛙チョコレートの大きな箱。
プリペット通りからのそれを除くと、どれもが素晴らしい贈り物だとハリーは頬を紅潮させた。

「ママは毎年僕たちのセーターを編むんだ」
ロンは栗色のウィーズリー家特製セーターを頭から被りながら言った。

「僕のはいつだって栗色なんだ」
「君のママって本当に優しいね」
ハリーはファッジを齧りながら言った。とても美味しい。

もう二つ包みが残っていた。その内の小さな一つを手に持ってみると、とても軽い。
ハリーが包みを開けると、銀鼠色の液体のようなものがスルスルと床に滑り落ちて、キラキラと折り重なった。ロンがはっと息を呑んだ。

「僕、これが何なのか聞いたことがある」
ロンはハーマイオニーから送られた百味ビーンズの箱を思わず落とし、声を潜めた。

「もし僕の考えているものだったら…とても珍しくて、貴重なものなんだ」
「何だい?」
ハリーは輝く銀色の布を床から拾い上げた。水を織物にしたような不思議な手触りである。

「これは──透明マントだ」

まるで貴いものを恐れ敬うかのような表情をしてそう言ったロンに、ハリーは瞠目した。

「きっとそうだ…ちょっと着てみて」
ハリーはマントを肩から掛けた。ロンが甲高い叫び声を上げた。
「そうだよ!下を見てごらん!」
ロンに促されて下を見て、ハリーは更に目を見開いて姿見の前に走って行った。

──鏡に映ったハリーがこちらを見ている。首だけが宙に浮いて、体は全く見えなかった。マントを頭まで引き上げると、ハリーの姿は鏡から消えていた。

「ハリー、マントから手紙が落ちたよ!」
ハリーはマントを脱いで手紙を掴んだ。ハリーには見覚えのない、風変わりな細長い字体でこう書いていた。

君のお父さんが亡くなる前にこれを私に預けた。
君に返す時が来たようだ。上手に使いなさい。
メリークリスマス


残念なことに名前は書かれていない。とても奇妙な感覚にハリーは襲われて、ハリーは手紙をじっと見つめたが、ロンの方はマントに見惚れていた。


ハリーはマントを取り敢えず脱いでベッドの上に置き、最後の包みを手に取った。赤い包装紙と金色のリボンに包まれた、少し大きな箱である。そこに挟まれたカードを見て、ハリーは顔を綻ばせた。

「見て!これ、ランからだ!」
包み紙をより一層に丁寧に開ける。何と、フリートウッズ社製の箒磨き手入れ道具一式であった。

「あっ!これ欲しかったんだ!僕、そろそろちゃんとニンバス2000の手入れをしたくて…」
「ランってホントにしっかりしてるんだ。きっとそういうことも全部分かってて送ってるんだと思う」
双子の姉の腕利きに、ロンが得意げに鼻の穴を膨らませた。
と言っても、手入れの仕方など分からないハリーは、ロンに尋ねながら手入れをしようかと考えていたが──箒のお手入れガイドブックを箱から発見してまたもや目を剥いた。

ランからロンへのプレゼントは、ハニーデュークスのお菓子の詰め合わせであった。ロンは早速蛙チョコレートを口一杯に頬張っている。


ハリーはもう一度透明マントについて尋ねて考えようとしたが、それをする間を与えず寝室の扉が勢い良く開いて、双子のフレッドとジョージが入って来た。ハリーは急いでマントを枕の下へと押し込んだ。
この不思議なマントのことを、まだ他の人には知られたくはなかったのだ。

「メリークリスマス!」
「おい、見ろよ──ハリーもウィーズリー家のセーターを持ってるぜ!」
フレッドとジョージも青いセーターを着ていた。片方には黄色の大きな文字でフレッドのFが、もう一つにはジョージのGが付いていた。

「でもハリーの方が上等だな。ママは身内がないとますます力が入るんだよ」
ハリーのセーターを手に取ってフレッドが言った。

「ロン、どうして着ないんだい?着ろよ。すっげえ暖かいじゃないか」
「僕、栗色は嫌いなんだ」
フレッドが急かすと、気乗りしない様子でセーターを頭から被りながらロンが呻くように言った。

「イニシャルが付いてないな」
「ママは、お前なら自分の名前を忘れないと思ったんだろう。でも俺たちだって馬鹿じゃない。自分の名前くらい覚えてるよ──グレッドとフォージさ」

ハリーとロンが噴き出すのと同時に、パーシーが窘めるような顔で扉から覗いた。

「この騒ぎはなんだい?」
プレゼントを開ける途中であったらしく、腕にはもっこりとしたセーターを抱えている。フレッドが目敏く気付いてパーシーに飛び付いた。

「監督生のP!パーシー、着ろよ。僕たちも着てるし、ハリーのもあるんだ」
「僕…嫌だ…着たくない…」
パーシーの眼鏡がズレるのにも構わず、双子が無理矢理頭からセーターを被せたので、パーシーはセーターの中でモゴモゴ言った。

「いいかい、君はいつも監督生たちと一緒のテーブルに着くんだろうけど、今日だけはダメだぞ。だってクリスマスは家族が一緒になって祝うものだろ」
そう言ったジョージもパーシーに飛び付く。双子はパーシーの腕をセーターで押さえ付けるようにして、ジタバタと暴れるパーシーを一緒に引き摺るように連れて行ったのであった。

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春風