黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
クリスマス

ディゴリー家はセント・オッタリー・アンド・キャッチポール村の近郊にある。赤茶色をしたレンガ調の外壁に白い扉と窓枠、白い屋根。短く刈り取られた青々とした芝生の庭には、至る所に花が植えられているが、今は真っ白な雪が降り積もっていて春の訪れを待ち侘びている。華美な装飾こそないものの、整然として洗練された一軒家デタッチは、日々の行き届いたディゴリー夫人の手入れの賜物だ。
その二階の南向きの一室の窓枠に、大きな梟が止まった。

「フェル、お疲れ様。ありがとう」
窓を開けたセドリックが梟を迎え入れると、とても嬉しそうにホッホッと鳴いてセドリックの肩に止まった。

セドリックは頬を綻ばせて、梟から包みを受け取った。
年齢も二歳違って、男女と性別も違えばハッフルパフとレイブンクローと寮も違う、社交的であるセドリックと内向的なランという性格すらも違うような二人であったが、今となってはとても良い友人という間柄だ。

「セド!朝ご飯できたわよ!」
母が自分を呼ぶ声にセドリックは朗らかに返事を返すと、ランからの手紙とプレゼントを手にしたまま、階下の食卓へと降りて行った。

セドリックは両親にクリスマスの挨拶をすると、暖炉の前の肘掛け椅子に座ってランの手紙をいそいそと素早い動作で開封した。セドリックは、それだけランからの手紙を心待ちにしていた。


親愛なるセドリック・ディゴリー様


メリークリスマス。
今年は本当にありがとう。あなたにはとてもお世話になったわ。何て感謝の言葉を言えばいいのか分からないくらいよ。

この前のハッフルパフ対スリザリン戦、とても素晴らしかったわ…!スリザリンのラフプレーにあんなに華麗に対応できる人、私は初めて目にしたもの。またあなたとあの対戦についてお話ししたいわ。

私、魔法史の授業を全く聞いていないから、今から試験に向けて勉強しないといけないの…。セドリックはどうやって勉強しているの?ご存知の通り、私の現役の兄たちの意見は全く参考にならないの。まさか──あのビンズ先生の授業を聞いているの?もしもそうだとしたら、私は一生あなたを崇め奉らなければならないわ。

良いクリスマスと年末を。来年もどうぞ宜しくね。

ラン・ウィーズリー


セドリックはそっと口角を上げる。そして、包みを開いて思わず声を発した。

「あっ!」
──オリバンダー製の杖磨きのセットだ。研磨剤やクロス、天然オイルのワックス液などが入っている。
実用的な物を送って来てくれることがランらしいなと、セドリックは口元に手を当てて喉の奥で笑う。

それを目敏く見つけた父のエイモスが、セドリックに恐る恐る声を掛けた。

「セ、セド。それはまさか女の子からのプレゼントかい?」
「ああ、うん。そうだよ」
「何てこった!ま、まさかガールフレンドか!?」
「…ううん、そんな子ではないよ」

──今は、ね。
エイモスの慌てふためきようにセドリックは苦笑しつつ、心の中でこっそりとそう付け足した。
取り敢えず…朝食を食べた後にでも、自分とてビンズ先生の授業を話し半分に聞いているということを、ランにきちんと伝えなけばならない。肩に止まったままご機嫌に体を揺らすフェルに手紙を託そうと、笑顔のセドリックは心に決めたのであった。


*****

お馴染みのホットチョコレートを飲んで日刊預言者新聞を読んでいたルーピンが、窓を叩くコンコンという小さな音に気が付いて外を見やる。そこには、見覚えのある立派なシベリアワシミミズクがそこにいて、黒曜石のような漆黒の瞳でルーピンの方をジッと見据えていた。
窓を開けると、バサバサと大きく羽ばたいて部屋へと入って来る。

「ありがとう、お疲れ様」

ルーピンは苦笑して、最早梟専用になりつつある大きめの器に水を注いで差し出した。ワシミミズクは大急ぎでそれを飲み始めた。

「…君は、この前も私のところに来てくれたね。ありがとう」
そう言ってルーピンが微笑むと、ワシミミズクは顔を上げてホーッと低く太く鳴き、再び水を飲み始めた。相変わらず体格や羽模様が立派で、頭の良いワシミミズクだ。


親愛なるリーマス・ルーピン様


メリークリスマス。いかがお過ごしですか?私は初めてのホグワーツでのクリスマスがとても楽しみです。

でも、ダイアゴン横丁であなたの顔を見てお話しすることができないのはとても寂しいわ…。
あなたの体調が良ければ、また夏期休暇にお会いできると嬉しいな。

DADAの授業は相変わらずよ。クィレル先生が私たち新入生に慣れてきたら、少しはマシになるかと思ったけれど──どうやらその目論見は大外れだったみたい。
私、あなたがDADAの先生になってくれたら本当に素晴らしいと思うの…。

ラン・ウィーズリー

P.S.プレゼントのことだけれど、もしも呪文が完璧でなかったらごめんなさい。教えてくれると嬉しいわ。


「……」
自分がDADAの先生になれるような日が恐らくきっと一生来ないであろうことは、ルーピンは分かっていた。誰だって、人狼が教師をしているような学校に自分の息子や娘を通わせたくはないだろう。人狼に対しての差別的な意見や偏見の目は、昔よりはほんの僅かに改善はされたものの、人狼が人々から忌み嫌われる存在であるこの状況は未だこの魔法界で一般的なことであった。
だからこそ、ルーピンはランとの時間を大切にしたいのだ。他の誰よりも、良い友人である彼女に、こんな秘密は知られたくはないのである。

「呪文…?」
追伸の一文が気になったルーピンは、プレゼントの包み紙をそっと解いた。

それに包まれてたものは、ハニーデュークスのチョコレートと、重厚感のある革製の鞄であった。恐らく男性物なのだろう、非常に頑丈な作りをしている。

中を覗き込んで、ルーピンはあんぐりと口を開いて驚愕した──何てことだ。

「……もう、この呪文を使えるのか」

鞄の奥に広がる広々とした闇の空間を見つめて、ルーピンは深く感嘆の溜め息を吐いた。
──“検知不可能拡大呪文”は、とても高度な呪文だ。ルーピン自身も記憶があやふやではあるが、ホグワーツでは確か六年生で習ったと記憶している。この大容量収納可能な上に丈夫な鞄は、どこに行くにも重宝できるであろう。

年下の友人の末恐ろしい行き先に、ルーピンは苦笑を漏らした。そして羊皮紙に向かって羽根ペンを取り、プレゼントのお礼と呪文が問題なく正常に作用している旨を伝える文を書き綴ったのであった。

*****

「……」

魔法薬学の準備室。その机の上でポツンと一際存在感を放つ見覚えのない包みに、スネイプが眉を顰めた。最大限の警戒をして杖を振ってそのカードと箱を開封したスネイプは、少しの間硬直した。


セブルス・スネイプ様

メリークリスマス。今年はお世話になりました。
来年も、どうぞ宜しくお願い致します。良い年末をお過ごし下さい。

ラン・ウィーズリー


「……」
スネイプは再び杖を振って青い箱を開封し、その中身を覗き込んだ。

──クサカゲロウ、満月草、ニワヤナギ、月長石の粉、バイアン草、トモシリソウ、ラビッジ、オオバナノコギリ草。毒ツル蛇の皮、蛇の牙、山嵐の針、黄金虫の目玉、蜘蛛の死骸、蛙の脳みそ。

青い箱に所狭しと詰められていたものは、魔法薬学に使用される材料の一式であった。余りに思いがけぬプレゼントに、スネイプは瞠目する。


──一体どこで手に入れた。
軽い頭痛を覚え頭を抑えながら、スネイプは杖を軽く振って、前にダンブルドアから無理矢理に押し付けられたカタログを取り寄せた。
確かにそれらは全て、自生していたり生息していたり等、ホグワーツ周辺で手に入るものばかりではあるが、これら全てそれなりの量を集めるにあたってのその手間は計り知れない。中には、決して容易には準備できないものだってある。その上、一介の学生であるランがこれら全てを揃えるにあたって、かなりの労力と時間を費やしたであろうことは、魔法薬学の教師であるスネイプには当然察することができた。

それに、草などはまだしも──材料の殆どが一般的な女性が倦厭する程には気持ち悪いそれらを、女子生徒であるランが集めたということは、スネイプからしてみれば信じられないことであった。しかし、相手はラン・ウィーズリーという、少し一般的とは言い難い女子生徒だ。学生の本分である勉学にその文字の通り身を費やす彼女は、一般的とは言い難い枠組みの人間に入るのであろう。スネイプはそれについて考えることを放棄した。


これらを受け取っておきながら、流石に返さない訳にはいかない。と言っても、あの年頃の生徒に何を送れば良いのかなど、スネイプには分かるはずもない。スネイプはカタログを本棚に放るようにして戻した。
勤勉な生徒には相応しいであろう、そして生徒の身分では中々手に入り辛い本を数冊見繕って送ることに決めると、注文書を書店へ送る。程無くして届いた数冊の本を、杖を振ってそれらをエメラルドの包装紙で簡素に包んだのであった。

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春風