黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
クリスマス

──クリスマスの朝、ランは身に染み入る寒さでハッと目を覚ました。窓の外は未だ蒼然そうぜんとしている。どうやら日が昇る直前のようだ。

家族の中の誰よりも冷え性であるにも関わらず裸足で眠る癖のあるランは、取り敢えずまず靴下を履いて爪先を掌で覆った──まるで氷のように冷え切っている。これで良く今の今まで眠れていたなと、ランはある意味自分自身で感心した。暫く掌の熱を爪先へと移すように摩っていると、未だ凍え切ってはいるが徐々に感覚が戻って来た。
ベッドから下りて、パドマとアマンダを起こさないようにそっと足を忍ばせる。しかし直ぐに、その二人が家に帰っていることを思い出してランは一人苦笑した。曇った窓をそっとなぞり、窓の外を見遣る。

「…!!」

窓の外は──一面の銀世界であった。ちょうど朝日が昇る瞬間で、その闇を裂くような光線の眩しさにランは目を細めた。昨夜絶え間なく降っていた雪は止やんでいて、柔らかな日の光がまるで宝石のようにキラキラと反射していた。
ランは神も仏も信仰していない無宗教ではあるが、そのランですら、まるで遥か二千年も昔に生まれた人物の誕生を祝福しているようだと思った。

すると、その朝日を背景に遠くの方からばさりばさりと大きな羽を羽ばたかせ、こちらへ向かって一直線に飛んで来る梟が見えた。曇った窓を開けて迎え入れれば、その梟は羽を折り畳んでちょこんと窓枠に止まった。立派なオオコノハズクだ。
体に括り付けられている重そうな荷物を外してやると、ホーと一つ低く鳴いて梟小屋の方へ飛び去って行った。

その一羽が来た後、ランは一度窓を閉めた。しかし、引っ切りなしに次々と梟が窓を叩いて部屋へと舞い込んでくるので、杖を使うにしても一々窓を開閉するのが面倒になったランは、そのまま開けたままにしておいた。

*****

ランへのプレゼントは沢山届けられた。積み重ねられた箱が、今にも雪崩れてしまいそうになっている。
ロン、両親、フレッドとジョージ、パーシー、ビル、そしてチャーリー。パドマ、アマンダ、ハリー、ハーマイオニー、ルーピン。マイケル、アンソニー、テリー、エロイーズ……。

心の込められたカードとプレゼントを、一つ一つ丁寧に開封していく。この瞬間とても心が温かくなるのは、きっとどんな人間でも同じであろう。

「……?」

しかし、なぜか普段あまり話すことのない寮生や、更には他寮生からもカードが届けられていた。中には名前の書かれていないカードまである。ランは少し迷ったが、それらを杖を使って開いた──万が一の事態に備えて自己防衛の為である。しかしそんなランの心配を他所に、カードには何の呪いも掛けられてはおらず、反対に何やら熱烈なメッセージが書かれていた。ランは余計に困って、文章を全ては読まずにそれらを空き箱に纏めて入れた。
この手の類の話を、ランは非常に苦手としていた。パドマやアマンダ、或いは兄やルーピンに相談するのが手っ取り早いであろう。


ロンからは、ランが何か考え事をしたり本を読む時に噛むハニーデュークス特製のガムのセットだ。味が一時間毎に変化する上に、味が数日間も長続きする優れ物だ──尤も、ランは数日間連続では噛んだことはないので、その真偽は不明であるが。
ハリーからは、様々な原産地のコーヒー豆の詰め合わせ。ランが甘いものが苦手だということを覚えていてくれたのであろう。ランは早速お湯を沸かして入れてみることにした。
フレッドとジョージからは、ゾンコの悪戯専門店の名物グッズの詰め合わせ。一体誰に悪戯をけしかければ良いのかランは散々迷った挙句、送り主である二人に使ってみようと心に決めた。その性能を確認するにはもってこいの二人だ。

それぞれのカードを読むランの口元には、僅かに笑みが浮かんでいる。開け放した窓からは冷気が吹き込むが、ランの心は暖かかった。

*****

薄花色うすはないろの包み紙に包まれたプレゼントには、見覚えのある封筒が添えられていた。ランはまずはその封筒を開けて、中の手紙を読むことにした。

親愛なるラン・ウィーズリー様


ラン、メリークリスマス。元気にしているかい?今年の冬は例年に比べてより一層に寒いね。私は昔から寒いのが苦手で、早く春が来ないか今から待ち遠しいよ。

君がロンや友達と仲直りできて、本当に良かった。大切であればあるほど、人はより慎重になるものだ。
その畏れを大切にすることだよ──その畏れを持つことができるということは、きっと、君を正しい方向へと導いてくれるからね。

ランなら、そうだな…。もうそろそろ学年末の試験の準備を始めた頃かな?教授によって出題傾向があって、私で良ければそれを教えることができるよ。質問があったらその度に教えてくれ。

では、良いクリスマスと年末を過ごしてくれ。来年も、どうぞ宜しく。

リーマス・ルーピン

P.S.質問してくれとは言ったけれど、魔法薬学だけは勘弁してくれると嬉しいな。私はあの科目がとても苦手なんだ…。


ルーピンらしい手紙に、ランはクスリと笑みを零した。羊皮紙を丁寧に折り畳んで封筒に戻して、手紙を保管している少し大きな木箱に入れる。そこにはかなりの数の封筒が並べられており、ランとルーピンの今までの遣り取りが全て保存されているのだ。
その木箱は、Cistem Aperio箱よ、開けの呪文でしか開かないようになっており、ランは更に勉強して、特定の人物以外にはあげられないようする為に改良を重ねている最中である。特に見られて困るような遣り取りはしていないはずであるのに、ランは何故かそれを他の人に見られたくはないと感じていた。
美しい淡い青紫のプレゼントの包み紙に手を掛ける。

「わあ!綺麗…」

ルーピンからのプレゼントは、オルゴールになった木製の小物入れだった。アンティーク調の細工が何とも美しく、彼のセンスの良さが伺える。しかもどうやら、オルゴールを開いた者のその時の心情によって、流れる音楽が変化するらしい。とても高度な技術に、ランは頬を赤らめて興奮した。──そのオルゴールをじっくりと解体してみたい気持ちをグッと抑えて、その仕組みについての詳しい質問は実際に手紙でルーピンに尋ねてみることにした。
更に、カカオ80パーセントの板状のチョコレートが箱ごと包まれていた。ランが甘いもの全般が苦手だと伝えた時のルーピンの反応ったらなかった。きっとそのチョコレート布教活動の一環なのだろうと、ランはクスッと笑みを漏らした。カカオ80%であればランでもきっと食べることができるに違いない。


次にランは、群青色の包み紙に銀のリボンが掛けられた、小さなプレゼントを手に取った。それにも手紙が添えられている。

親愛なるラン・ウィーズリー様


ラン、メリークリスマス!とても寒い日が続くけれど、体調には気を付けてね。

君が皆と仲直りできて、本当に良かった。何だか僕までとてもホッとしたよ。

この前のハッフルパフ対スリザリン戦を見に来てくれてありがとう。良かったら君とまた試合の振り返りをしたいな。君の意見は参考になるから、来年からはそうはいかなくなってしまうのがとても残念だよ…。来年のレイブンクローは更に強敵になるに違いないね。

そう言えば──君ってもう学年末の試験の準備を始めたのかい?本当に真面目だね…!何かあったら、僕で良ければそれを少しは教えてあげられるよ。質問があったら、今度会った時にでも気軽に聞いてね。と言っても、ランに教えられることなんてあまりないと思うけれど、少しは役に立てると思うよ。

プレゼント、君の髪に似合うと思って選んだんだ。今度会う時、良かったら付けてきてくれると嬉しいな。

良いクリスマスと年末を過ごしてね。

セドリック・ディゴリー


「ッ、こんな、高価な物…!」

プレゼントを開封したランは目を見開いた。セドリックのプレゼントは、髪を束ねるバレッタだ。銀細工がとても美しく、ランの夜を閉じ込めたような黒髪に、きっととてもよく映えるであろう。

ランはそのバレッタを、先程貰ったルーピンの小物入れに入れて、机の上にそっと飾った。まるでランの心を表すかのように、小物入れはカーテンの隙間から入る太陽の光に当たってキラリと煌めいた。


ハーマイオニーからは、触り心地の良い靴下と非常に分厚い本だ。靴下はこの冬にぴったりの抜群の防寒と通気性を備えた優れ物である──ランは冷え性なんだから、ちゃんと暖かくして過ごしなさいよ!ホグワーツはとっても冷え込むんだから!とのカード付きだ。まるで母親である。そして、ランが気になっていたとても分厚い『上級者による上級者の為の変身術』という本が、これまたランの興味をこれ以上ない程に擽る素晴らしい本であった。著者である研究者なりの教科書の応用等が書かれており、ランはそれらを今週中に読み込むことを心に決めた。

同じく母のように見守ってくれるパドマからは、若い魔女の間で流行っているというらしいブランドのリップスティックと、そのロゴが特徴のシンプルな手鏡。アマンダからは、同じブランドのアイシャドウとチークだ。まるで示し合わせたかのようなプレゼントに、ランは苦笑した──常日頃からランへお洒落をしろと口酸っぱく言う彼女達らしいプレゼントだ。

母であるモリーからは、ウィーズリー家特製のセーターと甘さ控えめのクッキーだ。ランが甘いものが苦手だということは、家族には当然の如く周知されている。

プレゼントの山を半分ほど開封したところで、ランは朝食を食べる為に服を着替える。肖像画がランへ向かって「メリークリスマス」という声一人一人に挨拶を返しながら、大広間へと降りて行った。

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春風