とある訓練兵Aについての周囲の考察 - 春風
私と腹空かし娘の思わぬ出会い

ドドドドドドド──…!!と、この平和で静寂な真夜中には相応しくない騒音が響いた。


「…?」


足音にしては荒々し過ぎる音を認識し、警戒心を高めて臨戦態勢に入った。その途端、バァン!!と大きな音を立てて扉が乱暴に開け放たれた。


「!!」
「あのっ!今、と、とても良い匂いがしたのですが…!」
「………」


扉を開けた人物が言い放ったその言葉の間抜けさに唖然と拍子抜けをして、その人物を見つめる(と言っても私は今眼鏡を外している為、顔の認識が不可能である)。声の高さからして、どうやら目の前の人物は女の子なのだろう。そして、先程の騒音はやはりこの女の子の足音だったようだ。
…彼女は、ここから数100m離れた寝室からこの蜂蜜の香りを察知してやって来たとでも言うのか。


「(……そんなことより)」


嗚呼、これはどうやら面倒なことになってしまったかもしれない。けれど相手は、今の私が眼鏡を掛けていない為か、私が私だと気付く様子はなさそうだ。
すると、彼女は必死な声で私に訴えて来た。


「な、何か食べ物を!食べ物をお恵み下さい…!私、お腹が空いてしまって眠れなくって…!」
「………食べ物はないけど、良かったら、これ、飲めば」
「!!良いのですか!!ありがとうございます!!」

私が今淹れ立ての紅茶を勧めると、彼女は私のマグカップを掴むなり物凄い速さで飲み干した。…かなり凄い飲みっぷりだ。


「プハァッ…!な、何ですかコレ!とても美味しいですっ!」
「…そんなに美味しそうに飲んで貰えると、その紅茶も、幸せだと思う」
「あなた、良い人ですね!あなたもクリスタと同じ神様ですか!」
「………」


…駄目だ。私のこの鈍い頭の回転速度では、この子の次々と飛び出して来る単語を捌き切れない。軽く眩暈を覚える。
すると突然、両手をガッシリと握られて上下にブンブンと振られた。


「ありがとうございます!私サシャ・ブラウス、この御恩は決して忘れません!」

そう言った彼女は、右手で作った拳で左胸を強く叩き、踵を返すなり走って部屋を出て行った。


「………」


あの子、心臓を捧げて行った。…紅茶をあげただけの私に心臓を捧げるなんて、あの子は馬鹿なのだろうか。そんな小さなことで態々心臓を捧げていたら、心臓なんて何個あっで足りなくなってしまうだろうに。

嵐のようにやって来て、嵐のように去って行った彼女。貴重な蜂蜜をあげたと言うのに、私は不思議と悪い気はしなかった。

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春風