とある訓練兵Aについての周囲の考察 - 春風
私と腹空かし娘の思わぬ出会い

「………」


目を覚ますと、周囲は明かりもなく真っ暗だった。唯一ある光と言えば、窓の隙間から差し込む…一筋の青白い月明かりくらいである。
どうやら私はいつの間にか、この図書館で寝てしまっていたようだ。私が眠りに落ちてしまったのは恐らく夕方頃のことだろうけれど、この物音一つしない静寂感からして今はかなり夜も更けているのだろう。それこそ、月が天に昇って辺りを静かに照らすくらいの時間に。

とにかく、いつまでもここにいてはいられない。私は机の上に置いていた眼鏡を掛けて散乱した勉強道具を一つに纏めて抱え、図書館を後にした。廊下には月光以外の明かりはなく、暗く冷たい風が肌を撫でて来て酷く寒い。


「………」


夕食を食べ逃してしまったせいだろう、胃が空腹を訴えて来た。とは言っても、この時間では流石に夕飯は残ってはいないだろうし、食べ物は何も得られない。いつか内地にて買った蜂蜜を備え置きの紅茶に一滴垂らして飲むことでせめて一晩この空腹を凌ごうと考えて、私は台所へと向かった。


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沸騰した湯を紅茶の葉を入れた小さなポットに勢い良く注ぎ淹れて、蓋をして茶葉を蒸す。数分後に茶漉しで茶殻を漉しながら、濃さが均一になるようにカップへと回し注ぐ。就寝前に目が冴えないようにと薄めにした紅茶は、マグカップの底が透けて見えていた。
そのカップに蜂蜜をポタリと垂らして、ティースプーンでクルクルと掻き混ぜる。蜂蜜が完全に溶け切るまで待つ間に、椅子に座り眼鏡を外してハンカチで拭く。

すると、予想外の出来事が起こったのであった。

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春風