とある訓練兵Aについての周囲の考察 - 春風
髪が綺麗な謎多き同室者

「……シノノメさん、また一人でいるみたい…」
「………」


そう言ったクリスタに、思わず自分の眉間に皺が寄ってしまったのが分かる。…嗚呼、これはややこしい展開になった。これも全て、クリスタの視界にあの女の姿が入り込んでしまったせいだ。


「…だから、この前も言ったろ。止めとけ、関わるなって」
「で、でも、ずっと一人でいるなんて可哀想だもの!そう言うユミルだって、彼女のこと―」
「クリスター!ユミルー!そんな所で何してるんですかー?行きますよー!」


クリスタの言動を遮ったのは、こちらにブンブンと大きく手を振るサシャが私達を呼ぶ声だった。その反対の手には、水汲み桶が掴まれている。そう、今から私達は水汲み当番に当たっているのだ。水を井戸から汲み上げて桶に入れ両手で持ち上げて樽までをただただひたすら往復するという単純且つ退屈なそれは、いつもであれば面倒極まりない作業に思えてならないのだが、今日はそれのお陰でクリスタの追求を逃れることが出来たので許してやる。眉を下げる不満気なクリスタの背中を押して、サシャのいる方向へと足を進めさせたのだった。

皆の女神であるクリスタは、ラン・シノノメのことを放っておくことに抵抗を感じているらしい。やけに分厚い眼鏡を掛けた無口な女であるラン・シノノメは、他の訓練兵からハブられている為に常に一人で行動している。
私はややこしいことには関わりたくはないし、関わらせたくもない。これからの訓練では、自分達がおいて行かれないように、必死でしがみ付いていかなければならないのだから。他人のことばかりに気を配っていられる程に今のクリスタに余裕があるとは、私は到底思えやしないのだ。


「………」


未だラン・シノノメの方を肩越しに振り返るクリスタを横目でチラリと見て、深く溜め息を吐いた。

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春風