とある訓練兵Aについての周囲の考察 - 春風
どうしても気になる彼女

皆が深い眠りの中にいる、深夜のこと。


ガタン──…


誰かが起き上がって動く布の擦れる小さな物音に、私は目を覚ました。深夜の静寂の中では、ベッドや床の軋む音や布の擦れる音は、やけに大きく耳に付く。元より眠りが人よりも浅い私は、物音には敏感な方なのだ。

薄っすらと目を開けた私は、体を起こした人物を見て、一気に覚醒してしまった。


「…!」


何と起き上がっていたのは、前から私が気にしているシノノメさんだったのだ。

こんな時間に、一体彼女は何処へ行くのだろう。起き上がって出て行くシノノメさんをを追い掛けようと体を起こしたけれど、それはのそりと起き上がったユミルによって止められてしまった。


「…オイ、ほっとけよ」
「でも!」
「態々こんな夜中に出て行ったんだ。…聞くだけ野暮ってもんだろう?」


暗闇の中、ユミルはそう言うと、ニヤリと口角を吊り上げて笑った。


「………」


見て見ぬふりをすることが良いことになるなんて、考えたこともなかった。

ユミルだって、そんなんじゃないことぐらい分かっている癖に。けれど、ユミルのそれは、私へ与えられた優しい逃げ道なのだ。


「…分かったら、早く寝ちまいな。明日も朝から立体機動訓練だろ?寝不足だと体が保たねーぞ」
「…分かった」


こんな自分なんて、子供っぽいとも思ってしまう。まるで言い訳をする駄々っ子のようだ。

ユミルの言葉のままに再び布団へと潜り込んだ私だけれど、結局はその後も中々眠ることが出来なかったのだった。

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春風