とある訓練兵Aについての周囲の考察 - 春風
大した面識もないアイツ

「やっぱミカサはスゲェよなぁ〜!」
「どうやったらあんなに速く飛べるんだ?」


木の間を猛スピードで立体機動で飛び巨人の模型の項を削ぎ落とすミカサを見て、同の訓練兵等が感嘆の声を上げるのが耳に入る。その話題の渦中のミカサの後ろを、俺が追い掛ける。


「…クッ、ソ」


嗚呼、またミカサより浅い。しかも、ミカサの背中はぐんぐんと遠ざかって行く。
まただ。また、ミカサには追い付けない。


「……クソォッ!」


これじゃダメだ、ダメなんだ。俺はミカサには勝てないのかよ。
俺はミカサに護られてばかりだ。でも、巨人を駆逐するには、弱いとダメなんだ。巨人を前にして何もできない自分は、もう嫌なんだ。

俺は、もっと強くなる。強く、強く。


**********


「…おい、ミカサ。どーした、何見てんだよ?」
「………」


訓練終了後、ジッと一点を見つめて微動だにしないミカサに、思わず声を掛けた。その視線の先を辿ると……あ、俺の中で少し話題になっているあの女だ。確か、名前はラン・シノノメだっけ。

そのシノノメは今、一人で自分の立体機動装置を掃除している様子だった。そんな彼女を見つめながら、ミカサはその口を開いた。


「あの女は、皆からは貶されているけれど、実は違う。練習の時の彼女は……私よりも遥かに速い速度で空中を飛び、私よりも深く模型の項を削いでいた…」
「は?お前、そんな訳ねーだろ。だって立体機動はお前が一番じゃねーか」
「………違う」


そう否定したミカサは、また暫く黙り込んでしまった。ミカサが他人に興味を示すのは珍しいことだ。そんなにあのラン・シノノメのことが気になるのか?


「それに彼女は…」
「ん、アイツがどうかしたか?」
「…いや。やっぱり、何でもない」
「そうかよ、ならさっさと食堂行こうぜ」


俺との会話を終えたミカサの何かを考え込むような表情を敢えて無視して、俺はさっさと食堂へと足を進めたのだった。


「(エレンは気付けないだろう。立体機動中の彼女は明らかに、殺気を纏っていた。それも…尋常でない程の、禍々しい殺気を)」

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春風