とある訓練兵Aについての周囲の考察 - 春風
肥大する猜疑の念

ベルトルトの様子がおかしい。
そう気が付くのには、少しばかり時間を要してしまった。


「……あ…」
「………」


──またか。

隣の席に座るベルトルトがそう小さく声を漏らしたのが耳に入り、パンを齧る動きを一旦止めた。チラリと見ると、恐らく無意識的にその手を止めてしまっている様子が俺の視界に入る。
コッソリとその目線の先を辿ると、やはりそこにはラン・シノノメの姿があった。右手のスープを掬う筈のスプーンは空に浮いており、完全にあの女に気を取られている。

ここ最近、ベルトルトはこんな反応ばかりしているのだ。まるで…アレだ、思春期特有の“こ”から始まって“い”で終わるアレのような、そんな反応を。


「…ベルトルト、どうかしたか?」
「ッ!!あ、い、いや。別に何でもないよ」
「…そうか」


取り敢えず俺はその度に、内心溜め息を吐きたいのを何とか堪え、まるで何も気付いていないかのようにさり気なく彼の視界からラン・シノノメの姿をフェードアウトさせてやるのであった。


ラン・シノノメは、アルミンとエレン、それに(エレンが来るのに従って、まるで彼に護衛のように付き添っている)ミカサと共に、俺達の使っているテーブルと同じ列にある席へ着いた。話題の渦中のシノノメは、丁度俺の二つ隣に座ってしまった。


「……」


勿論、というのも癪なのだが…ベルトルトの視線は、当然のようにシノノメへと向かう。…思わず、先程堪えた溜め息を吐いてしまいたくなった。


しかし、その時。


「…う、わ……!」


俺の斜め後ろ──つまりシノノメの真後ろにいたジャンが、口の端から搾り出したような掠れ声を漏らすのが耳に入った。
それを不審に思って振り返ると、ジャンはガタン!!と盛大な音を立てて立ち上がり、「俺は何も見ちゃいない俺は何も見ちゃいない…!」とか何とか奇妙にブツブツと呟きながら、ズダダダダと物凄い勢いで食堂を出て行ってしまった。


「(……?ジャンが?アイツに限って、一体どうした?)」


暫くすると、ジャンが全速力で出て行ったことで一瞬唖然と静まり返っていた食堂が、再びザワザワと騒がしくなる。


「(何だ…?アイツまで様子がおかしくないか?)」


ジャンは、保守的な考えを持ってはいるものの、自分の強みや弱みを誰よりも理解している、頭のいい男だ。だからこそ、今の人目を集める不審な行動は、かなり印象に残るものであった。

しかしこの時の俺は、きっと俺の思い違いだろうと判断して、自分の食事へと集中をしたのであった。


**********


しかし。それは思い違いではなかったようで、ジャンのあのような奇行を、俺はその後も度々目にすることとなるのであった。そしてそれと同時に、その度に心配そうな顔をするマルコの姿も、見るようになった。


「オイ、マルコ。最近ジャンの奴、この頃どうしたって言うんだ?何だか様子がおかしいようだが…」
「やっぱり、ライナーもそう思うかい?それが僕にも良く分からないんだよね…」


ちょっと不安だなぁ…と眉を下げるマルコの背中をポンポンと軽く叩いてやる。

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春風