君の鼓動と僕の鼓動 - 春風



「蘭ちゃんも頭良かったんだね」
「………」


最悪だ。千鶴に会えなくなっただけでも最悪なのに、まさかこの人と会うなんて。

私は沖田を横目で軽く睨んだ。相変わらず感情の読めない笑みを浮かべている。

この人、いつも笑顔でいるような気がする、何が楽しいんだか。
沖田も委員長だなんて、信じたくないけど。ホントに面倒だ。


「どうも。では」


私は軽く頭を下げて、沖田の脇を足早に通り過ぎようとする。しかしそれは、手首をガッシリと掴まれたことで阻まれてしまった。


「会議の席順は自由じゃない。ホラ、ここに座りなよ」


そう言って隣に座るように言われる。…ふざけるのも大概にしてほしいんだけど。


「遠慮します。どこに座ろうと、私の勝手だから」


私は、沖田の手を無理矢理振りほどき、窓際の一番前の席に行った。
ついて来やしないだろう、と思ってた。けれど、そこは私が甘かったみたい。

沖田は私の隣の椅子を引いて、そこに座り込んだ。私は周囲を気にせずに、つい思わず彼を睨み付けてしまった。


「…何で来るの」
「どこに座ろうと、僕の勝手なんでしょ?」


ニコニコと笑顔で言い返して来る沖田。
やっぱり、この人負けず嫌いなんだろうな。あぁ、やっぱり面倒だ。


「では今から、学級委員長会議を始めます。今日の議題は、三年の先輩方の卒業式について―」


席を移す時間もなく、沖田と隣合ったままに会議を受ける羽目になってしまった。再び横目で睨むが、それも策略の内なのか、ニコニコ笑っている。私は盛大に舌打ちをして、それからは無視を決め込むことにした。

しかし。


「ねぇ、シャーペン貸してくれない?芯が切れちゃったんだ」


関わらないと決めたのに、会議中にそう小声で話し掛けられてしまう。見ると、ルーズリーフが二、三枚とシャーペン一本しか持って来ていないらしくて。


「好きなだけ使って」


仕方がないので、私は筆箱からシャー芯入れを取り出して、そのまま沖田に渡した。

しかし―………


ギュッ


「!!」


――いきなり手を握られた。


「蘭ちゃんの手、僕と一緒だね」


――豆だらけだよ、僕も。


そう言って、自分の両方の掌を見せて笑った沖田の本心は分からない。いつの間にか自分の右手が沖田の左手で包まれていることに気が付いた私は、彼の手を振りほどいた。

流石女たらしの噂は嘘じゃないみたい。千鶴もこうやってオとされたんだろうな。
何て言いはしなかったけど、私は精一杯の皮肉を込めて言ってやった。


「誰にでもこーゆーことするんだね」
「……誰にでもって、どーゆーこと?」
「そのままの意味だけど」


私はそう吐き捨てて、まだ何か言いたげな表情の沖田先輩を無視して、前にいる二年の新生徒会長の風間先輩を見つめた。


「ねぇ。一回でいいから、剣道部の見学に来てよ」
「は?」
「一君もいるし、今度千鶴ちゃんが復帰した時でもいいから」


そう言う沖田先輩の表情は、至って真剣で。真意が分からない私は、沖田先輩の顔を見つめた。

でも、何で急に?…この先輩のことだから、女の私と手合わせをして打ち負かしたいのかも。


「……千鶴や一先輩がいる時でいいなら、考えてみる」


その挑戦、受けてやる。私の闘争本能に火が付いた。
そう、千鶴の付き添い。そう思えば、全然平気なんだから。それに、久しぶりに一先輩とする手合わせも楽しそうだしね。


この時、沖田先輩が苦い顔をしていたことなんかに、私は気が付きやしなかった。




- 4 / 4 -
春風