君の鼓動と僕の鼓動 - 春風



「君菊先生、東雲はどうしていますか」
「あら、土方先生。どうされたんですか?」
「いや…」


再び襲って来た頭痛のため、またベッドに倒れ込んでいると、不意に聞こえた声。聞き慣れたその声に、私は体を起こした。


「蘭、無事か」


遠慮なく開かれたベッドのカーテンに、思わず苦笑した。


「大丈夫。無事か、だなんて大袈裟だよ。…それに、着替え中だったらどうするのよ」
「うるせェ。つーかお前、何で来た。んな高ぇ熱なら無理せずに休め」


そう言われた正論に、私は口を噤んだ。だって、その通りで何も言い返せないから。


「お前は、昔っから危なっかしい女だな…。ちょっとは周りの目にもなってみろ。ハラハラして仕方ねェ」


そう。
土方先生ことトシさんは、私のお兄さん的存在で。小さい頃からよくしてもらっている。


これを知っているのは、千鶴と、私と同じく昔から剣道関係でトシさんと交流のある一先輩と、昔から仲の良い鈴鹿千先輩ことお千ちゃんと、ここにいる君菊先生だけ。勿論、他の生徒には秘密なの。

それに、私の独り暮らしを知っているのも、この人達だけ。


「お前、これからどうする?」
「………大丈夫、なんて言っても、授業なんて出させてくれないでしょ?」
「ッ、あったりめぇだろーが!お前出るつもりか!」
「っ、冗談だって…。大声出さないでよ、頭に響く……」
「フン、俺をからかった罰だ。自業自得だな」


するとトシさんは、君菊先生の判断を促すかのように、彼女を見つめた。
すると君菊先生は、微笑を絶やさず小首を傾げたまま言った。


「えぇ…。一人じゃ、ちょっと心配よね…」
「なら俺が送る。蘭、今担任に許可取って来てやる。荷物持って来て着替えて支度して、ここにいろ」
「…いい、の?授業は……」
「もう今日は終わった。帰りのSHRまでには間に合う距離だしな」


真っ直ぐに私の目を見てそう言うトシさんに、私は思わず苦笑を洩らす。

だって、私の家は電車で四十分で徒歩二十分と、合計片道だけでも一時間はかかる距離だ。間に合うなんて嘘、良くてギリギリだろう。


「ありがとう、トシさん……」


忙しい筈なのに、親のいない私のために態々仕事を放って。そんなトシさんの優しさが伝わって来て、私は感謝の気持ちを込めてお礼を言った。


「……蘭………」


遠慮なんていらねーんだから、お前はそんな顔するな。俺を、頼れ。

そう言いながら私の頭を昔みたいにグシャグシャと撫でたトシさんは、何故だろうか。今にも泣きそうぐらいに辛そうに顔を歪めていた。

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春風