君の鼓動と僕の鼓動 - 春風



翌日の月曜日の朝だった。

私の体調を心配して、更には生徒らに見られないようにと朝早い時刻にマンションまで私を車で迎えに来てくれた、相変わらずも過保護なトシさん。でも私は、沖田との昨日のことがあったせいで少し気まずくて、トシさんには気付かれないように私は何気無く目を逸らしていた。
その途中の車内で、不意にトシさんが言った。


「蘭。………お前、誰かに何か言われたか?」
「…え?」
「さっきから、俺と目を合わせようとしねーから」


そう言うトシさんを見つめると、少しばかり不機嫌そうな様子だ。私は咄嗟に謝った。


「ごめん、なさい」
「…何があった」


―――あぁ、これは隠せない。


こちらを鋭い目付きで見つめるトシさんに、嘘は吐き通すことは出来ないことは、昔から分かっている。
こんな風になったトシさんには、どんな嘘を吐いたって、どの道バレてしまうのだ。


「………昨日の日曜のお昼に突然、沖田が来たの」
「………総司か」
「うん。それでね………その、付き合ってるのかって、聞かれた。私と、トシさんが」
「………。そう、か」


思い切って言ったのに、案外トシさんの反応は普通で、私は逆に困ってしまった。

車は、いつの間にか学校の駐車場に止まっていた。朝早い学校には、生徒や教員らの姿は見当たらない。


「えっと………勿論嘘だってしっかり否定したからね?ごめんなさい、変な勘違いがあるくらいに、私がトシさんに頼りすぎちゃって」
「………チッ、総司の野郎…」


そう言うと、黙り込んでいたトシさんの表情が歪められた。教師らしくない発言は敢えて無視して、私はトシさんの反応を仰いだ。


「………俺は、嘘じゃねェって言って欲しかったんだがな」
「………え?」


トシさんが私の方を向いた。気が付くと、トシさんの綺麗な顔が目の前にあった。


「分からねーか?………俺は、お前が好きなんだ」
「………私も、トシさんのこと、好きだけど?」
「違ェよ。………俺ん中のお前は、恋愛対象の女、だ」
「ッ!!?」


それを聞いた私の頭は、瞬時に真っ白になってしまった。


まさか。
まさか、有り得ない。


「つーか逆に、俺の中の恋愛対象はお前だけだ。他の女なんてどーでもいい」
「………トシさん、私を、揶揄ってるの?」
「馬鹿言うな、俺の目を見ろ」


その言葉につられて目線を上げると、真剣な色をしたトシさんの深い藍色の瞳があった。


「年齢差や立場なんて気にしねェ。蘭、俺はお前に本気だ」


チュッ―………


私は気が付くとトシさんにキスをされていた。後頭部に手を添えられているため、その行為中に頭が逃げることは許されなかった。


それはとても長い時間に感じた。
暫くして私の息が切れて来た頃に、トシさんは私を解放した。


「………今直ぐにとは言わねーよ。徐々にでいいから、俺のことを、一人の男として見てくれ」


肩で息をする私とは違って息一つ乱れていないトシさんは、どこか切なげな顔で微笑してそう言った。


でもこの時の私は、気付けなかった。

この一部始終を、誰かに目撃されていたことなんて。




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