君の鼓動と僕の鼓動 - 春風



「あんなこと、言っちゃった………」


蘭ちゃんの顔を見ていられなくなって屋上を飛び出して来た僕の両目からは、次々と後悔の涙が溢れた。


「…僕って、最低だ……」


―――土方先生なんかに嫉妬して、勢いに任せてあんなことを言ってしまうなんて、僕って本当に情けない。これじゃあ、完全に蘭ちゃんに対する八つ当たりじゃないか。


「沖田、先輩………?」
「………何」


聞き慣れたその声に目を上げると、潤む視界で見えたのは、案の定千鶴ちゃんの姿だった。
眉を下げて心配そうな表情をしているけど、今の僕にとっては正直会いたくもない鬱陶しい存在でしかない。


「あの、これ、使って下さい」
「………僕のことはいいから、どっかに行って」
「良くないです!」


渡して来たハンカチを断ったのに、千鶴ちゃんは声を荒げて僕に反論した。


「今の沖田先輩は、壊れてしまいそうなぐらいに見ていて不安定なんですから…」


真剣な声色で目を潤ませてそう言った千鶴ちゃんは、僕が何も抵抗しないのを良いことに、グイッとハンカチを押し付けて来る。

勢いに押されて思わずハンカチを受け取ったは良いものの、使う訳にも行かずに手に持ったままにした。すると千鶴ちゃんが言った。


「信じられないですっ!沖田先輩をこんなにした蘭ちゃんって、本当は酷い女の子なんですね!」


その言葉に、全身の熱が一瞬にして冷める。けれどそんな僕の様子には気付かずに、更に千鶴ちゃんは続けようとした。


「私は蘭ちゃんと仲良くしてましたけど、そんな子なら―」
「あのさぁ」


―――嗚呼、もう限界だ。


蘭ちゃんの悪口を言う千鶴ちゃんが、何故かとてつもなく醜く思えた。黙って相槌を打つことなんて出来る訳がなく、これ以上耐えられなかった僕の口からは、乱暴で荒々しい口調のままの言葉が飛び出して来た。


「蘭ちゃんを悪く言うな」


自分の口から出たのは、低い声だった。黙り込んだ千鶴ちゃんを確認する暇もなく、自分の口からは勢い良く言葉が流れて来た。


「蘭ちゃんは何も悪くないんだ。しかも、千鶴ちゃんは蘭ちゃんと友達だったんだよね?女の子の友情ってそんなものなの?」
「っ!そ、それは………」
「君は知らないかもしれないけど、蘭ちゃんは、君を無理矢理犯して泣かせた僕が許せないって、初対面だったこの僕に学年も関係なしに突っ掛かってきたんだよ。なのに、君は良くそんなことが言えるよね」
「…っ……」
「僕にバレていないかとでも思ってた?しかもさ、僕が無理矢理犯したなんて嘘だし、あの時は君が僕を求めていたじゃない。君がこうまでして僕や蘭ちゃんに付き纏うのは、僕にまだ気があるからじゃないの?嫉妬に任せて、そんなこと言ったら駄目だよ。…いい加減、被害者ぶるのも止めてくれないかな」


そこで言葉を切り、やっと一息を吐く。何か言いたげな千鶴ちゃんが口を開く前に、僕は止めに言った。


「僕が誰とどんな恋愛をしようとも、君はもう関係ない。だから、もういい。今度から僕は僕なりに、正直に蘭ちゃんに思いをぶつける」


―――絶対に、蘭ちゃんを捕まえる。


そう胸に誓って、その場をさっさと後にした。


「……っ…」


そんな僕は、千鶴ちゃんが唇を噛み締めて拳を握り締めていたことに気付くことが出来なかった。




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