チロルチョコ2


「ねえねえ。松田くん」
「あぁ?」
「この前の公欠のときのノート全部貸してあげるから1個聞きたいことあるんだけど」
「面倒クセェことだったら断る」

#ちか#がたとえば?と問えば、松田は#藁科#はそーいうタイプじゃねえけど降谷と仲良くなりてェとかくっそ面倒と、存外親切に答えた。実はそれ以上に面倒かもしれない。#ちか#は内心で思うだけで、口にも顔にも出さないように努めた。だってばれたら絶対断られる。

「降谷くんはどーでもいいんだけど、チロルさん知ってる?」
「ハァ?」

結局、あの日。#ちか#の店員としてなってない対応もどこ吹く風でチロルさんはスマホをシャリーンと言わせて帰って行った。そしてその後も、またその後も何事もなくやってきていつも通りにチロルチョコを買って帰って行った。つまり、対チロルさん的には何の進展もない。

ただ#ちか#の方が、夏希のせいで無駄にチロルさんを意識してしまって、恥ずかしいやら何やらどうしたらいいのかわからなくなっていた。そしてそんな混乱する頭でついうっかりチロルさんが買う度に同じチロルチョコを買い集めてしまったものだから、#ちか#はバイト仲間から日々生温かい目で見られるようになっている。非常にまずいことこの上ない。

そしてそんな風にして集まったチロルチョコはどんどん#ちか#のポーチに溜まっていく。後ろの席の松田に話し掛けながら、#ちか#はひとつずつ丁寧に松田の机に並べ始めた。

ミルクがみっつ、#ちか#の好きなホワイトクッキーとビスケットがふたつずつ、少し苦手なコーヒーヌガーと食べたことのないきなこもち。季節限定がよっつ。イチゴゼリーが入ったのがふたつ。ピラミッドを完成させて顔を上げれば訝しげな松田と視線が合った。

「チロルチョコ流行ってんのか?」
「流行ってるのかはわかんないけど、全部あげるから、チロルさん知ってるか教えてくれない?」
「いやだから、チロルさんって何」
「わたしのバイトしてるコンビニでいつもチロルチョコ買ってく人」
「充分面倒クセェじゃねぇか」

とは言うものの、#ちか#の話を聞いていた松田の口角が上がる。あ、ちょっといいなって思ってるのとかいろいろバレたかな、と#ちか#が思うのとほぼ同時に松田の口が開いた。

「#藁科#の趣味を疑うな」
「ま、まだ気になってるだけ」
「へー、まだ、ねえ」
「意味深に区切らないで!松田くんだってそんな人がバイト先にいたら気になるでしょ!」
「#藁科#とは違う意味でな」
「ほら、もう。だから!チロルさん!知ってるか教えてってば」
「だったらまずそのチロルさんの身体的特徴を言わなきゃわかるわけねーだろ」

それもそうだ。うっかりしてた。#ちか#は、目の前にあるチロルチョコをひとつ取って、ペリペリと包み紙を開く。結局自分で食うのかよ、と文句を言う松田のことは無視した。

「うちの高校の制服着てて、背は松田くんと同じくらい、かな?」
「学年は?」
「わかんない。髪は黒かった!あとちょっと長め!」
「へー」
「目がちょっと垂れてて、大人系な人」
「良い奴そうだけどイタズラ好きそうな顔してんだろ?」
「そうかなぁ?てことは、やっぱり知ってる?」
「それ萩原だろ多分。萩原研二。隣のクラス」

チロルチョコピラミッドから視線を外していた松田の長い指が机を滑る。#ちか#に向けて漢字を示したのだが、文字に残らないそれを#ちか#が理解することはなかった。

まあいい、とチロルチョコをいくつか摘んだ松田がガタン、と立ち上がる。

「チョコもらったからな。面倒だけど付いて来いよ」
「え、ちょ、待ってってば、」
「あと明日、コーラ二本追加な」

そのまま#ちか#を振り返らずに教室の前のドアから出た松田はすぐそこにある隣のクラスのドアを迷いなく開けた。チロルさん知ってるかとは聞いたけど、会いたいなんて一言も言ってない、と#ちか#が拒否する間もなく松田は躊躇なく教室に頭を突っ込んだ。

「萩原!」
「え?松田?何?」

振り向いた男子を視界にいれた途端、#ちか#の体中に電気が走る。いつのまにか逃げないように松田に捕獲されていた左手首を渾身の力で振り払った#ちか#は、自分の教室に逃げ込んだ。
ぴしゃり、と閉めたドアに寄りかかれば、まるで全力疾走した後みたいに心臓が波打っていた。

「どうしよう、チロルさんがいた…!」


(170529)

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