起きろ、と大きく肩を揺らされてようやく意識が浮上してきた私はうっすらと瞼をあければむっとした表情のバアルさんが視界に入った。不思議そうに私を見つめるハンニバルさんの姿もある。
 意識が覚醒してすぐに今の状況が呑み込めるほど私は察しがいいわけでもないので、何度か瞬きをして少しだけ考える間を作る。そうだ。夜の間は此処で休息をとることになって、一度起きたはいいけどバアルさんの言葉に甘えてまた寝たのだった。バアルさんの背後を見れば陽射しが漏れてきている。正確な時刻まではわからないがあれからあっという間に朝になっていたようだ。

「おはよう…ございます。ふぁ」
「なんだ。まだ寝足りないのか」
「いえ、そういう訳では…もう平気です」
「ならこの島を離れるぞ。心当たりがある場所はほとんど調べつくした」

 小さく欠伸をする私を見て相変わらず眉間に皺を寄せたバアルさんだったが私の体力がそこそこ回復していると確認できると少しだけその表情を緩めた。強がりを言ってるわけでもなく、お陰様で飛行する体力も十分に戻っている。バアルさんの言葉に頷けば彼は踵を返して洞窟の入り口へと出ていく。私もお尻についていた砂を軽く払ったあとにその背中を追って入り口まで走ると勢いよく跳んだ。バアルさんに続いてふわり、と身体を浮かせる。
 移動を始めて少ししてバアルさんに追いついた私はふと今後の行先が気になったので訊ねる。

「此処からどこへ行くんですか?」
「すぐ近くの島だ。あまり人の出入りがなく魔物の住処になっている。未開拓の地に眠っている可能性は他の場所よりも高いはずだ」
「了解です」
「お前、戦闘能力はそれなりにあるんだろう」

 バアルさんは私とナタクさんの手合わせを見ているから何となく私の力については計り知れているようだ。それなりには、と返せば足を引っ張らない程度は動いてくれよ、だなんて悪態を吐かれてしまう。

「私が強すぎて驚きますよ」
「ふん、言ってくれるな」
「ふふ。ナタクさんには負けますけどそれなりに戦闘には自信があるので。…援護よろしくお願いします」

 私は誰かのサポートをするよりもどちらかと言うと前線で斧をぶんぶん振り回しているほうが力を大いに発揮できる。バアルさんが戦っているところを見たことはないが、共鳴の反応を探ったりできる力があるということはどちらかというとサポートのほうが上手そうな気がする。そんな憶測からそう伝えれば彼はふっと笑った。笑ったりすることもあるんだなあ、なんてちょっとだけ心臓が浮つく。

「早速お出迎えのようだな」
「しょうがないです、ね!」

 島が見えてきてとりあえず近場に降り立とうと思えばその前に何体かのドラゴンが私たちに敵意を向けて飛んできていた。私は手に斧を握ると力をこめる。ぶわり、と火が斧の切っ先に宿り、それを大きく振りかざして一撃お見舞いしてやった。「性格と攻撃方法は正反対だな」なんてバアルさんがつぶやいたのを聞いて少し恥ずかしくなったのは討伐に集中して聞こえなかったことにした。


***


「とりあえずこれでひと段落、かな」

 ドラゴンの腹部に深く突き刺さった斧を引き抜いて肩に担ぐ。辺りには特に敵はいないように思うが、念のためバアルさんの意見を求めようと振り向くと彼も同じように武器を魔物から離して血を振り払っていた。楽器のような見た目だけど私の持つ斧のように使うこともできるのか…思ったよりも攻撃的だと彼にばれないように思う。

「周囲に不審な気配はない。問題ないだろう」
「よかった。…怪我とかはない、ですか?」
「そんな俺は軟じゃない」

 私のサポートをしつつ周囲の一掃を手伝ってくれていたわけだから相当な実力なのだろう。もしかしてナタクさんより強いのかな、なんて思っていたが私の心を見透かしたのか「ナタクには負けるがな」なんて一言が付け加えられた。依然ナタクさん最強説は継続である。
 一息ついたバアルさんがこの地を探るように共鳴反応を探り始めた。楽器のようになる重低音にまだ慣れずドキドキと高揚してしまう。

「あちらに属性の反応がある」
「行ってみましょう!」
「…おい」

 バアルさんの言葉を聞いて私は思わず駆け出そうとする。その前に呼び止められて一歩を踏み出すのみで留まるとバアルさんはじろりと私の頭からつま先までを観察するように見ていた。

「どう、しました?」
「なんでもない」

 バアルさんは何かを確認しているような感じだったけど、なんだったのだろうか。何か変なところでもあるのかと自分の身体を見える範囲で確認してみるが特になにもない。体調も悪くないし。呼んだのになんでもない、なんてバアルさんのしたかったことがよくわからなかったが、彼の気のせいか何かだったならそれはそれでいいかと割り切り私は新たな島探索を始めるのだった。