暫くして寝息が再び聞こえてきたのを確認して視線を改めて彼女へと向けた。まじまじと見てしまえば変に気を遣わせてしまうだろうと思って敢えて視線をハンニバルに落としていたが思ったよりも早い就寝である。

 口では平気だと言って日中はあのメンツに付き合った後にメドゥ―サの姉探しのためにあちこちに赴いていたがそれなりに疲れが溜まっていたようだ。顔に疲労を浮かべていたから休憩をとることを提案して正解だったとつくづく思う。
 あまり自己主張の強そうな部類には見えないから此処に来る前も少し無理をしてメドゥーサに着いてきたのだろう。他人のペースというものを考えてやればいいのにと居ない奴のことを思い起こして小さくため息をついた。

「(特に不審な点はないようだな)」

 無防備に洞窟の壁に凭れて眠るその姿を見るとこちらの気が少し緩んでしまうような気がした。変に相手を脱力させるところはサテュロスに似ていると思う。

「(彼女の旋律は思っていた以上に複雑だ。外に出たのはメドゥーサの姉達の為とも言っていたが心の中を見た限りでは別の目的が…。…いや、余計な詮索をしすぎたかもしれない)」

 寝ている彼女の隙をついて念の為にと自身の能力で彼女の深層意識を覗いてみたが想像していたよりもいろいろと彼女は溜め込んでいるようだった。彼女が『夢』を見たのもおそらく俺が精神へ干渉を図ったからだろう。

 同じ目的を持つ者同士は惹かれ合うというのだろうか。不思議な感覚だ。俺もメドゥーサも、そして彼女も。見つけたいヒトがいる。そしてそんな俺達が何の縁か行動を共にしているという偶然と偶然が重なった。運命とかそういうものがあるとは思わないが永く生きていればこういうことがあってもおかしくはないだろうとは思う。

 何か力になれるといいのだが。

 そんな気持ちが生まれていることにふっと気が付いて俺は自嘲気味にわらった。たった一日行動を共にしただけというのに随分彼女に絆されてしまっているようだ。それくらいには彼女の存在感というものが非常に強い。気弱な癖に何故こうも。大きく息を吐く。

 とはいえもう少し彼女の本心を知るまでは警戒を解く訳にはいかない。穏やかな日々を過ごせているのだから、それを壊されるわけにはいかないのだ。なるべく面倒事も起こるなら早いうちに潰しておきたい、というのもある。
 これ以上彼女の性格を知ろうとするのは余計な詮索だ。あくまで知るべきなのは彼女がどういうつもりで外へ出てきたのか、ということだけ。

 気を持ち直して俺は再び周囲の気配探知を始めることにした。重要な探知が完全に気を紛らわせる行為となっている。膝の上のハンニバルが変わらずナマエを視線で追っていたが、それには気付かないフリをした。