「バアルさんの肩の猫さんは何というお名前なんですか?」

 食事会も終えて今日は解散の流れになった。ナタクさんは図書館に用事があるそうなのでそのまま街の中へ、メドゥは近くで騎空団の人と落ち合うことになっているそうなので合流地点まで行くことに。私とバアルさんは私がまだ人混みに慣れていないのをバアルさんが配慮してくれて元居た森へと戻ることにした。
 森への道中でふとずっと気になっていた話を振ってみる。紫色の毛並みをした猫さんは私が話題を振るとにゃあ、とまるで返事をするように鳴いた。意外に賢い猫さんなのだろうか。

「ハンニバルだ」
「使い魔さんですか?」
「そんなところだ」
「そうなんですね。よろしくです、ハンニバルさん」

少しだけ歩くペースを速めてバアルさんの横につく。手を伸ばしてハンニバルさんの頭をそっと撫でてみると心地よさそうに目を細めてくれた。かわいい。

「ふふ、可愛い。よしよし」
「っ…」
「バアルさん?」
「なんでもない!」

 ぷい、とバアルさんは顔を背けてしまう。何に対してそんなご立腹なのかはわからないが追求したらメドゥとしているような口論の二の舞になりかねないので私は特に彼の機嫌が元通りになるのを待つことにした。
 
 歩き進めて数十分。森の奥深くまで来て少し寛げそうな空間を見つけた私たちは休息をとることにした。
 切り株に腰かけたバアルさんは弦楽器のようなものを顕現させる。念のためにこの近辺に探しビトであるメドゥのお姉さんたちがいないかをバアルさんがチェックするようだ。彼が弦をかき鳴らせばそれに呼応して独特の音が耳を刺激する。

「不思議な音色、ですね。なんだか気持ちが高揚するような、」
「お前、音の良さが解るのか」
「い、いえ。なんとなく、なんで感覚ですね」
「…悪くない感覚だ。このソロモンドライブのパトスを理解できるのは」
「ぱと…?それはよくわかんないですけど、でもバアルさんの事少しでも解ることができたなら嬉しいです」

 わたしの言葉にバアルさんがきょとん、とする。弦をかき鳴らす手は止まってしまった。にゃあ、とハンニバルさんが代わりに鳴く。

「どうかしましたか?」
「……なんでもない。此処に共鳴反応はない。アイツの姉達はいないようだ」
「残念です…」

 バアルさんがれぞなんす?確かめる時には武器を使うという風に別れ際のナタクさんからは伺っていたが改めてその力が不思議で魅力的なものだと思う。音楽というものに触れる機会なんてほとんどなかったからよくわからないこの高揚感はきっと好奇心からきているのだろう。

「あの、バアルさん」
「なんだ」
「その武器で他の音楽?は弾けるのですか?」

 私の言葉にバアルさんは答えることはなかったが、代わりにもう一度武器を鳴らす。ひとつひとつと紡がれていくメロディーはとてもかっこよくて心に響く。ちょっとだけ刺々しいのに、聞き心地がいい。まるで音楽はバアルさんそのものを表現しているようだった。