あまり夢、というものを見たことがない。休眠期の時も特別何か考えていたというわけでもなかったし私の中で睡眠というのは単なる自己治療のための行為にすぎない。
 しかし今日は珍しく夢を見た。その夢は一体いつのことだったかはわからない。そもそもこれが体験したことのあることかもわからない。そんな曖昧なものだけれど、私はその中で誰かと一緒に楽しそうに笑っている。それはメドゥでもなく、星トモの皆さんでもなく。見たことのないヒト。けれど感覚がそのヒトが誰か、というのは認知できた。あれは紛れもなく私の探しているヒトだ。あれはたぶん、


「……、ん、」

 ぱちり、とそこで私の意識は覚醒してしまった。目覚めてしまうと夢というものはどんなものだったか思い出すのは難しいようだ。大切なヒトの顔を見た気がしたのだけれど、どんなヒトだったっけ。

「…どうした」
「…夢を、見てたような気がして」

 私の反応が不思議だったのかバアルさんが訊ねてきた。私はぼんやりと覚えていたことを話す。

 サテュロスちゃんと別れてそこそこな距離を進むとすっかり外は暗くなってしまい、夜は洞窟で過ごすことを決めたのだがどうやらそこでうとうとしてしまっていたようだ。少し離れた所ではバアルさんが武器を弄っている姿がある。彼が武器を触っていた音がほとんど聞こえなかったけど私はだいぶ熟睡してしまっていたのだろうか。

「眠ってしまっててごめんなさい、見張り代わります」

 頼りっぱなしは良くない。私もやれることはしたいと目を擦りながらそうバアルさんに話しかければ彼は緩く首を横に振った。

「無理を通す活動をするくらいなら休める時は休め」

 私の提案にそう言葉を続けるバアルさん。どうやら私の身体の調子を見抜いているようだ。けれど同じ距離を行動しているわけだしバアルさんだって少なからず疲れているはずだ。彼ばかりにやはり頼るのは、という気持ちは拭えない。

「バアルさんは平気なんですか?」
「もう慣れた。多少寝ずに活動するくらいは支障はない」
「すごい」
「お前も星晶獣なら慣れれば活動時の体力くらいコントロールできるだろう」

 バアルさんぱっと顕現させていた武器を消す。代わりにハンニバルさんがぴょこりと肩から降りてバアルさんの膝の上に乗った。顔色は特段悪そうには見えないし本当にけろっとしているので疲労も見えない。本当にそうなのかそう見せているのかはわからなかった。
 結局バアルさんの眼力には勝てないので私はもう一度態勢を崩す。けれどすぐに寝付けずぼんやりと洞窟の天井を見つめていた。するとバアルさんが口を開く。

「良くない夢だったのか」
「いや、そう言うわけでは…うーん、どうなんでしょう」
「…俺に聞くな。わかるわけないだろう」
「確かにそうですね。でも、」

 忘れてはいけないことを思い出させてくれた気がする。そう伝えればバアルさんは「そうか」と一言だけ返してゆっくりとハンニバルさんを撫で始める。やはり主人の膝の上は心地が良いのか気持ちよさそうにしていた。
 そんな姿をぼんやり見ているとようやく睡魔が戻ってきて私を呑み込んでいく。バアルさんが何か言葉を紡いでいたような気がしたけれど微睡んだ私はそれが何と言っていたのかはわからなかった。
 でも最後に「おやすみ」とひどく優しい声が聞こえたのだけは間違いないだろう。