▼2023/04/30:血染めのリリィ
『過去を、未来を変える事は簡単な事じゃないんだよ?』──そんな事、知ってる。
『この世界にだって…帰って来られる保証も無いって、分かってる?』
──分かってますよ、勿論。
『……本当に、行っちゃうんだね』
──…ええ。私をここまで育ててくれて、有難う御座いました。どうか、お元気で。
W……さようなら、マトイさん。W
▼
「………、……」
「おや、やっと目が覚めた様だね。何だか寝言を洩らしていた様だけど、嫌な夢でも見ていたのかい?」
「……ルーサーさん」
クヴァリスキャンプ付近に建てられた大きなロッジで迎えた、何度目かの朝だった。
重い瞼を開けて声のした方向へ視線を向けると窓側で寄り掛かり、恐らくは三男か祖父の物であろう一冊の本を読んでいる男が一人。
セレナは寝起き特有の鈍い動作で半身を起こすと、緩く首を振ってみせた。
──懐かしく、腹立たしい、そんな夢を見てしまったがすぐに忘れようと思って忘れられる様なものではない。
「…時間逆行してくる前に、居た世界の…夢ですよ」
「それはさぞかし、思い「出したくない様なモノです」おっと」
ギロリと効果音がつく様な睨みを喰らい、ルーサーは咄嗟に両手を上げて『冗談さ』と肩を竦ませる。
まるでこれ以上首を突っ込んだり茶化すと彼女の場合は本当に自分を仕留め兼ねないから。
血染めのリリィ
(マトイさんを、ずっと好きになれなかったのは──何処か自分の生き写しの様にしか見えなかったから)