「醜い」なんて言わないで 11
次の日、休暇の日だったので朝の集会が行われる後の時間に十一番隊舎へと訪れた。この時間ならまだ任務に行くことがなく隊舎に滞在していると思ったからだ。
ぞろぞろと集会所から出てくる隊士の中から彼を見つけようとするが、なかなか見つからない。ひ弱にも見える私が十一番隊舎にいるのを不思議そうに見る隊士たち。穴があくほど見られて恥ずかしかった。
一部の隊士はいつも物資を届ける私を覚えてくれていたようで、私に誰か探しているのかと尋ねてくれた。いつもは他の隊士とともにいるが今は一人でいるためいつもは感じない威圧感に圧倒されてしまう。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。
「あ、あの! ……綾瀬川五席はいらっしゃいますか」
「綾瀬川五席?」
「さっき副隊長と話してなかったか?」
どうやらまだ取り込み中のようだった。そうなんですね、ありがとうございます。と言って目立たないところで待とうとした。
「ここだよ」
その時綾瀬川五席が待ち構えていたかのごとく現れた。彼の背後には斑目三席がいた。彼に行けと言わんばかりに顔で指示されると綾瀬川五席に「お話があります」と伝えた。すると彼は「待っていたよ」と言った。どうやら斑目三席が彼に話をしてくれていたらしい。何やら訳がありそうな私たちの空気に、周りの隊士たちは注目していた。この状況では下手なことが言えそうにない。
「おら、お前らはさっさと見回りに行け!」
すると斑目三席が周りの隊士をその場から退けてくれた。大きな声で返事をした隊士たちはそそくさと隊舎を出ていった。
「ありがとうございます」
斑目三席にお辞儀をして再び綾瀬川五席を見ると目を逸らして複雑そうな表情をしていた。昨日のことが気がかりになっていた様子だった。気まずい雰囲気が数秒流れたのち意を決して彼を隊舎から連れ出した。
「どこまで行くつもりなんだい?」
綾瀬川五席がそう言ったところで歩みを止めた。隊舎から少し離れた所だった。彼の方を向くとお互いに気まずい雰囲気が流れる。掴んでいた腕を「すみません」と言って離すと「何?」と目を逸らしながら言う彼。明らかに機嫌の悪そうな彼が口をとがらせていた。息の詰まりそうな空気に負けないよう、一息ついて覚悟を決めた。
「昨日は見苦しいところをお見せして、すみませんでした」
素早く頭を下げると頭の上から困惑した声が聞こえた。
「どうして謝るんだい。君は悪くないだろ」
ゆっくりと頭を上げると私が謝るとは思っていなかったのか、彼は目を丸くしていた。
「それでも、綾瀬川五席の話を最後まで聞く前に逃げてしまったので……」
ばつが悪そうにお人好しすぎるだろと呟いていた。彼が何を思っているのか、まったく読み取れなかった。肝心なことを、聞かなくては。
「あの、醜いということなんですが」
「……僕は間違っていないよ。醜いと思ったからそう言っただけさ」
目を逸らしツンとした態度でそう言い放つ。今の状況で改めて醜いと言われるとやはり胸に重くのしかかる。醜いとは思っているのは事実だった。もしかすると冗談ではないかと期待していた。しかし、斑目三席に言われた「醜いものは見ない」という言葉を思い出す。その理由を尋ねるため今日ここに来たんだ。
「あぁ。もう! 君は僕に謝って、どうしたいんだい」
黙って考える私を見て半ば自棄になった彼が問いかけた。私は、彼とどうなりたいんだろう。彼に……。
「あなたに嫌われたく、ない……」
消え入りそうな声で言うと再びチクリと胸に刺さる。彼は真剣に私の話に耳を傾けてくれていた。
「でも、好きになってほしいとは言わないんです」
そう、欲張らない。彼に今後関わらなくともいい。それでも彼を見ることぐらいは許されてほしい。彼を好きなこの気持ちは大切にしたい。視界は潤んでいて今にも涙が零れそうだった。
「……あなたがおっしゃるように、私は醜い容姿なので当然です」
自らを卑下する言葉に更に目頭がツンと熱くなる。不愉快そうな表情をした彼が眉間に皺を寄せた。
「君、それ本気で言ってるのかい?」
「え、そう……ですけど」
先ほどまで真剣に聞いていた表情とは一変して怖いほどの空気を放つ彼にひやりとする。彼が何に対して怒っているのかわからず困惑する。彼が私の言葉にあからさまに溜息をついた。
「僕が醜いと言っているのは、君の容姿ではないよ。というか、君の容姿が醜いなんて一度も言ったことない」
彼が何を言っているのか処理できない頭の中は考えれば考えるほど訳がわからなくなる。
「え、でも。綾瀬川五席は――」
「……その呼び方、やめてくれないかな。弓親でいい」
こんな時に突然下の名前で呼べと言われても変えられる気がしない。
「……弓親五席」
「弓親」
「ゆ、弓親……五席」
「……今はそれで勘弁してあげるよ」
なぜか及第点だということでこの呼び方で許された。強情な彼に調子を狂わされている気がする。だめだ、ちゃんと聞かなくては。
「ゆ、弓親五席、私の顔を見ていつも醜いっておっしゃっていたではないですか」
「そうだね」
「じゃあ――」
「でも違う。僕が言っていたのは、君の容姿のことではないよ」
違う? それでは何が醜いと言うんだろう。あからさまに顔をしかめた私に再度溜息をついた。