ただ彼を目で追うだけ 01

「十一番隊ってむさ苦しいよね」

 仲の良い四番隊の女性隊士同士の飲みの席で十一番隊隊士の話が出た。私の心臓がドキリと音を立てるのを周りに聞こえてないことを祈る。皆、お酒がいい感じに回ってきたようで、踏み込んだ話題を大きな声でしているため気づいていないようだった。幸運なことに、周りには護廷十三隊の隊士もいない。
 
 そうかな、と誤魔化してはすぐにお酒に口をつけ、あくまで平静を装う。瀞霊廷は広く、護廷十三隊内の一から十三番まである隊舎は互いに遠く関わりが少ない。そんな私も、隊長でもなければ席官でもない一隊士であるため他の隊との交流の機会はほとんどない。

「そうだよ。『更木隊は最強!』とか言っちゃってさ〜」
「たしかに。皆さん喧嘩っ早い印象ですね」
「そうそう! すぐ怪我してくるくせにまともに治療も受けたがらないんだから!」

 彼女たちの会話に耳を傾けつつも鼓動が少しだけ早くなるのを感じる。これはお酒のせいにしてはだめだろうか。盛り上がる会話に置いていかれた私はお酒を飲み続ける。
 なぜ私がこんなにも『十一番隊』という言葉を聞いて戸惑うのか。十一番隊を恐れているわけではない。
 憧れの死神ひとがいるからである。他の隊とは関わりが少なくとも、私の所属する四番隊は特殊で、治療や補給が主に毎日の任となっている。そのため、一方的にではあるが隊長や席官の顔と名前は把握している。

 中でも、私たちがしっかりと記憶しているのは十一番隊。彼女たちが言うように彼らは派手な戦いをしては度々負傷をしてくるむさ苦しい集団、四番隊ではそういった共通認識がある。たしかに彼らの言動からするとむさ苦しいと言われても仕方がないと思う。

 しかし、そんな『むさ苦しい』中にも一人だけ爽やかな雰囲気を纏う隊士がいる。あの有名な斑目一角第三席と共に行動する綾瀬川弓親第五席だ。いつも無茶な戦い方をしては派手な怪我を負う斑目三席と共に四番隊隊舎に訪れては彼と楽しそうに話をしている。斑目三席の治療中、楽しそうに眺めては揶揄ったりしている。普通はそれを面白がるところなのかもしれないが、私にとってはそんな彼が隊士の中でも輝いて見えていた。若竹のような黄みがかった色調の緑色の睫毛、そして濃淡のはっきりとした紅緋色と金糸雀カナリア色の眉の毛束。彼自身を表現しているかのような綺麗な色合いが、彼をより一層引き立てている。

 容貌が美しいことから女性隊士に密かな人気を集めているが、その分変わった性格らしく、彼に積極的に話しかける女性隊士は少ない。私は彼の容貌と同時に彼が作り上げる雰囲気や表情に目が向いていた。そんな彼を見かける度に興味が掻き立てられ、気づいた頃には自然に目で追うようになっていた。

 あ、今日は不機嫌そう。

 今日はとても機嫌が良さそう。何か嬉しいことでもあったのかな。

 斑目三席と何か言い合いをしてる。楽しそうだなぁ。
 
 ただの人間観察のようなものだと言えば聞こえはいいが、明らかにそこに好意があることは自覚していた。彼の些細な仕草や行動を遠くから静かに眺めるのが好きになった。彼の訪れる時間が楽しみになり、十一番隊士が現れるたびに彼を探していた。治療に来ない方が良いに越したことはないはずなのに。

 斑目三席が大きい声で話すため、すぐに見つけることができた。斑目三席には申し訳ないが、彼が現れることで綾瀬川五席が来る合図のようになっていた。いつも斑目三席と共にいるときは楽しそうに話している。きっと彼は親友の勇姿を眺めるのが好きなのであろう。彼の瞼が三日月を象ると同時に揺れる綺麗な毛先を見ては心奪われる。ころころと変わる彼の表情を盗み見ている時は時間が経つのを忘れた。

 代り映えしない慌ただしい私の日常を、彼が容易く色づけてくれた。
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