FA


・企画より
・いきなり始まる

・だいたい六年生〜七年生くらいの話
・鋼はだいたい三巻かくらい









生まれ変わったりとか、次元を越えたりとか、しかもその越えた先の世界が自分が知ってる世界だったりっていう経験ってそう無いと思うのよ。でも、そういう経験をしたのが俺だけじゃなくて、もう一人いるんだっていうから、まあ、意外と珍しい事じゃないんだろう。
みたいな事考えてるからこういう事が起こったのかもしれない。
マーリンの髭!




「…どういう事なんだろうねこれは」
「僕が知ってると思うか?」
「いやまったく」

俺とレグルスは、ホグワーツからマグルの町へと帰るホグワーツ特急に乗っていたはずだった。つまり列車の中はどこもかしこも魔法使いの卵である生徒だらけのはずなんだ。
だから、こうやって時代錯誤の恰好をしてる老若男女で溢れてる事や、銃器を持っているおっさんたちがテロまがいの事を叫んでいるのも、またおかしい事であって。
でも、一番おかしいのは、目の前で素晴らしい体術でおっさんたちをなぎ倒している少年と、天井に頭を擦りそうな程に巨大な鎧と、何故か戦っている途中で華麗に脱衣した大男が駆使している術の方だった。

「くっそ、気を付けろ!こいつら錬金術師だ!」
「少佐、アル!そっち任せた!」
「了解した!」
「気を付けてね、兄さん!」

アグレッシブにも走行中の汽車の窓から車両の屋根へと移動した小柄な少年は、あっという間に消えていった。上からガンガンと走っているような音が聞こえる。なんなの彼。なんであんな手馴れてるの。慣れてるの?

「ボスに伝えろ!そんでありったけの重火器持ってぶふぉあっ」
「一般人もいるのにそんなの持って来ないでよね」

持ち運び式らしき電話で通信を行っていたおっさんの一人に、鎧が強烈な拳の一撃を放つ。背丈の割に案外幼い声で喋っている中の人に俺は全力でツッコミを入れたかった。鎧よ、君は一般人じゃないのか。
あまりの状況に置いて行かれている間に、スキンヘッドにほんのちょっぴり、アイデンティティ程度に金髪をちょろりと生やした大男はまるでボディビルダーのようにいちいちポージングを取りながら、車両を占拠していたおっさんたちを全員捕縛した。

「さて、次の駅までもう少し時間があるな。アルフォンス、先に行くか?」
「えっと、僕はここの人たちを見張ってます」
「そうか。気を付けるのだぞ」
「少佐も、お気を付けて」

少佐と呼ばれた大男は、脱衣したままだった服をきちんと畳んで自分の荷物の上に置くと、前の車両の方へと移動していった。服着ないのかよ。
俺は呆れたまま大男が去って行った方向を眺めていると、ぐすぐすと泣き声が聞こえてきた。思わず振り返ると、斜め向かいに座っていた女の子が眼にいっぱい涙をたたえていた。おっさんたちが気絶した事で、テロに遭ったというショックが今になって襲ってきたんだろう。
鎧はすぐに気が付いて、ガシャンガシャンと大きな足音をたてながら俺達の方へとやってきた。

「えっと、ごめんね。驚いちゃったよね」
「ひう、っ」

女の子は大柄な鎧に出さえも驚いて、隣に座っていた母親らしき女性に思いっきりしがみついた。鎧は自分が怯えられるのに慣れているのか、頬をぽりぽりと掻いている。俺は女の子と何も言えないでいる鎧を見かねて、座席を立った。

「おい、」

向かいに座っていたレグルスが引き留めかけたが、俺は軽く手を振ってそれを諌める。涙を浮かべている女の子の前に膝を付くと、固く袖を握り締めている女の子の手をそっと外した。

「怖かったよな、でももう大丈夫だ。この鎧さんとかがやっつけてくれたからな」
「う、っうー…」
「泣くな。ほーら」

俺は手首をくるりと回して心の中でオーキデウス、と唱えた。ぱちんと手を鳴らして、握った手を開くと小さな桃色の花がふわりと花開く。女の子はびっくりしたのか、涙が止まった。
俺はにっこり笑いかけてその花を女の子の手に預ける。口笛を吹きながら、そこから糸を紡いだ。ぱらぱらと、色んな国の旗が連なっていく。

「わぁ…」

女の子は、花から繋がった万国旗をきらきらした笑顔で眺めた。もう一度ぱちんと手を鳴らすと、ぽんと軽い音がしてそれが紙吹雪に変わる。びっくりして花があった手のひらを見ている女の子にくすりと笑いかけると、内緒話をするように人差し指を唇に当てて、女の子の服のポケットをその指で軽く叩いた。
きょとんとしていた女の子は合点がいったようで、おそるおそるポケットに手を突っ込む。すると、ポケットからさっきとは異なる配列の万国旗がするすると出てきた。見守っていた周囲の席からも、驚きの声が上がる。どこからともなく、拍手が聞こえてきた。

「お兄ちゃん、すごい!」
「ありがとうなーお嬢ちゃん」

車両の隅っこでぼこぼこにされたおっさん共が気絶しているのも忘れて、女の子はきらきらした笑顔ではしゃいだ。俺は頬で光っていた涙の後をさり気なく拭うと、俺は女の子の頭を撫でて立ち上がった。

「あの、ありがとうございます」
「いいって事よ。子守りは慣れてるからな」

とはいえ、さすがに魔法をマジックに応用したのは初めての試みだったが。日頃無駄にいたずらとかに使っていた小ネタが功を奏したらしい。
俺は大柄な体を曲げてお礼を言った鎧に笑いかけて、俺は座席に戻った。

例の金髪の少年と大柄な男のお陰で鎮圧も成功したらしい。俺とレグルスが乗っていた汽車は、滞りなく駅に着いた。
着いた予定だった、はずなんだけどなあ。

「動くな!こいつの命がどうなってもいいのか!!」

どうしてこうもベタな展開が続くんだろうか。
警察はもうちょっと仕事しろよ。ボスは一番きちんと拘束しとけよ。なんで一般人を人質に取られる距離で護送してるんだよ。バカなの?髭なの??

「おい、やめろ!そいつは関係ないだろ!」
「兄さん、ダメだ!彼が危険だよ!」

金髪の少年が何かと叫んでいるが、俺のこめかみに何やら銃口が突きつけられているから何もできないらしい。駆けつけた警察も同じく、ってところか。

「おい、動くなよ」

俺は警察の近くで俺の荷物の近くでレグルスにがっちり押さえられているスカーレットにそう呼びかけた。服の下でごそごそしていた動きがぴたりと止まる。こちらに向かって杖を取り出そうとしていたレグルスにも、待ったを掛ける意味も込めてだ。

「エドワード・エルリック。ここは我輩に」
「動くんじゃねえ!軍の狗め!」

いや意味分かんねえよ。軍の狗って何だよ。某漫画と一緒じゃね?

「(…ん?某漫画?)」

俺はちょっと考えて、じっくりと辺りを見渡してみた。
青い軍服に身を包んだいかつい男たち。軍の狗。筋骨隆々の、特徴的な前髪の大男。
鎧の弟と、金髪金目の小柄な兄。

「(………あれー…???)」

俺はそこである可能性に行きついて、思いっきり現実逃避をしたくなった。
ちょっと待て。つまりここはイギリスじゃなくて、それどころか20世紀末の地球でもなくて。

「分かった、要求を聞こう」
「ありったけのガソリン積んだ車持ってこい!今すぐだ!」

頭の近くでわめかれるのに目を細めながら、こっそりと懐の細い棒へと手を滑らせる。右手さえ当たれば、あとは楽勝だ。
コートの下で指先が杖に当たる。俺は杖の先をくるりと下に向けると、ニヤリと笑ってみせた。

「おいおっさん。足元注意だ」
「あ?」
「(ディセンド)」

おっさんが落ちた。と、周りにはそう見えただろう。正確には地面に吸い込まれただけなんだけどね。

「なあっ!?」

当然叫んだおっさんを前に俺はくるりと回転して、彼の機械仕掛けの腕にぴたりと左手を当て、ニヤリと笑ってみせた。

「くっそ、てめえも錬金術師か!」
「残念、違うね。俺は魔法使いだ──レダクト」

バーンという派手な音がして、俺は勢いでぶっとんだ。粉々呪文は足元の地面にも及んで(わざとだけど)、辺りに砂煙が充満する。俺はレグルスがいた方向へと走り出すと、咳き込んでいるレグルスの手を掴んだ。

「え、どうした」
「ずらかるぞ!」

レグルスのトランクに足を引っ掛け、右手にレグルスを掴み、左手にスカーレットを抱えた状態で一歩を踏み出す。
俺は見たことも訪れた事も無い町中で姿くらましを公然と使って、その場を逃げ出した。








「あの人、どこ行っちゃったんだろう」

遅れた分の手続きをしに行ってくれたアームストロング中佐を待ちつつ、地面にめり込んでしまったテロリストのボスを引っ張り出す事に躍起になっている軍部の人間を眺めながら、アルフォンスはそう呟いた。背の高さを利用して辺りを見渡しても、あの赤毛はどこにも見当たらない。

「逃げたんだろ。大方あいつも悪い奴だったんじゃないのか?」
「悪い人っぽくはなかったんだけどなあ」

舌打ちしている兄を尻目に、アルフォンスはこっそりと溜息をついた。

「そんな事よりもだ。あいつのあれ、見たか?」
「うん。錬成陣も無しに錬成してたよね──兄さん見たいに手を合わせる事もせずに。…傷の男みたいに破壊の過程で止めてたみたいだけど」

エドワードに倣って、アルフォンスは地面に埋もれているテロリストのボスの腕を見つめた。機械鎧は粉々に破壊されている。先日傷の男に攻撃された兄の攻撃がフラッシュバックして、アルフォンスはすぐに動けなかった。大方兄もそうだったのではないかと当たりを付けている。
地面は大きく陥没しており、機械鎧が受けた錬成の威力を物語っていた。とはいえ、錬成痕は全く見当たらない。錬金術に明るくない物でなければ、爆弾か何かを使ったと思うだろう。しかし、辺りに火薬の痕跡も無い。
彼は何者だったんだろう。そういえば、彼と合席だった黒髪の青年の姿も無い。

「鎧さん」

アルフォンスは幼く聞き覚えのある声に、足元を見下ろした。あの女の子が、自分をじっと見上げていた。

「魔法使いさんにお礼が言いたいの。どこに行ったか知らない?」
「魔法使いさん?」

女の子の言葉を、顔をしかめたエドワードがオウム返しにくり返す。女の子は頷いて、しっかりと握りしめていた花と万国旗をエドワードに差し出した。

「フィオが泣いてたらね、魔法使いさんがこれをくれたの!こうやって、ぱちんって指を鳴らしたのよ」
「…っ!」

顔をしかめたまま女の子の手にある花を見つめていたエドワードが、はっと息を飲む。アルフォンスもそれに気付いて、声を詰まらせた。
小さな手に握られていた花を、アルフォンスは造花だと思っていた。しかし、今じっくりとよく見てみると、少しだけしおれたその花は間違いなく、生きた花だった。
たとえ錬金術だろうと、等価交換の原則があろうと、生命を創り出すことはできない──それは、アルフォンスとエドワードが身をもって学んだ事だ。まして、何もない所から命を生み出すなど。

「…アル」
「うん」

アルフォンスは兄の呼びかけに力強く答えた。
もしかしたらあの青年は、自分たちの求めるものを持っていたのかもしれない。





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