魔人探偵


・企画より
・いきなり始まる
・不死鳥らへん






アンブリッジの黒い羽ペンの解析をしていた時だ。席を外していたダンブルドアが、誰かを引き連れて帰ってきたらしい。顔を上げると、まあそれはそれは、隣に立ってる好々爺と肩を並べるほど派手な格好をした男が立っていた。
まず目に飛び込んできたのは紫色のぱりっとしたスーツ。そんなのを着こなしているな、と感じた時点で、小さな星屑を散らしたような銀のローブを着ている爺には勝ってると思った。問題はそこじゃないんだけど。

「謎の臭いがする」

問題はこの近さだ。たった今入室してきたばかりの男がコンマ一秒、瞬間移動で距離を詰めてきて、犬歯の間から涎を垂らしつつ俺の体臭嗅いでる事だよね。

「複雑な芳しい香りだ。貴様自身からも、貴様の周囲からも臭う」

距離感に困って後ずさったら、垂れた涎で机に穴が開いた。ねえ今ジュッって音したんだけど、煙がくすぶってるんだけど、どういうことなの。
吸血鬼の類だろうか。仮にそうだとして、ダンブルドアが校長室に連れてきた意味が分からない。誰かツッコミ入れて。どうしてこういうタイミングで、歴代校長は全員都合よくスヤァしてるのかな。寝息が腹立たしい。涎の件で魔法使いでもマグルでもない事は悟ったよ。

「我が輩は魔人だ」
「なんて?今なんて?」

他でもない本人から斜め上すぎる返答をいただいて思わず聞き返した。ショックがでかすぎて人生で二人目の一人称を我輩にしてる人物(?)とエンカウントした衝撃をスルーしてしまった事にだいぶあとに気が付いた。くやしい。
さて今までスルーしていた校長は珍しく困惑した顔をしていて、曰く。
彼、脳噛ネウロは謎という概念を主食としている魔人──魔法使いから言わせると、魔法生物にカテゴライズされる存在である。ネウロは魔界の謎を食べ尽くしてしまったので、空腹を満たす事の出来る「究極の謎」を求め、人間界に出てきたらしい。そうして一番最初に下り立った場所がホグワーツの校庭で、異変にいち早く気付いた校長によって保護(?)されたらしい。なんていうか、休暇中でよかったね。

「で、俺からその謎の臭いがするってどういう事なわけ?」
「得体のしれない何か、理解できない事柄…そういうものを解き明かした時、そこに謎のエネルギーは生まれる」

うっそりと笑んだネウロの顔がぶれる。人間でいうところのイケメンに部類されるはずの顔が、角の生えた黄色い鳥に変わった。驚いて目を見開く。

「貴様から謎の臭いがするという事は、貴様が何か秘密を抱えているという事に他ならない」
「いって!!」
「おやおや」

息を荒げるネウロの嘴から涎が垂れる。それは俺のローブに垂れて、机が焦げた時と同じ音がして俺は飛び上がった。ダンブルドアが杖の一振りで火傷を治してくれたけど。

「貴様だけではない。ここには謎の臭いが満ちている」

顔を元に戻したネウロは、垂れ続ける涎をスカーフで拭きながらぐるりと周囲を見渡した。さっきから騒がしくしていたせいか、起きていた歴代校長たちはネウロを顔を合わせないようにと顔を額縁よりも下へ引っ込めていく。

「そりゃ、ここが魔法界だからじゃねえの?」
「魔法。それはこの男にも聞いた」

稀代の魔法使いを一瞥したネウロは磨きあげられたその魔法使いの机に腰かけると、長い長い脚を組んだ。スタイル良すぎだろ腹立つ。

「不思議な力だ。普通の人間が持たない能力を訓練しコントロールできるようにする…しかし、魔法のエネルギーは我が輩の空腹を満たさない」
「あ、そうなんだ」
「魔法使いとやらも人間だ。謎が作り出せる点は普通の人間と変わらない。が…ただの人間よりも貴様らが作るものの方が、美味いのかもしれない」

ネウロはハリーとはまったく違う緑色の目で俺を見据えた。獣に狙いを定められたような心地がして、体が強張る。捕食者と被捕食者なわけだから、この感覚は正しかったわけだけど。

「そこのウジ虫。名前は」
「ウジ虫!?名前ですけど!?」
「そうか。名前」

ネウロは机から飛び上がると、天井に着地した。魔界の住人に重力は関係がないらしい。逆さまになった状態で、ぎざぎざの歯を見せながらネウロは笑った。

「貴様はそこのダンブルドアよりもいい臭いがする。食えば少しの間腹が満たされそうだ」

敬語で返事をしてしまった時点で負けだった。と、俺は後にそう語ることになる。

「我が輩は常に空腹だ。貴様の謎、我が輩が食わせてもらうぞ」



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