エンドC
選択……『少し寂しい方が、夜っぽくて好きかも』/『熱帯魚がいないから…?』
…「少し寂しい方が、夜っぽくて好きかも」
「夜らしい、ね。確かに、熱帯魚が寝静まった光景も悪くないのかも。全部零魔ちゃんのために用意した水槽だし、零魔ちゃんが気に入ってくれればそれでいいんだけど…」
「零魔ちゃんがそう言うなら、この水槽はこれで完成かな」と、月灯りを模した青白い光が漂う水槽にきんときさんの視線が泳ぐ。芸術家としての彼の感性はどこか気難しかったが、彼は私の答えに満足したようだった。
「まだ水族館は入り口だし、この先も楽しんでくれると嬉しいな。光の色合いとか、音楽とか、それこそ空気感とか、普段とは全然違うから。気に入った水槽があれば俺に教えてね、今度こそ絵の主役になってよ」
行き場を無くしたらしいイーゼルを抱え直したきんときさんは、鞄からリーフレットを取り出し私に差し出した。午前二時の海で染め上げた様な紙に、真珠色のインクで描かれた水族館の内装が浮かび上がっている。クラゲやポリプの絵で構成されたフレームが、より一層夜の水族館を引き立たせていた。
「じゃぁ、また後でね」
きんときさんは、ゆるりと手を振りながら奥へと姿を消してしまった。
次はどこへ行こうか。
選択……メインフロア『アトランティス』/ リストランテ・アクアリオ
→ リストランテ・アクアリオ
リーフレットの館内図に視線を落とすと、『リストランテ・アクアリオ』の文字が目に付いた。金魚が泳ぐ行燈を模った水槽や金魚鉢に囲まれながら、食事を楽しむことのできるレストランである。この水槽園には頻繁に足を運ぶも、ここに来る際は基本的に一人なのも相まって中々敷居の高い其処へ寄ることにした。
「お、珍し。今日は寄ってくんだ」
「いらっしゃいませぇ」とカウンターの向こう側で揶揄うように笑ったのは、シェフコートに身を包んだシャークんさんだった。普段は忙しなく動いている彼も、今は暇を持て余しているらしい。
「普段は中々入る機会なくて…」
「マ、折角だし何か食べる?夜限定メニューもあってさ、俺のおすすめはこれ」
メニュー表を差し出したシャークんさんは、ドリンクメニューの一点を指先で叩いた。透明なソーダの海の底に、エメラルドのシロップが層を成している。パインとライム、そしてミントを使ったカクテルらしい。
「あと人気なのはクラゲのソフトとか。夕飯まだならミートパイも良いと思う、ちょっと時間はもらうけど」
「どれにする?」と彼は頬杖をついた。
選択……エメラルドのカクテル/クラゲのソフトクリーム
→ エメラルドのカクテル
「…寝たか」
カウンターに突っ伏し、すよすよと安寧に満ちた眠りを享受する零魔の髪を撫でたシャークんは、彼女が深い眠りに落ちたことを確認し横抱きにした。カウンターには、睡眠薬のせいで青みの強い緑になってしまったシロップが残るグラスが佇んでいる。
「さて、どこから食うか」
キッチンのそのまた奥に作られた部屋に零魔を運び入れたシャークんは、皺一つない真っ白なシーツの上に彼女をそっと下ろす。
彼の計画は至ってシンプルだった。零魔が自身のカクテルを選んだ場合、死の瀬戸際ギリギリの睡眠薬を仕込む。そして、酷い睡魔に襲われた彼女を用意していた部屋に運び入れ、眠っている内に今日の食事分を切り落とす。痛みを感じないように、というのはシャークんなりの配慮だった。
「足から食ったら逃げれないよな。今日は右からいくか」
無論彼女の体を全て腹に入れるわけではない。ある程度まで食いつくし零魔が一人で生活できないような体になったら、後は甲斐甲斐しく世話を焼くつもりだ。
「んじゃ、いただきます」
鮫らしい鋭い歯を覗かせた彼は、肉切り包丁を一思いに振り翳した。
エンドC ミートパイ