エンドF
選択……まだ眠る時間じゃない/手を伸ばすのは少し怖い。
→ まだ眠る時間じゃない
ゆらゆらと、クラゲの触手を彩るレェスの裾が揺れる。硬いアクリル板を心底鬱陶しそうに幾度か撫でたその子は、こちらに興味を無くしてしまったかの様にそっぽを向いてしまった。
仲間の元へ帰ったその子をただ漠然と眺めていると、背中にひんやりと冷気が漂う。ぶるーくさんの腕が腹に回ったところで漸く、その冷たさは彼の体温なのだと分かった。
「あーぁ、拗ねちゃった。どうして拒絶しちゃったの?ねぇどうして?僕と一緒に寝るのは嫌?僕のこと嫌いになっちゃった?」
「そ、そういう訳じゃ、」
「そうだよね、零魔ちゃんは僕のこと好きだもんね?今日だって僕に会いに来てくれたし、この水槽だって僕がいるからお気に入りなんだもんね。ここで見せる可愛いお顔だって、僕だけの特権でしょ?」
拒否、裏切り、心変わり。つらつらと言葉を並べるぶるーくさんは、まるで親の温もりに飢えた子供の様に、微かに震えていた。彼のこんな姿を見たのは初めてでどうして良いか分からず、口からは意味のない母音だけが情けなく漏れ出した。
「ずっとずっとここに居て、僕のこと置いていかないで」
選択……また後で/ここにいる
→ ここにいる
ぐにゅぐにゅ、内臓の形が無理矢理変えられるような鈍い痛みで叩き起こされた。意識が覚醒すると同時に経験したことの無い吐き気に襲われ、思わずえずいてしまう。仰向けに横たえられているらしい体を捩ると、また下腹部が痛んだ。
「あ、零魔ちゃん起きた?どうしたの?気持ち悪い?」
「まぁつわりなんて経験したことないもんね。ちょっと薬の量増やそうか、すぐ楽になるからね」
青白い照明に影を作ったのは、ぶるーくさんときりやんさんだった。きりやんさんが点滴の速度を調節している傍らで、赤い瞳をふにゃりと細めた彼の手が私の腹の上を這う。
「ね、ね、ここに赤ちゃんいるの分かる?植え付けた時はまだ卵だったけど、そろそろ孵化する頃かなぁ。きりやん、この子たちいつ生まれる?」
「んー、あと数日もすればってとこかな。零魔ちゃんはさ、神様のママになるんだよ」
「ここに居てくれるって言ったけど、口約束だけだと心配だもん。でもでも、鎖があれば強い約束になるでしょ?生まれてきてくれるの、楽しみだねぇ」
彼の声に反応する様に、腹の中でまた何かが蠢いた。
エンドF赤い糸の苗床