エンドG


選択……また後で/ここにいる


→ また後で


「…行っちゃうの?そっか、また後で、ね。本当はこのまま独り占めしちゃいたいけど、僕はこの先で待っててあげる。だからちゃんと来てね、約束」

 互いの指先を絡めたぶるーくさんは、名残惜しそうにまた水槽の影へと消えてしまった。
 彼には、悪いことをしてしまっただろうか。一抹の罪悪感と少しの安堵に苛まれながら、順路を示すプレートに従い黒海の水槽へ向かう。

 黒海エリアの水槽にはトンネルが通っており、海底を散歩しているような幻想的な空間が広がっていた。深夜の仄暗さを含む蒼い水の中に、様々な姿形をした魚の影が良く映える。降り注ぐ淡い光が一瞬遮られ、顔を上げると一際大きなマンタの影が頭上を通っていた。

「おいでよ」
「すくってもらおうよ」
「つらいこと、わすれられるよ」

 トンネルも終盤に差し掛かった頃、無数の視線を感じあたりを見回すと、全ての魚が冷静にこちらを見据えていた。こぽこぽと聞こえる泡沫の音色に混ざって、微かに聞こえる柔らかな歌声が鼓膜を揺らす。
 スプーン一杯分の好奇心から歌声の方へ視線を逸らすと、普段は存在しない狭苦しいトンネルが水槽の奥深くへ伸びていた。

選択……通常の道を/寄り道を


 →寄り道を

一寸先も視認出来ないような暗い海へと通じるトンネルの中を、歌声を頼りに進んでいく。微かに聞こえていただけの歌声は徐々に全貌を現し、旋律が響き渡る度に微睡の中に落ちていくような感覚に苛まれた。脳を直接撫で回されるような酷い眠気とその歌声だけが、体を支配していた。

「あれ、随分来るの早かったね。その様子だと真っ直ぐここまで来てくれた感じかな?」

 「隣おいで」と歌を止めた彼は、自身の隣をそっと叩いた。誘われるがままに腰を下ろした海底に咲く無数のウミユリの花畑は、とろとろと心が溶けていくような夢心地を惜しげもなく私に与えた。
 振り返るとトンネルは存在しておらず、ここが水槽の中だと自覚するのにそう時間はかからなかったが、今の私にとっては取り留めのない事だった。

「もう、歌に惑わされちゃダメでしょ。俺じゃなかったらどうするの?」
「うん…?」
「ありゃ、おめめぐるぐるじゃん。そんなに良かった?」

 彼の筋張った手が頬を這う。力の抜けた体を彼に預けると、真夜中を映し取った瞳に薄ら笑いの色が浮かぶ。
 口遊まれる深更の歌に、再び耳を傾けた。

エンドG セイレーンの子守唄








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