エンドI
選択……「歌声から逃げて」/「好奇心に負けて」
→歌声から逃げて
「歌…あぁ、きんときか」
「逃げれたなら、まぁ」と態とらしくため息をついたスマイルさんは、鉄材が敷き詰められた床を踏み鳴らしながら一際大きな水槽の前へと進んだ。彼が此方へ視線を寄越したため、恐る恐るスマイルさんの横へと足を運ぶ。月明かりの様な照明が降り注ぐ水槽前で、スマイルさんはまた一つため息をついて重たい前髪を掻き上げた。
「もう水槽トンネルの方には戻らない方がいい。裏口があるから、そこ使って」
「ぁ、はい、あの、ありがとう、ございます」
「…言っとくけど、レプリカだからな」
強いアメジストの双眸で訝しげに此方を見るスマイルさんに、どっと肩の力が抜け宙に溶けて行くのを感じた。十四度の水温に当てられた全身が冷え、イベント用に、と付け足した彼へ今度は此方が安堵のため息をこぼす羽目になってしまう。立ち入り禁止だから早く出ていけとでも言いたげなスマイルさんに背中を押され、バックヤードの裏口から最後のエリアへと向かわせてもらった。
柔らかな仄灯りが心地よい廊下を進んでいると、『飼育スペース解放中』の立て看板が、地下へと続く階段の前に佇んでいるのが見えた。
どちらへ進もうか。
選択…… 最後のエリア『グランド・ホール』/地下の飼育スペース
→ 地下の飼育スペース
「真逆こう上手くいくとはね。飼育スペースの解放とか、怪しいと思わなかったの?」
シルクハットとステッキを作業台に放り投げたきりやんは、水槽を漂う小さなクラゲに水族館の入場チケットの半券をぴらぴらと振ってみせた。四葉の模様が可愛らしいクラゲは、ほんの僅かな水流にも流されてしまいながら燕尾服の彼を見つめている。
「心配しないで、ショーに出したりなんてしないからね」
「まぁ出そうと思っても無理だけど」と付け加えたきりやんは、彼の掌の半分にも満たないシリンジで給餌を行った。もっとも、クラゲは降り注ぐプランクトンを怖がる様に水槽の端に逃げてしまったが。
「まぁ、その内慣れるかな。零魔は俺の手の内でぬくぬくと過ごしてくれればそれで良いよ」
水槽の傍らに置かれている寝台には、零魔の体が横たわっている。体と言うよりも、元の器と言った方が正しいかもしれない。きりやんは彼女を一撫でした後、シルクハットを被り直しステッキを持った。
彼がステッキを一振りすると半券は炎に包まれ、灰となって散っていく。
「これでもう、元には戻れないね」
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