エンドJ
選択……最後のエリア『グランド・ホール』/地下の飼育スペース
→ 最後のエリア『グランド・ホール』
グランド・ホールの床は一面硝子張りになっており、無数のミズクラゲが敷き詰められた水槽の中を悠々と泳いでいる。壁も同様、巨大なアクリル板が嵌め込まれ、目が回る程の種数のクラゲが飼育されていた。吊り下げられた丸い水槽、名付けるならば海月玉の中にも、クラゲへと姿を変える途中のポリプが見える。
柔らかな水流に身を任せ漂う刺胞生物をぼんやりと眺めていたなかむさんは、私に気が付き管理人の帽子を外して恭しく一礼した。
「お疲れ様でした、零魔さん」
「ここはお気に召しましたか?」と完璧な微笑みを見せたなかむさんは、私が使った扉とは逆を指差した。
「ここを真っ直ぐ行けば出口があります。零魔さんの為に扉の鍵は開けてあるので、もしお帰りになる場合はそちらへどうぞ。それで、」
彼はアクアマリンの瞳に、透き通った照明の光をたっぷりと宿しながら一拍置いた。
「零魔さえよければ、ここにいて欲しい。俺は零魔の為なら水族館の管理人でも、医者でも、ピエロでも、ベルマンでも、何でも演じてみせるよ。水族館に飽きたら、次の舞台を用意してあげる」
「だから、ずっと俺らと一緒にいて」
選択……彼の望みのままに/出口へ走る
→出口へ走る
私は無我夢中で出口へと走った。幼子が母親に縋り付く様に私の手を取った彼に多大な危機感を覚え、その冷え切った手を振り払って水族館から逃げた。あの水族館から、一体どうやって戻ってきたのかは分からない。目が覚めると、汗を吸って湿ってしまった安っぽい自室の布団の上だった。
あれは悪い夢だった。そう自分に言い聞かせても、水族館、海、湖畔どころか、水溜りや湯船にまで、自身では到底抑えきれない程の恐怖心を抱く様になってしまった。友人の勧めで精神科に掛かると、海洋恐怖症の類ではないかと診断が下され、旅行でもして気分転換を、と何とも無責任な処方箋を投げつけられた。
汽車の揺れが心地良い。結局私は医者の言葉を鵜呑みにしてしまい、こうして慰安旅行に来てしまった。
「お客様、切符を拝見してもよろしいですか?」
「ぁ、はい。どう、ぞ…?」
車掌の男性へと切符を差し出すと、彼の両手に手を包み込まれる。手袋越しから伝わる冷たさ、制帽から覗くアクアマリン、耳馴染みの良いよく通る声。私は自身の頬が段々と引き攣っていくのを感じた。
「今回のは気に入ってくれるといいな、零魔」
エンドJ 夢か現か幻か