【緑】心配しないで、ふたりぼっちの桃源郷
桜の模様が可愛らしい淡い桃色の便箋には不似合いな、男性らしい角ばった力強い字で零魔の名前が書いてあった。今月に入って三通目、今年で通算五通目だ。桜吹雪の祝福に包まれる卒業式が近付くと、先輩への憧れを恋愛と履き違えた馬鹿からの手紙が増える。
朝ぼらけの文字が似合う早朝に登校し、彼女の下駄箱にゴミが入っていないかを確認するのが幼い頃からの日課だった。大事な大事な幼馴染が初めてラブレターを手にした時の表情が、高校生となった今でも頭から離れない。俺の前で手紙を開け、「ラブレターだった」と頬を柔らかな桜色に染めた零魔。もう二度と、他の男からの邪な恋心で照れ笑いをされるのは御免だ。
「またコイツか…変な気起こして卒業式の後に告白されても迷惑だしな、手回すか」
昨日の放課後に入れられたであろう手紙を握り締め、無心で手紙を破った。最早繋ぎ合わせる事など無謀な程に原型を失った紙屑を袋に入れ、鞄の奥底にしまい込む。男の下駄箱に放り込んでやっても良いと思うが、彼女に激情する可能性も懸念し、零魔へ贈られる物は全て学校外で処分している。
零魔を迎えに行く前にコンビニ寄ってゴミ捨てるか。んで零魔迎えに行って、昼も一緒に食って、あー隣の席なの最高だな。そろそろ引っ越しの話も進めて…折角同じ大学に進学してシェアハウスまで漕ぎ着けたんだからそろそろ鈍い零魔相手でも恋人に昇格できるだろ。
通学路を逆戻りし、立ち寄ったコンビニのゴミ箱へ手紙の残骸を投げ捨てた。公園のベンチでスマホを弄りながら適当に時間を潰し、朝の香りが薄くなり始めた頃に腰を上げる。
彼女を迎えに行く足取りはいつもよりも軽い。昨日遅くまで通話を繋ぎゲームをしていたから、今日は授業中に居眠りをする零魔を見れるかもな。彼女の家のインターホンを押すと、ぱたぱたと愛おしい足音が小さく聞こえた。
「おはよしゃけ!寝坊しちゃったけど、滑り込みセーフ!」
「ん、はよ。ほら手出せ手、学校行くぞ」
きゅ、と温かい彼女の手を包み込む。少し力加減を間違えれば直ぐにパキッと折れてしまうそうな程に小さく、矢張り零魔を守れるのは俺だけだと再認識し無意識に口角が上がるのが分かった。
ずっと俺が守ってやるからな、零魔。