【青】魔法少女殺し
「惨めだね」
生ぬるい空気が漂うお昼時、ゲームセンター帰りの私の前に彼は現れた。何か巨大な、ねっとりとした肌を持つ蛞蝓に似た生物に飲み込まれてしまったような、息苦しい梅雨の日だった。いくら重厚な雲が音を吸い込んでいるとは言え、遠くで微かに甲高い断末魔と地の底を這うような建物の崩壊音が響いているのが分かる。曇天の空に伸びる薄汚い煙の根元にあるのは、ショッピングモールだったか学校だったか。魔法の光が土埃に乱反射して、マリンスノーのようにきらきらと光っていた。
そんなありふれた日常の中で、彼だけが異例の存在だった。
「あの、返してください。大切なものなんです」
「もう、俺は拾ってあげたんだよ?そんな警戒しないでよ」
出会い頭に「惨め」と私を罵った人物は、魔法少女のステッキを模ったおもちゃのキーホルダーをまじまじと見つめている。透き通ったプラスチックの宝石を爪で弾いたり、壊れてしまったチェーンを通す金具部分を指の腹でなぞったりと、好き勝手に触り続けた。
「へぇ…安っぽいね。すぐ壊れちゃうし、紛い物だし。今の零魔ちゃんにそっくり」
「返してあげる」と私の手のひらにステッキを押し付けた彼は、そのまま私の手を包み込んだ。じっとりと湿った空気を押し出す様に力を掛けられ、プラスチックがしなり小さく鳴いた。
「…はなして、ください」
「ふふ、今の零魔ちゃんは無力だもんね。髪もリュックもこんなに可愛くしちゃって、まだ諦め切れてないの?もう二度と魔法少女にはなれないんだよ」
おもちゃのヘアクリップ、おもちゃのブレスレット、おもちゃのキーホルダーに、おもちゃのコンパクト。十円にも満たない価値のラムネ菓子が添えられた女児向けの食玩を鼻で笑った彼は、「惨めだね」と再び囁いた。魔法少女の衣装に似たセーラー襟のワンピースが、雨の匂いを含んだ風に揺れる。
「叶わない夢見て、楽しい?」
私から夢を奪った張本人は、真夜中の銀河から零れ落ちたような瞳を細め、微笑んだ。
彼はもう二度と出会いたくない人物だった。夜空に翳したラムネのビー玉、花屋の一角を占領する人工的な青い薔薇、母から誕生日に贈ってもらった海底色のオードトワレの小瓶。彼の瞳を彷彿とさせる色が目に入る度に、内臓がグジュグジュと音を立てて収縮した。途方もない吐き気、無気力、憂鬱。彼が私の宝石を割った光景は、今でも度々悪夢として私を襲い続けている。
そんな現実から逃げたくて、自分はまだ魔法少女であると思い込みたくて、小さな女の子に混ざり魔法少女の格好をして自分を守った。
「その様子だと、俺のこと覚えてくれてるみたいだね。嬉しいな、零魔ちゃんの中にずっと俺が蔓延ってるんだ。好きな子の中に入り込めるって、これほど幸せなことはないよ」
私の目線に合わせて恭しく腰を折った彼は、まるでダンスを申し込む御伽噺の王子様のように私の手を掬い直した。魔法少女のキーホルダーが、塗装し直されたコンクリートへ叩きつけられる。
「ここで俺が零魔ちゃんの宝石を壊しちゃったんだよね。零魔ちゃんの中に入り込みたくて、態々零魔ちゃんを魔法少女に選んで。俺をずっと想ってくれて、俺に魘されてくれて、俺の夢を叶えてくれてありがとう。だから今度は零魔ちゃんの夢を叶えてあげる」
こっち側で、魔法少女になってみない?
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お誕生日なのでね(滑り込み)元魔法少女と、敵幹部のおはなし
魔法少女が持ってる宝石は敵が作ったって設定が好きです、夢主を堕とすために作った大舞台
空と赤ver魔法少女殺しは青い鳥に〜!