【黄】でっちあげの揺籠
「零魔はね、おおきくなったら魔法少女になるんだよ」
いつになく真剣に、そしてあまりに舌足らずな様子でぬいぐるみに話し掛けているものだから、込み上げる笑いを抑え込むのが大変だった。零魔はどうやら返事が無いのが不満らしく、ぬいぐるみの胴体を両手で掴んでがくがくと揺らしている。
この後「お話し聞いてくれない!」と泣き付いてくる彼女が容易に想像できた。その証拠に、とてとてと酷く愛らしい裸足の足音が近付いてくる。
「きりやん。ねぇやん、あの子ね、お話し聞いてくれないの」
「えぇ!それは酷いね、意地悪されちゃったね。よしよし、いらないあの子はここから追い出そっか」
鍋を火から下ろし、背中に抱き付いてきた零魔を正面から抱き締め返した。ほんのりとミルクの香りが移っているのか、襟元に顔を寄せてすぴすぴと鼻を鳴らしている。首筋をふわふわと擽る髪に指を通すと、そろそろ伸びた髪を切ってあげなければいけないと思った。今の零魔ならば鋏を近付けても怖がらないだろうから。
「やん、なに作ってるの?」
「あったかいミルク。零魔の分には蜂蜜いっぱい入れてあげる」
わぁ、と素直な感嘆詞を漏らした彼女の額に口付けを落とし、まろやかな白乳が揺れる鍋に向き直った。あらかじめ温めておいたマグカップ二つにミルクを注ぎ、零魔のカップにはティースプーン二杯分の蜂蜜を溶かし入れる。彼女は美術館に飾られた芸術品をガラス越しに鑑賞するかのように、ぽやぽやと熱に浮かされた瞳でその様子を眺めていた。
俺の手元を何の疑いも無く、じっと眺める零魔は愚かで可愛い。シュガーポット、に見立てた薬瓶から金平糖によく似た薬を取り出し、彼女の目の前で、彼女のカップに落とし、かき混ぜた。
「零魔、あーんして」
ティースプーンに残ったミルクを彼女の口に含ませると、桜色に染まった頬がふにゃりと緩んだ。来年も、その次も、来世も、こうしてずっと二人で幸せに暮らしていこう。
幼児退行しちゃって、可愛いね。