【青】窒息しちゃうね


こぽこぽ。
 冷たい水をかき分けるように、反射歴に口から漏れ出した泡が水面へと昇る音がする。まるで人魚姫の最後の様だと、酷い酸欠に苛まれる頭で考えた。矢張り冬場の浴室は寒い。寒い。シャワーから溢れる冷たい水道水を含んだ部屋着が肌に張り付いて、余計に寒い。手足は既に寒さを感じる事がない程に、冷え切っていた。

 彼によって綺麗に結えられた髪の毛を引っ掴まれ、漸く浴槽から引き上げられた。げほ、と可愛さの欠片もない音が肺から漏れ出すと、先程まで一切の表情を消していた彼の蒼穹の瞳が、やんわりと弧を描く。

「俺に何か言うこと、あるよね」
「ごめ、んなさい」

 体の震えを無理やり抑え込み、彼と目を合わせて謝罪の言葉を紡いだ。肩で息をする度に、きんきんと耳鳴りがする。手放しそうになる意識を何とか手繰り寄せ、再び謝罪の言葉を繰り返すと、きんときはふんわりと微笑んだ。

 あ。怒らせちゃった。

「上っ面の謝罪なんていらないからさ、零魔の行動の何が駄目で、どうすれば良かったのか教えてよ」

 既に目も当てられられない様な跡で飾られた首元に、男性らしい角張った大きな手が這う。一昨日の光景が寸分狂わずそのままに浮かんできて、頬が引き攣るのが分かった。きんときはそんな私にもう一度柔らかな笑みを見せ、何とか言葉を紡ぐことのできる瀬戸際まで力を込める。


「さ、もう一度ごめんなさいしようね」
「ぁ、ぉ、お外のこと、気にしちゃって、ごめ、ごめんなさい。きんときにお外、の、こと、忘れるって約束したのに、」
「うん。俺悲しかったなぁ、最近ようやくいい子になってくれたと思ったんだけど。それで?どうすれば良かったの?」
「きんときが帰ってきたら、ちゃんとお出迎えして、ぉ、おかえりなさいって言って、きんときと、自分のことだけ、お話し、します」

 低体温と再び訪れた酸欠に頭をくらくらさせながら答えると、彼は心底幸せそうに頬を染めながら私にジャージを羽織らせた。袖の部分が濡れてしまっているが、そんな些細な事は気にならない程に自身の体が冷えていると気付かされる。冬の水道と涙が混ざった液体に濡れる両頬を包み込まれ、額に、瞼に、鼻先に、唇にと温かな口付けが落とされる。

「ごめんなさい、ちゃんと言えて偉いね。俺もちょっと酷くし過ぎちゃった。仲直りしよっか」

 濡れ鼠の私を軽々と抱き上げたきんときは、床が濡れることも厭わず私をあの部屋へと連れ戻す。「明日はケーキ買って帰るね」「晩御飯は温かいものにしよっか」「今日は一日何してたの?」と、先程まで人間を浴槽に沈めていたとは到底思えない様な声色で私を安寧へと導いた。

 温度管理の行き届いた部屋のベッドに、二人して雪崩れ込むように身を任せる。私に覆い被さったきんときは、壊れかけの硝子細工を握り潰す様に呟いた。

「俺は死んだ零魔でも余裕で愛せるけどね」








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