それから幾月が立ち、アスカは何度目かの父の出航を見送っていた。
アスカはあれから不安定だった精神も安定しつつあり、やっと我儘を言うようになった。
初めて我儘を言ったのは不安もあったが、父であるシャンクスが初めてのアスカの我儘に天にも昇る勢いで喜び、今まで色々なアスカの我儘を全て叶えてきた。
アスカはシャンクスのその様子に『ああ、私って愛されてるなァ』と思ったが、だからと言って無理な我儘や頻繁に我儘を言って父を試すことはなかった。
アスカはどうしてか、クールガールへと成長してしまったのだ。
「アスカ!男には乗らなきゃならない波がある!」
「うん」
「冒険がある!」
「うん」
「スリルがある!!」
「うん」
「たたかいが…」
「
行くなら行くで早く行ってよ、パパ」
アスカは港で父とのお別れをしていた。
お別れと言ってもまたすぐに戻ってくるが、シャンクスは愛娘との別れを渋り先ほどで何十回のやり取りをしていた。
「ミコトー!アスカが冷たい!慰めてくr――ぐはッ!」
「触らないでくださいな、変態の癖に」
「大丈夫か?シャンクス」
「学習能力がないよね、パパって」
正直、このやりとりはシャンクスの娘となった時からずっと行われているやり取りで、今ではこれがテープ替わりの出港式とも言えた。
自分の愛が重くしつこいというのを自覚していないシャンクスは冷たくあしらう愛娘に涙し、自称俺の嫁のミコトに抱きつこうとするもお約束で殴られてしまう。
女性陣2人の攻撃に倒れるシャンクスにルフィが駆けつけるその光景はすでに見飽きていた。
学習しない父へアスカは溜息をつく。
「ほらお頭、行くぞ。」
「ベン!てめぇ!家族の別れを邪魔する気か!?」
「誰が家族ですか、誰が。」
基本、シャンクスを名では呼ばず変態と呼ぶミコトは当然家族と言う枠に入っていることに拒絶した。
いや、アスカと家族であるという意味でなら大歓迎だろう。
アスカは何の間違いかシャンクスの娘と生きなければならなくなったが、ミコトにとって溺愛している弟と共に可愛い妹なのだ。
だが、変態の妻になる気は更々ない。
いくらノリで娘として受け入れたとしても、シャンクスが血の繋がった娘以上の愛情をアスカに注いでいるのは認めるし、人には簡単に真似できないところは尊敬もしている。
だが、変態の妻になる気は更々ない。(二回目)
ミコトが冷たく突き放したら、それはコントの終わりを意味し、ベンはミコトからの『早く引き取ってくださいな』という非難の目を向けられながらベンの首根っこを掴む。
「じゃあな、ミコト、アスカ、ルフィ。」
「えぇ、また。今度こそ変態を連れて来ないでくださいね。いい迷惑です。」
「いや、船長だから無理だ、それ…」
「今度はいつくるんだ!?」
「まあ、この間よりは早く来れるな…それまで待ってろよ?お土産持ってくるから」
「お土産なら食べ物がいい。ルフィのせいで冷蔵庫が底つきかけてるから」
「…お前はいい奥さんになるぞ……」
「?」
「馬鹿野郎!アスカは俺とミコトの愛の結晶だ!誰にもやらん!!」
「あんたは黙っててくれ。」
「死ねばいいのに。」
「パパ、うざい。」
「"あいのけっしょう"ってなんだ?」
ルフィを除く3人の冷たい目にシャンクスは泣く泣く大人しくベンに引きずられて船に乗って去っていった。
シャンクスが海へ出て幾月が経った頃、ルフィとアスカはマキノの酒場でジュースを飲んでいた。
2人は以前よりも仲が深まり、いつ見ても二人一緒だった。
仲がいい事は悪い事ではない。
むしろ村人たちにはすでに『大きくなったらあの2人は結婚するだろうな!』と噂されるほどで、中には『ルフィならあの赤髪のシャンクスも許すんじゃないのか?』という意見と『いやいや!いくらルフィでもあの親馬鹿海賊船長がアスカに悪い虫がつくのを許すはずがねえ!』という意見で分かれており、今やその話題は村人達の酒のつまみとなっているのだが、全員が全員アスカとルフィはくっついている前提である。
もしあの親馬鹿船長が許さないと言っても彼らは2人を祝福する気満々である。
最近は『アスカとルフィが結婚したら最初の子供の性別はどっちだ!』という気の早い話題も出始めていた。
自分達の知らないところで大人達が自分達を勝手にカップルに仕立て楽しく酒のつまみにしているのを知らない2人はいつもの場所でいつもの飲み物や食べ物を楽しんでいた。
勿論子供の2人に自由に出来るお金などなく、支払いは全てミコトが纏めて払っている。
当然、ミコトも10歳のため、そのお金は最近孫娘が増えてウハウハなガープ持ちである。
「もう船長さん達が航海に出て長いわね…そろそろ寂しくなってきたんじゃない?」
シャンクスが海へ出てから静かな店を見渡しながらマキノはカウンターに座っておやつを食べ終えそれぞれ好きなジュースを呑んでいる2人にそう呟いた。
「「ぜんぜん!」」
マキノの言葉に二人は声を揃えて否定し、そんな二人にマキノは苦笑いを浮かべる。
「お姉さまが居るし、パパが帰ってこないとお姉さまを独り占めできるからいい。」
「アスカ!姉ちゃんを独り占めすんなよ!…おれはまだ許してないんだ!あの山賊の一件!おれはシャンクス達をかいかぶってたよ!もっとかっこいい海賊かと思ってたんだ!げんめつしたね」
ルフィはアスカの言葉に怒るが、アスカは相手せずジュースを飲んでいた。
アスカはミコトの手伝いで家に居てその場に居なかったが、山賊がこの酒場に来たらしく、それも山賊と海賊の鉢合わせだったらしい。
山に生きる男と海に生きる男はどうも気が合わないらしく、山賊は海賊であるシャンクス達を馬鹿にした挙句、シャンクスに酒を浴びせ侮辱したらしい。
それでもシャンクスは反論も反撃もせずただ笑っていたらしく、ルフィはそれが許さないと当時騒いでいた。
因みに、要らない情報だが…アスカはミコトをお姉ちゃんと呼んでいたが、いつの間にかお姉さまに変わり、盲目なまでに敬愛していった。
村人はそんなアスカの将来が心配だと口々にもらす。
「そうかしら?私はあんな事されても平気で笑ってられる方がかっこいいと思うわ」
「マキノはわかってねぇからな。男にはやらなきゃいけねぇ時があるんだ!!」
「そう…ダメね、私は」
「うんだめだ」
まるで大人のような言い方にマキノは可愛く見えてクスクスと笑う。
拗ねているルフィはコロコロとコップを転がし、アスカはまだ飲み干していないジュースを飲み干す。
その時…
「邪魔するぜェ」
マキノの店に噂をしていた山賊たちが入ってきた。
山賊の姿に店全体が凍り付いた。
まだ時間が時間のため人はおらずマキノとアスカとルフィしかいなかったが、それでも緊迫した空気に変わった。
「げ…」
「……………」
入ってきた山賊にルフィはあからさまに顔を歪め、アスカもルフィとマキノの反応や大勢いるその恰好や人相から山賊だと分かり、顔をしかめながら飲み干したコップを置いて山賊を横目で見る。
「今日は海賊共はいねェんだな、静かでいい…また通りかかったんで立ち寄ってやったぞ」
山賊達は店の中に目障りな海賊が居ない事に機嫌を良くし、それぞれ思い思いの所へ座り、『何ぼーっとしてやがる!おれ達ァ客だぜ!酒だ!!』と声を荒げて机を叩く。
その音にアスカもルフィもマキノもビクリと肩を揺らし驚く。
山賊に急かされたマキノは慌ててありったけの酒を山賊たちに配り、アスカも手伝おうとしたがマキノが断った。
やはりアスカは子供だし、危険な事はさせたくないのが大人なのだろう。
アスカは山賊に対し、『早く帰れ!』と心の中で罵る。
山賊達は出された酒を飲み、ご機嫌だった。
酔っていたのもあったのだろう…話題はシャンクスたちとなり、侮辱した内容の話題に思わずアスカとルフィが反応する。
「あの時の海賊共の顔見たかよ?酒ぶっかけられても文句一つ言えねェで!!情けないねェ奴らだ!!はっはっはっはっはっ!!」
「………っ」
山賊達がシャンクスを馬鹿にして大笑いする中、アスカは拳を握り俯いて怒りを抑えていた。
アスカは強者という物を知っている。
シャンクスにとってあの山賊達は取るに足らない弱者だろうが、まだ子供のアスカにとったら大人というだけで強者となる。
それでもやはりノリで父となったとしても、それ以上に愛してくれている父親の事を笑う輩をアスカはどうしても許せなかった。
「おれァああいう腰ヌケ見ると ムカムカしてくんだ。よっぽど殺してやろうかと思ったぜ。海賊なんてあんなモンだカッコばっかで…」
「やめろ!!!」
「ああ!?」
我慢したが握っているその小さい拳を机に叩きつけようとした時…ルフィが声を上げた。
ご機嫌だった山賊達は声を上げたルフィに水を差されたと睨み、ルフィは怒りで我を忘れているように怒り顔で山賊を睨みつける。
アスカとマキノは突然のルフィの行動に呆気に取られていた。
ルフィは全員の視線を集めながらも椅子から降り、憧れているシャンクスを笑う山賊とその頭を睨む。
「シャンクス達をバカにするなよ!!腰ヌケなんかじゃないぞ!!!」
「やめなさいルフィ!!」
「シャンクス達をバカにするなよ!!!!」
「ルフィ…」
どうしても憧れのシャンクス達海賊を馬鹿にする山賊が許せなくてルフィは山賊に喧嘩を売る。
山賊はルフィの言葉に嘲笑めいた目線を子供に向け、ルフィは山賊の怒りに触れてしまい首根っこを掴まれ店から連れ出されてしまった。
店をゾロゾロと出ていった山賊達に連れ去られたルフィにマキノは顔を青くさせ慌てふためく。
「あぁッ!なんてこと…!!――アスカ!私は村長さんに知らせてくるからあなたはここから出ちゃ駄目よ!?」
「あっ…!」
マキノは喧嘩を売ったのはルフィからだとは言え、子供を見殺しにはできず、アスカの返事を待たず村長のところへ向かった。
アスカはマキノの背を見送ってしまい、子供ながらにどうしたらいいのか考える。
落ち着きのない動きであっちへこっちへ歩きながら考え、アスカはある人物を思い出す。
その人物にアスカはハッとさせ慌てて店を出た。
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