その日、ミコトは洗濯物を干していた。
まだルフィとアスカが自分よりも幼いため、必然的にミコトが家事全般を任されており、村の人達からは大変だなと言われたりもするが、実際は能力を使って家事をしているためそれほど大変ではなかった。
―――ミコトは能力者である。
それも全ての能力を使える能力を持つのだが、その悪魔の実とも疑わしい能力は幼い頃から使えていた。
ミコトは普通の人とは違い、赤ん坊の頃を覚えており、母の胎内にいたころや生まれ落ちた時に見た母と父の顔、そして10年間、そして"それ以上"の憶がミコトの脳に詰まっていた。
だからミコトは他の10歳の子供より大人びているのだ。
「洗濯ものはこれで終わりね…次は…」
能力で水を出し、泡を出して洗い、水にぬれた衣服は独りでに絞られ勝手に物干し竿に向かって浮き上がって綺麗に並ぶ。
これらは全てミコトの能力だった。
今は家事で使う能力だが、いずれ海兵となりその能力は人に向けられるだろう。
ミコトは人を傷つける事に抵抗がないわけではないが、目標のためならそれもやむを得ないと考えている。
よし、と腰に手をやり物干し竿に綺麗に干されている洗濯物を見て満足げに笑った。
次の作業に取り掛かろうとしたとき…
「お姉さま!!!ルフィが…助けて!!!」
ミコトのもとにアスカが駆けつけてきた。
それも泣きそうな顔をして、である。
切羽詰ったようなアスカにミコトとルフィという言葉にミコトは何かあったのかと駆けつけ抱き付いてくるアスカの肩に手を置き、しゃがみ込み顔を覗き込む。
「ルフィがどうしたの!?」
「ルフィが!マキノさんが止めたんだけどルフィ怒ってて!止められなくて!!山賊に連れられて!私店に居てねって言われたけどいても立ってもいられなくて…!」
「アスカ!落ち着きなさい!ルフィの所に案内してちょうだい!」
「うん!」
混乱して何を喋っているのか分からないアスカにミコトは落ち着かせようとする。
山賊という言葉にミコトは以前ルフィが愚痴っていたのを思い出す。
あの場はアスカは勿論ミコトもいなかったが、ルフィから話を聞いていたためルフィが山賊になにかされていると察した。
山賊も海賊と同じく野蛮な者も多いため、ミコトはアスカにその場所に案内させる。
アスカはとりあえずマキノの店に案内した。
ルフィがどこに連れていかれてしまったか分からなかったからだが、案外場所を突き止めるのは早かった。
村の人達が山賊を怖がって家に閉じこもっており、フーシャ村は今誰一人外にいなかった。
だから山賊の耳障りな声がミコト達のところまで届いたのだ。
その声の方へ急いで向かうと、山賊がルフィの頭を踏んで地面に押し付けているのが見え、アスカは『ルフィ…!』と零し顔を青くさせ、ミコトは弟の頭を踏んでいる山賊を見て頭が真っ白になった。
「―――だが駄目だ!!もうこいつは助からねェ!何せこの俺を怒らせたんだからな…!!」
「誰が、誰を、怒らせたのです?」
「!!」
ミコトは弟を傷つけた山賊に怒りで頭が真っ白になりながらも、静かな声で山賊と村長の間に割って入った。
突然その場に割って入る少女の声に山賊や村長、マキノはその声の方へ振り返る。
そこにはルフィの姉であるミコトと、アスカがおり、マキノはアスカの姿に目を丸くする。
「ミコト!?何故ここにいるんじゃ!?」
「家で洗濯していたらアスカが駆け込んできたので…」
「アスカ駄目じゃない!店にいてって言ったのに…!!」
「ご、ごめんなさい…でも…ルフィが心配で…」
アスカは怖いのかミコトの背に隠れながら顔だけを覗かせていた。
マキノは店で待っていると思っていたアスカがミコトを連れてきたことに驚き、危険な場所に自ら来たアスカを叱る。
だがしょんぼりさせるアスカの言葉にこれ以上叱る事も出来ずマキノは何も言えずただアスカの頭を撫でる。
山賊は突然現れた少女の容姿を見てニヤリと笑った。
「…へぇ、子供のわりには綺麗な顔してやがるな……こいつよりお前を売った方が儲かる。…いや、俺の女でもいいかもなァ?」
頭から足先までねっとりとした目で見る山賊に、ミコトは不愉快だと言わんばかりに整った顔を歪めながらも、ルフィを話すよう山賊に交渉する。
しかし山賊はミコトが嫌な顔をするのが楽しいのかルフィを放すよう言っても逆にルフィの頭を何度も蹴り、ミコトは弟に危害を加える山賊に悲鳴を上げた。
「―――ッおやめなさい!」
「命令される筋合いはねェなァ…勝気な女は好きだが、分を弁えない女は嫌いだぜ」
「……ッ」
子供に命令される事に屈辱と感じたのか山賊はグリグリとルフィの頭を踏み続ける。
それを見てミコトは今まで我慢していたが、我慢しきれず己の周りに氷の刃のようなものを作り、その先端を山賊に向ける。
突然現れた氷に山賊達は焦りだす。
「お前も能力者か…!!」
「その汚らわしい足をどけなさい!!」
氷を向けられどよめき出す山賊をよそにミコトはキッと山賊を睨み手を上げる。
後は手を下げ浮いている氷に命じればきっと彼らはあっという間に命を散らせるだろう。
ミコトは一向にルフィの頭から足をどけない山賊に氷を向けようとした。
だが…
「港に誰も迎えがないんで 何事かと思えば…」
「…!」
「いつかの山賊じゃないか」
ミコトが上げられた手が下げられるよりも早く、ミコトの手が誰かの手に重なる。
ミコトは後ろから体を包み込むように抱きしめられ、耳元で聞こえる男の声に目を見張った。
後ろへ振り返ると、そこには見慣れた男の顔がミコトの目に映る。
「……シャンクス…」
「ミコト…もう大丈夫だから…な?」
「…………」
後ろへ振り返ればそこには海に出ていたはずのシャンクスがおり、ミコトはシャンクスの姿や言葉に安堵したのか力を抜いてあげていた手を下げ、シャンクスの手を握り返す。
その手は震えており、シャンクスはミコトの握っている手の力を少しだけ強くし、ミコトから離れる。
「パパ…」
「アスカも、よく頑張ったな。」
父の登場にアスカも驚いており、ミコトから少し離れた場所にいた娘にシャンクスは笑みを深め頭を撫でてやる。
シャンクスは2人やマキノ達を守るように前に出て山賊と対峙した。
「お姉さま…」
「アスカ…ごめんなさい、怖かったでしょう?」
「ううん…大丈夫…」
シャンクスが前に出た後、アスカはミコトの元へと駆け寄りミコトの体に抱き付いた。
ミコトは自分に抱き付くアスカの身体が震えているのが見え、自分を落ち着かせるよう二三度深呼吸した後、アスカの頭を撫でて落ち着かせる。
シャンクスの姿を見て安心したのか、ミコトの手の震えは既に消えていた。
「ミコト、アスカ…大丈夫か?」
「ベン…わたくし達よりルフィを…」
「大丈夫だ…お頭もそう言ってただろ?」
「お姉さま!パパ、強いから心配ないよ!」
「ベン…アスカ…そうね…」
ミコトはシャンクスの登場に安心したとは言え、やはり弟を思うと安心しきれなかった。
悲しげな表情を浮かべるミコトにアスカは励まし、アスカやベンの言葉にミコトは微笑を浮かべ、もう一度アスカを抱きしめる。
その後、シャンクスは腕一つを犠牲にしてルフィを助けた。
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