「お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだもん!」
「姉ちゃんはおれの姉ちゃんだ!!」
「二人とも違うぞ!ミコトは俺のミコトだ!!!」
「なにをバカな事をなさっているのですか、変態…」
ある日ミコトが一通りの家事も終わり、今日は一人で居るという気分ではなかったのでマキノの店に向かうと三人が何かを言い争っていた。
最近やっとみんなに溶け込み自我を出し始めたアスカは何やらルフィと言い争っていた。
喧嘩は仲のいい証拠のためあまりにも酷い時以外は止めはしないが、そこに何故か大人であるシャンクスも交じっていた。
子供の喧嘩に交じるシャンクスにミコトは呆れた溜息をつく。
内容を聞いていれば、それはミコトは誰のだ、という内容で、ルフィ達の可愛い喧嘩に大の大人が混じっていることにミコトは半目でシャンクスを見つめる。
しかもシャンクスはミコトが来た事に気付かないほど子供相手に本気だった。
「パパばっかりずるい!!」
「ずるくないぞ!パパはお前達が生まれるずっと前からミコトを愛してるんだ!」
「そうなのか!?」
「なに真に受けてんの!?嘘よ!」
「嘘なのか!?」
「嘘だ!会ったその日から愛してるのは本当だが嘘だ!」
「二回言うな!腹が立つ!」
ミコトとしては愛する弟と妹が自分の取り合いをしてくれることはとてつもなく嬉しい。
もうビデオに撮って祖父と祖父の友人と自分を可愛がってくれている知り合いに自慢したいくらい嬉しかった。
――が、変態は嬉しくはなかった。
ミコトにとって変態は変態である。
ギャーギャーと騒ぐ三人にシャンクスの船に乗ってる海賊達は苦笑いする者が居たり、煽ったりと止めようとはしない。
ミコトもルフィとアスカが楽しそうというのもあり、喧嘩を止めずそのまま三人を素通りしカウンターへ向かった。
「マキノさん、紅茶をお願いします」
「えぇ、分かったわ」
いつも笑顔を絶やさないマキノだが、今日はいつも以上ににこにこと嬉しそうに笑うマキノにミコトは首を傾げるが、マキノは紅茶を用意するため背を向けてしまったので聞くタイミングを逃す。
「ミコトーー!!俺達の娘と息子が反抗期だぞ!!!」
「は、放しなさい!!どさくさに紛れて変なところ触るな!」
紅茶を楽しみに待っていると後ろから誰かに抱き付かれ、振り返ればシャンクスだった。
シャンクスはミコトの首筋に顔を埋め泣き真似をしながらミコトの体を堪能する。
セクハラをするシャンクスにミコトは拳を握りしめ思いっきり変態へと向けた。
ゴッ、と痛そうな音がマキノの店に響き、泣きながらミコトに抱きしめたシャンクスは例の如く床に沈むが、それはいつもの事なのか、船員も子供達も慌てふためくことはない。
それどころかルフィは別のところで驚いていた。
「シャンクスって息子いんのか!?」
「バカ、冗談に決まってるじゃない!パパがお姉ちゃん以外の女の人に手を出さないわよ!いい年して片想いして手も出せないような奥手なパパにそんな甲斐性ないわ!」
「……ミコト〜!本気で慰めてくれ…!!」
「仕方ない人ね…」
やはり女の子はませていた。
ルフィに父親がどんなにヘタレなのかを教えるが、シャンクスは娘の言葉一つ一つが矢となり刺さりいい年して本気で泣いて再びミコトに抱きつく。
流石にミコトも同情したのか、今度は殴られることはなく、頭まで撫でられていた。
「ふふ…大変ね、お母さんは。はい、紅茶よ」
「ありがとうございます…お母さんって…子供はもしかしてこの人も付いてきますの?」
「あら、そうじゃないの?」
「…マキノさん…冗談は止めてください…」
「ふふ!ごめんなさい」
「随分と機嫌がいいですね…何か良い事でもありました?」
終始楽しそうに笑顔を絶やさないマキノにミコトは紅茶を飲みながら尋ねる。
ミコトの隣には泣き止んだシャンクスが座って一緒になってマキノを見る。
その光景を見てマキノは更に笑みを零す。
「良い事?えぇ、あったわ」
「何ですか?」
「アスカがとっても明るくなったって事よ」
「「アスカ?」」
二人はマキノの言葉に顔を見合わせた後、後ろにいるルフィと一緒に海賊に相手をしてもらって笑顔を見せるアスカを見る。
確かに、以前と比べてアスカの表情は明るくなったように見える。
アスカが目を覚ました頃を思い出し、シャンクスはしみじみ頷いた。
「確かに、最初は笑顔一つもないどろこか泣きもしなかったからなァ」
「えぇ…気を許せる人間といったらわたくしか変態しかいませんでしたから…こうしてみんなと笑ってくれる日なんてずっと先だと思っていましたわ…」
マキノの笑顔の理由に納得した二人も同じように笑みを浮かべルフィとはしゃぐアスカを見守る。
しかし、マキノの笑顔の理由にはもう一つあった。
それは…
(アスカが来てからミコトはみんなの前に出てくるようになった事もいいことだわ、それに…アスカが居る御蔭で船長さんとの仲も深まっているようだしね)
そう思いながらチラリと下へ目線を下げる。
その目線の先には、カウンターの上に乗せられているミコトの手にシャンクスの手が重ねられていた。
以前ではシャンクスが居るだけで殺気を放って睨みつけていたミコトだったのが、今じゃ手を重ねられても照れたように睨み付けるだけで殺意を放つことなくなった。
まるでアスカが幸せを運んでくれたようでマキノはとても嬉しく思う。
****************
オマケ
「あー!パパずるい!お姉ちゃんと手を繋いでるーーー!!!」
「なにー!?ずりぃぞ!シャンクス!!」
「ハッハッハ!!大人の特権ってやつだ!諦めろ!!!」
「「ぶーー!!!」」
「全く、子供相手になにをやっているのやら…」
「ふふ!愛されてるわね、ミコト!」
「マキノさんまで…」
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