(105 / 293) ラビットガール (105)

アスカが目を覚ましたのは昼過ぎの事である。
既に目を覚ましていた面々がいるらしく、ベッドにはルフィと数人のメンバーがまだ目を覚ましておらず眠っているのが見えた。
アスカが真っ先に行ったのは、仲間との再会ではなく…治療の際医者に背中にあるモノを見たかと問い詰める事だった。
だがその医者は何も無かったと答える。
嘘かと思ったが、嘘をついているようには見えずそれに疑問に思いながらもすでに起きていたチョッパーに背中を見てもらう。


「ねェ、ある?」

「あぁ、あるぞ。くっきり見える!」

「…………」


チョッパーは仲間になったその日に事情を説明していたため、アスカは紋章があるかをチョッパーに確認してもらう。
アスカの背中にその奴隷の証がないという医者の話にチョッパーも首を傾げ、背中を捲って見せるアスカの背中を見る。
だが、チョッパーの目の前にはくっきりと世界貴族の紋章がアスカの褐色の肌に焼き付いていた。
アスカもチョッパーも同時に首を傾げ、結局二人で考えても謎だと片付けることしかできなかった。







その後、残りのメンバーも目を覚まし後はルフィだけとなっていた。
流石に中々起きないルフィが心配になったのか、アスカはずっとルフィのそばでビビと共に看病していた。
そして、ついに最後の一人のルフィがようやく目を覚ます。


「いや――っ!よく寝た〜〜〜っ!!…あっ!!帽子は!?帽子!ハラへったァ!!!朝飯と帽子は!?」

「ん」

「おー!さんきゅー!!」


ルフィが起きるとその場は一気に賑やかになる。
起きてでた一声が『帽子』と『めし』。
それに関してはルフィらしいと笑うしかない。
帽子を探すルフィにアスカは被っていた麦わら帽子をルフィに被せ、『おはよう』という意味も込めて頭をポンポンと軽く数回叩く。


「起きて早々うるせェなァ、てめェは…それに朝メシじゃねェ。今は夕方だ。」

「その帽子、宮殿前で兵士が見つけてくれたんだよ」

「よかったルフィさん元気になって…」

「元気?おれはずっと元気じゃねェか」

「バカねー。熱とかスゴくて大変だったのよ!?アスカとビビとチョッパーがずっとあんたのこと看病してたんだからっ!」

「そうなのか!?ありがとうな!!」

「……おおルフィ起きたのか」

「ああゾロ!久しぶり!…久しぶり?」


ルフィは久しぶりと言う言葉に違和感を覚え首を傾げる。
するとゾロがトレーニングから帰り、ルフィが起きたことに気付く。
また違和感を覚えルフィが首をかしげているとチョッパーがゾロから匂う汗の匂いと包帯を外されているのを見て文句を言いにゾロに駆け寄る。


「あっコラ!お前またトレーニングしてきたんじゃないだろうな!?」

「何だよおれの勝手だろ?」

「ダメだったらダメだ!!おれは船医だぞ!包帯取るな!!」

「動きにくいだろ、アレ」

「動くなよ!!」

「"ラビットセラピー"…」

「…ッ!」

「と、安静にするの…どっちがいい?」

チョッパー先生ごめんなさい

「うぇ!?い、いいよ!もうトレーニングしないならさ!」


ゾロは傷が深かろうが浅かろうが関係なくトレーニングをしてしまうため、チョッパーは気を付けてはいた。
だが、いつもゾロは気づけばトレーニングしており、チョッパーは口煩く注意はするも中々効果はない。
言い合いしているゾロとチョッパーにアスカはゆっくりとゾロに振り返り、ぽつりと小さい声でつぶやく。
が、それでもトラウマ持ちのゾロにとったら十分だったらしく、アスカの呟きにビクリと肩を揺らし即チョッパーに謝った。
腰を折って謝るところを見ると相当なトラウマらしい。
チョッパーに謝るゾロを見てアスカはむすっと頬を膨らませギロリとゾロを睨む。


「失礼な男だな」

「うっせェ!目の前で脱がされるおれの身にもなれっ!!」


アスカからしたら露出は恥ずかしいとも思っていないためここまで嫌がられるのはなんだか腹立たしく思う。
しかしゾロからしたら突然全裸になった仲間を見たくて見ているわけではないため迷惑極まりないのだろう。
まだ体が出来上がっていないアスカの体は幼児体とは言わないまでも幼いため、正直に言ってゾロはそそられはしないのだ。
そんなコントをよそにルフィはウソップから知らされた眠っていた期間にギョッとさせた。


「3日?おれは3日も寝てたのか!?―――15食も喰い損ねてる!!」

「何でそういう計算は早いのあんた…」

「しかも1日5食計算だ」

「ふふふ…食事ならいつでもとれるように言ってあるから平気よ」


ルフィの食欲魔人さは船にいるときに知っており、ビビはいつでもルフィに食事を提供できるようお願いしていた。
長い間内戦が続いていたのだが、国民性というものに助けられ何とか大量の食糧を確保出来ていたため心配はないだろう。
するとビビの言葉に続くように部屋に誰かが入ってきた。


「船長さんが起きたって?あと30分で夕食だから待ってくれないかい?一人で食べるよりみんなと食べた方がうまいからね!」


バン、と現れたのはイガラムだった。
しかもイガラムは女装しており、イガラムと面識のないアスカとチョッパーは驚きが隠せないルフィ達に首をかしげていた。


「な……!!」

「!!?」

「おお、ちくわのおっさん!!!生きてたのか!!?」

「て……てめェやっぱりそんな趣味が…!?」

「?」

「違うの彼女はテラコッタさん。イガラムの奥さんでこの宮殿の『給仕長』なの」

「ビビ様と夫が世話んなったね」

「似た者夫婦にも程があるぞ…」

「よく食べると聞いてるからね。夕食のつなぎに果物でもつまんどいてくれるかい?」

「わかった!」

「「手品かよ!!」」


イガラムだと思っていたメンバーだったが、その女装しているイガラムはイガラムの妻だという。
似たもの夫婦そのものなイガラムとその妻テラコッタに呆れを通り越し関心してしまう。
給仕長でもあるテラコッタは食事を用意している間ルフィが起きたと聞き持ってきた果物で食いつないでもらおうとサービスワゴンで運ぶ。
だが、その大量の果物をルフィは一瞬にして空にしてしまい、ルフィの食欲を知ってはいるゾロとサンジも流石にツッコミを入れた。
ルフィの食欲を見た初めての人は声にもならないようで唖然としていた。


「おばちゃん!おれは3日分食うぞ!!」

「望むところだよ!給仕一筋30年、若造の胃袋なんかにゃ負けやしないから存分にお食べ!!!」


テラコッタもルフィの食欲の事は聞いてはいたが、正直大げさな表現だとばかり思っていた。
だが、それを目の前に大げさなど片付けられないと気づき、そして次に感じた感情はやる気だった。
給仕として宮殿に仕えて30年…これほど腕が鳴る客は初めててテラコッタは腕まくりをして笑顔を浮かべていた。







それから食事は流石に場所を変えた。
国王であるコブラがルフィが目を覚ましたことを知って一緒に食事をしたいと誘ったのだ。
それを断る理由もなく、全員国王や王女と一緒の机に並ぶ。
お世辞にも上品とは言えないルフィ達の食べ方に兵達も最初こそ呆れていたが段々とルフィ達と騒ぐようになりその場は宴会のように騒がしくなった。
その中でもアスカはマイペースに静かに食事をし、ルフィの隣に座っているのに関わらずルフィは絶対アスカから食事を取ることはなかった。
それはルフィはアスカの食事を取るとナイフで刺したりと容赦ないのを知っているからだろう。
やはりルフィの幼馴染なだけはある。


そしてお腹も満腹となり、次は―――…


「お風呂?」


お風呂だった。
時間的にまだ早いが夕飯も食べ終わりすっきりしたいとナミはアスカを誘いに来た。
アスカはベッドにうつ伏せで寝転がりブレスレット型になっているシュラハテンと会話していたところだった。
お風呂に誘われ小首をかしげるアスカにナミは頷く。


「そう、みんなで入るのよ」

「…………」

「あ!もちろん男女別々よ?」


風呂と聞き何故か黙ったアスカに混浴だと思っていると勘違いしたビビがフォローを入れる。
だがアスカは俯くだけだった。
それは勿論理由がある。
黙り込むアスカにナミは首を傾げ声をかける。


「アスカ?」

「………私、いいよ。みんな入ってきて」

「え?でも…」

「いいから」

「アスカ…どうしたの?まだ具合でも悪いの?」


アスカはナミに声をかけられ断った。
断られるとは思ってもみなかったらしいナミとビビは小さく目を丸くし、アスカはベッドから起き上がり縁に座りながら戸惑うナミとビビを見上げた。
ナミはここに来る前に風邪をひいていたこともあってまだ熱があるのかと思いアスカの額に手を当てたが、手の平で測っても平熱で、見た目も具合が悪そうには見えない。
ビビも心配そうにアスカを見つめており、二人の目線にアスカは目を逸らすだけで何も言わなかった。


「あ!居た!!」

「チョッパー?」


本当に具合が悪いのなら無理に誘えないし、医者も必要だとナミとビビ、そして別の意味でアスカもどうしようかとお互い思っていたその時、慌てたチョッパーが入ってきて3人はチョッパーに振り向く。
チョッパーは慌ててナミとビビにアスカがお風呂に入れないことを告げる。


「アスカはまだ傷が治ってないんだ!だからお風呂はおれと一緒にできないかな?」

「え?そうなの!?大丈夫?」

「うん、そんなに酷くないけどお風呂は慎重に入らなきゃいけないんだ!だから2人には悪いんだけど…」

「まぁ、それなら仕方ないわね…でもそれならそうと言ってちょうだい。アスカを休ませたのに…」

「ご、ごめん…」


チョッパーのおかげで入浴は免れ、ナミはアスカの頭を撫で、ビビは声をかけてから部屋を出た。







流石に怪我が治っていないと言ってしまっため風呂場が空くのを待つことはできず二人は部屋に備え付けられているシャワー室で入浴を済ますことにした。
シャワー室と言っても十分に広く、小柄なアスカとチョッパーには丁度良かった。


「ふー、危なかった!」

「チョッパー、ごめんね?チョッパーも大きいお風呂に入りたかったでしょ?」

「気にしないでくれよ!おれはアスカの役に立てて嬉しいんだ!」


本当に嬉しそうに笑いながら背中を洗ってくれるアスカに振り返る。
チョッパーの笑顔につられてアスカもお礼を言いながら笑顔を浮かべた。


「じゃぁ、これからもお願いします」

「うん!おれ、もっとアスカの力になれるように頑張るよ!!」


チョッパーの優しさと、力になれることへの喜びが伝わってきてアスカは笑みを深める。

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