(119 / 293) ラビットガール (119)

そのマークを見てるとアスカの心臓はドクンと高まった。
それは緊張にも似ていた。
でも、その反面安心するような温かさや懐かしさも感じられ、アスカは少し戸惑う。
そっとそのマークに触れるとまだ乾ききっていないのか少しだけアスカの指を汚した。
マークを描いたのはペンキで、色は赤色だった。
指先いついたソレはまるで血のようで、それを見下ろしながらアスカは一瞬だけ…声が聞こえた。


― "――"!?血が出てるじゃないか!!大丈夫かい!?痛くないかい!? ―


それは聞き覚えのある声だった。
どちらかと言えば若い青年の声。
熱に魘されていたときに聞いた二人のうち一人の声。
やはり今も名前らしい言葉は潰れて聞こえないが、心配性みたいに大げさに驚いているような彼の声にアスカは目を細め微笑む。
とても懐かしかった。
そして、とても心が暖かくなったのだ。
もっとこのマークに触れているとその人の声が聞こえるんじゃないかと思い、手が汚れるのも気にせずアスカは手を伸ばし触れ、目を瞑る。
目を瞑っても熱のように彼らが瞼の裏に出てきてはくれず、声もそれ以来聞こえないが…アスカは不思議と心穏やかになっていた。


「ジョー?」


町へ行ったルフィに気を取られ、アスカの変化に気付いたのはアスカの腕にいるサウスバードのみだった。







ルフィが町へ出かけてしばらく…ルフィならと信頼はしても焦りは積もるもので、ついに朝日が昇りナミは怒鳴り声に似た声を上げた。


「何やってんのよっ!!あいつったらもーーー!!」


流石にアスカもずっとあのマークに触れることはなく、しかし手に着いたペンキを見つめていたり指を擦らせたりしていた。
これもまた中々帰ってこないルフィに気を取られてみんな気づいておらず、アスカはナミの怒鳴り声にハッと我に返る。


「朝よ!もう朝!!約束の時間から46分オーバー!!海流に乗れなくなるわよ!?大体帰りは金塊持ってるんだから重くて遅くなるでしょ!?そういう計算できないのよあいつの頭では!!」

「いや…最初っから時間の計算なんてしてねェと思うぞ…」

「ああ、100%な」

「っていうかルフィにそれ求めちゃいけないと思う」


アスカはなんの話題か半分分かっていないが、状況からしてルフィが金塊を取り返しに行ったのだろうと読む。
流石幼馴染をしているだけあってその読みは当たっており、アスカの言葉にサンジとウソップが強く頷いた。


「町でやられちゃったんじゃないかな…」

「負けたら時間に間に合っても許さないわ!」

「どうなんだよ、お前は…」


チョッパーの不安そうな言葉にアスカは『それはない』と思うも、未だ町で笑われたことを根に持っているナミは負けても許さない、時間に間に合ったとしても許さないと容赦なかった。
そして、こういう時は噂をすればなんとやら……ルフィが帰ってきた。


―――ヘラクレスを手にして。


「「「何しとったんじゃーーーー!!!」」」


ヘラクレスを持って輝かしい笑顔をして駆けつけるルフィにアスカ以外の一味全員が今日一番のツッコミを入れた。
アスカは話を聞いていなかったというのもありツッコミは入れなかったが…道草を食う幼馴染にため息をプレゼントする。







「うわっ!すげェな〜〜〜〜!!!」


ヘラクレスを手にルフィはクリケットたちが修繕と強化してくれたメリー号を見て目を輝かせていた。


「"ゴーイングメリー号フライングモデル"だ!!!」


ルフィ達の目の前にあるのはメリー号なのはメリー号なのだが…何故かニワトリ風だった。


「飛べそ〜〜〜!!!」

「だろう!!!」

「ニワトリは飛ばないんだけど」


正確に言えばニワトリは飛ばないわけではないが、長距離が苦手なだけである。
しかしアスカが呟きのツッコミを入れても目の前のメリー号に目を奪われているルフィとウソップの耳には入っていなかった。


「私あれを見ると不安になるわけよ」

「まァ、そうだな。ニワトリよりハトの方がまだ飛べそうな…」

「それ以上の問題でしょ!バカね!!!」

「そうだよ、ハトじゃなくてタカでしょ?」

「それも違うと思うんだけど…」


ゾロがニワトリよりもハトだと言いだしそれに突っ込んでいるとアスカまで同じようなことを言いだした。
流石に妹のように可愛がっているとはいえこればかりは賛同できないのか、ゾロのように鋭くはないが、ツッコミを入れる。
ルフィは感動も落ち着いたのか、奪い返した黄金をクリケットに返し、そして…―――ルフィ達は空島を目指し、出航する。

119 / 293
| top | back |
しおりを挟む