(122 / 293) ラビットガール (122)

吹き飛ばされるんじゃないかって思うほどの突風にアスカは目を瞑りメリー号にしがみ付く。
途中雲の中に潜り息が出来なくなったと思えばアスカの体の力があっという間に抜けていくのを感じアスカはしがみ付いていた手に力が入れれずついに放してしまう。
気を失ったように手を放し落ちそうになったアスカにいち早く気づいたのはその後ろに同じく船にしがみ付いていたゾロだった。
自分に向かって落ちていくアスカに慌てて片腕で受け止めた。
まるで海にいるみたいなため、声をかけたくても開いた口から出るのは気泡のみ。
チラリと見ればアスカは気を失っているようにピクリとも動かない。
顔さえ上げる気配のないアスカにゾロは内心舌打ちをしながらアスカを落とさないよう強く抱き寄せた。







時間的には短かったのかもしれない。
でも息を止めなければならないルフィ達からしたら長く感じられた。
雲を通り、やっと突破しルフィ達はまず息を吸う。


「おい…大丈夫か、アスカ」

「…………」


ゾロは腕の中にいるアスカを止めていた息を吸い、アスカを横抱きに抱えながら見る。
アスカはまだ気を失っており、ゾロは返事のないアスカをそっと降ろすとナミがゾロとアスカに気付き、くたりとさせるアスカに慌てて駆け寄る。


「アスカ!?どうしたの!?」

「気を失ってるみたいだ」

「気を失ってるって…なんで…!」

「多分、通ってきた雲みたいなやつのせいだろ…結構スピードあったからな…」


まだゾロ達はアスカが海楼石や海に弱いとは知らず、息が続かなくて気を失ったのだろうと勘違いしていた。


「アスカ!みんな!見てみろよ!船の外っ!!―――ってアスカ!?どうしたんだ!?」


アスカの頬をゾロが軽く叩くと瞼が震えるのが見え、ああ目を覚ますんだなとゾロは思う。
しかしアスカが瞼を上げる前にルフィの声が辺りに響く。
どうやら周りに気を取られていてアスカに気付かず、いつもの癖でアスカを呼ぼうと振り返りそこでアスカが倒れているのを気づいたようである。
ナミ同様慌てた様子でアスカに駆け寄る。
ウソップ達も周りに気を取られてアスカに気付かなかったのか、ルフィの声で気づき『どうした』と歩み寄ってきていた。
ルフィの声で完全に覚醒したのか、アスカは金色の瞳を露わにさせ心配そうに覗き込んでいるルフィをまず最初に見た。


「るふぃ…」

「よかった…目、覚めたんだな!」


アスカは体のダルが残っており、アスカは息を吐き出し、一度瞼を閉じる。
『立てるか?』というゾロの問いにアスカは頷いて返し、ゆっくりと重い体を起き上がらせ座る。
その背をナミが優しく撫でてくれて、アスカは落ち着くことが出来た。


(よかった…取れてない…)


座り込み、確認したのは手だった。
正確に言えば指先についている赤いペンキ。
当然、ペンキだから少しも取れた様子もなく、べったりとついていた。
ほぅ、と安堵の息をついているとルフィにまた名前を呼ばれ、手を取られ立たされた。
後ろでナミが『ちょっとルフィ!アスカに無理させないでよ!!』と怒っていたが、ルフィは聞こえていないのかアスカの手を取ったまま舷縁のもとへと向かう。
その瞬間、アスカの前にいるルフィの背に一瞬だけ誰かの背が重なって見えた。


(おとこのこ…?)


それは本当に一瞬だった。
一瞬、ルフィの背と男の子の背が重なって見えたのだ。
その男の子が誰なのか…小さい頃のルフィだったのか、それともエースだったのか、それとももういない兄だったか…アスカには分からないが、とても懐かしく感じたのは分かった。
本当に一瞬だったからその男の子の背格好や服装なども忘れてしまい、アスカはルフィの背を見つめながら誰だったのか思い出そうとした。
しかし、


「アスカ!見ろよ!!すっげーぞ!!」

「…?」


ルフィの声によってその思考は切られる。
ルフィがアスカの手を引いて見せたかったのは船の外だった。
アスカはルフィに言われ船の外の風景を見た瞬間…金色の目をこれでもかと丸くさせる。


「すごい…辺り一面雲…?」


金色のその瞳に映るその風景…それは辺り一面の真っ白な光景だった。
舷縁を覗き込んでみてみれば、その真っ白な風景は全て雲だと分かった。
今、メリー号は海の上を浮かんでいるように…雲の上に浮かんでいた。
言葉にもならないと言わんばかりに驚くアスカにルフィは『だろ!?』とニカッと笑う。
ルフィの言葉にナミ達もそれに気づきそれぞれ驚愕の声を零す。


「何だ!?ここは…!!真っっっ白っ!!」

「雲の上!?なんで乗ってんの!?」

「そりゃ乗るだろ?雲の上だもんよ。」

「「「イヤ!乗らねェよ!!」」」


小さい頃、ナミ達も雲の上に乗れたら、という想像はしていたが、もうこの年になってまでその想像はしていない。
しかし子供が大きくなったようなある意味無邪気なルフィは雲は乗るものだと信じていたようで、思わずルフィの発言にサンジ・ゾロ・チョッパーが手を振る。
アスカは目の前の真っ白な光景に目を奪われ、すでにあの男の子の事を忘れていた。


「つまりここが"空の海"ってわけね…でも見て"記録指針"はまだ上を指してる!!」

「どうやらここは"積乱雲"の中層みたいね…」

「え、じゃぁまだ上を行くのか?どうやって?」

「またあの海流みたいなので上に行くの?」


ナミ達の会話を聞き、すっかり元通りになったアスカは首を傾げながら舷縁から降りナミに首をかしげて問う。
正直雲でも海のように力が抜ける効果があると分かった以上、アスカはそれは避けたかった。


「それは分からないけど…」


流石にそこまではナミも分からずアスカの問いに首を振って答える。
するとウソップが上だけ脱ぎ船首の舷縁の上に乗り何かをしようとしていた。
ナミもアスカもその声にウソップの方を見る。


「第一のコ〜ス!!キャプテン・ウソップ泳ぎまーーす!!!」

「おう!!やれやれ!!」

「おいおい無茶すんな!まだ得体の知れねェ海だ」


ウソップの方へ見ればウソップが雲に飛び込む準備をしていた。
サンジが止める中、ウソップはそれでも『海は海さ』と言って飛び込み、雲の中に消えた。
アスカもナミも舷縁へ歩み寄り海の変わりに雲を覗き込む。


「思うんだけど…………ここって"海底"なんてあるのかしら?」


『雲を見上げる』のではなく『雲を見下ろす』というのが何だか違和感があったのだが、ふとしたロビンの呟きに一同顔を見合わせた。


「だから言ったんだ!あのバカ!!」


忠告したサンジも中々上がってこないウソップに焦って顔を雲を覗き込む。
ルフィもロビンの言葉に真っ先に舷縁に乗って腕を伸ばし雲に突っ込んだ。


「できるだけ腕を遠くに伸ばして!!」

「でも下は見えねぇから勘だ・・・!!」

「大丈夫任せて!"目抜咲き"!!」


海と違い透き通っているわけではない雲の海の中では、突っ込んだが勘で伸ばすしかない。
ロビンの指示に泣きそうになっているルフィにロビンは能力で目をつけ、ウソップを見つけた。


「いた!!」

「え!?」

「どこに!?」


ルフィの腕に目を咲かせ、やっと見つけた先は―――やはり空だった。
どうやらロビンの予想通り、ここは海底が存在せずウソップは落ちていくところだった。
ロビンの"六輪咲き"で救出するが一緒に巨大なタコと魚が釣れる。

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