(124 / 293) ラビットガール (124)

海に落とされた男もすぐに上がったのだが、こちらに反撃するでもなく、そのまま去っていった。


「…去ったか」


小さくなり消えていった不審者の背を見送る老人はポツリとそう零し、手に持っていた槍を下ろす。
それを見てアスカも戦闘態勢を解き、ナミ達も不審者が消えたことで戦闘にはならないと察したのか安堵の息をついた。


「何なのよ一体…!!あいつは何者だったの!?それに何よあんた達だらしない!3人がかりでやられちゃうなんて!!」

「助けてくれてありがとう」

「ウム。よい、やむを得ん。これはサービスだ」


去っていった男を見つめナミは手も足も出なかったルフィ達に声を上げる。
確かにルフィ達にしては珍しい、とアスカは思いルフィ達を見れば、ルフィ達は息が上がっているのが見えた。


「いや、まったく…不甲斐ねぇ…」

「なんか体が…うまく動かねェ…」

「きっと空気が薄いせいね…」

「?……ああ、そう言われてみれば…」


本来のルフィ達ならば、あの男一人くらい三人で相手するまでもないほどだったろうが、どうしてか体が自分の思う通りに動かなかったらしい。
ロビンの言葉に最初こそ首を傾げていたが、確かにここは空気が薄く感じ、三人は頷く。


「おぬしら青海人か?」


老人の問いにナミは聞き慣れない言葉と共に首を傾げる。


「?何それ…そうだ、あなたは誰?」

「我輩"空の騎士"である。…青海人とは雲下に住む者の総称だ。――つまり青い海から登ってきたのか」

「うん、そうだ」


青い海、というのは雲の海ではなくアスカ達が慣れ親しんだ海の事だろう。
それに頷けば、空の騎士と名乗った老人は納得した素振りを見せる。
空の騎士曰く、ここは青海よりも7000メートルも上空にあるらしく、雲の海はここでは"白海"と呼ばれていた。
その白海よりも更に上層の"白々海"と呼ばれている海までは1万メートルに達しているらしい。
それを聞いてルフィ達の体の異常にアスカは納得した。
空気が薄く動きずらいという言葉も。
だから動けないのは仕方ないと空の騎士は言った。
しかし、


「おっし!!だんだん慣れてきた」

「そうだな さっきより大分楽になった」

イヤイヤイヤイヤ!


体が持たないとまで言われ説明したその直後…ルフィ達は慣れたと言った。
しかも楽になったとも。
それには流石に空の騎士も『ありえん』と零しながら手を振る。


「それよりさっきの奴海の上を走ってたのは何でなんだ?」

「まぁまぁ 待て待て…質問は山程あるだろうが……まずビジネスの話をしようじゃないか。我輩フリーの傭兵である。ここは危険の多い海だ…空の戦いを知らぬ者ならさっきの様なゲリラに狙われ空魚のエサになるのがオチだ。1ホイッスル500万エクストルで助けてやろう。」

「「「………………………………」」」


二階の手すりに座る空の騎士の言葉にルフィは無言で空の騎士を見上げる。


「何言ってんだ?おっさん」

「ぬ!!」


ルフィの言葉はみんなの代弁であった。
本当、何言ってんのこのおっさん、とアスカは思っていると空の騎士は逆に驚いた声を零す。


「バカな!格安であろうが!!これ以上は1エクストルもまからんぞ!!我輩とて生活があるのだから!!」

「だからそのエクストルって何なんだよホイッスルがどうのってのも…」

「ハイウエストの頂からここへ来たんじゃないのか?ならば島を1つ2つ通ったろう?」

「だから何言ってんだ?おっさん」

「ちょっと待って!!他にもこの"空の海"へ来る方法があったの!?それに島が1つ2つって…空島はいくつもあるもんなの?」

「何と!!あのバケモノ海流に乗ってここへ!!?…まだそんな度胸の持ち主がおったか……」


空の騎士の話を聞いてちょっぴりアスカは嫌な予感がよぎった。
それはナミも々なのか話を止めて空の騎士に質問をする。
ナミ達は少ない情報からやっと空島への道を探り出し、死ぬ思いをしてここまできたのだが……どうやら安全ルートがあったらしい。
現地(?)の人でさえ通ってきたルートを『バケモノ海流』と呼ぶのだから、その言葉にナミは涙を流し恐怖した。
そんなナミにルフィが『着いたからいいじゃねェか』と追い打ちをかけ、揺さぶりの刑に処すされていた。
しかし、空の騎士曰く、『安全ルート』らしい道なりと、『バケモノ海流』なる道なりでは、生存率が違うという。
安全ルートとアスカ達が勝手に思っていたその道なりはどうやら島を一つ二つ通るが、死ぬ者が一人二人と出る道らしい。
対して『バケモノ海流』を選んだ船は"全員死ぬ"か、"全員生き残る"かのどちらかだという。
空の騎士は青海の人間を見てきているのか、0か100をかけるものが珍しいと言われ、褒められた。
それを聞いてもまたあの海流に乗るかと言われれば、正直アスカ的には応えは出来る限りNOである。
空の騎士から話を聞いて更にドッと疲れが強くなった気がするアスカ達に空の騎士はあるものを投げる。


「これをやろう」

「!…笛?」


空の騎士が何かを投げ床に落ちる前に、丁度投げた先にいたアスカがキャッチする。
手の中のを見てみれば、それはホイッスルだった。


「あの海流に挑戦するその度胸にその1ホイッスルを与えよう!…1ホイッスルとは一度この笛を吹き鳴らすこと。さすれば我輩天よりおぬしらを助けに参上する!!本来はそれで空の通貨500万エクストル頂戴するが、1ホイッスルおぬしらにプレゼントしよう!その笛でいつでも我輩を呼ぶがよい!!」

「待って!! 名前もまだ……」


そう言って、去ろうとする空の騎士にナミは助けてくれた空の騎士の名前を聞こうと呼び止める。
ナミに呼び止められ、空の騎士は振り返る。


「我が名は"空の騎士"ガン・フォール!!そして相棒ピエール!……言い忘れたが我が相棒ピエールは鳥にして"ウマウマの実"の能力者!!」


グググ、と鳥のピエールの身体が変化し、そして…


「つまり翼をもった馬になる!!……即ち…」

「うそ…!!素敵!!ペガサス!!?」

「そう!!!ペガサス!!!」

「ピェ〜〜〜!!!」


空の騎士を背に乗せるピエールの姿が鳥の姿から馬へと変わり、その背には羽が生えていた。
まさに童話や伝説などでよく耳にする"ペガサス"なのだが……


「勇者達に幸運あれ!!!」


そう別れの際に声をかけ空の騎士はペガサスなる者と共に去っていった。
アスカ達は空の騎士との別れを惜しむよりも…


「おかしな生物になったぞ、アレ…」

「っていうか、なにあれ…ペガサスじゃないじゃん…」


全くもって童話や伝説に轟くペガサスとは別物でしか見えない…そう、微妙なペガサスになったピエールへのツッコミに忙しかった。

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