(135 / 293) ラビットガール (135)

アスカはルフィと別れ、脱出組として船に残った。
怪我人のため何もせずサンジがアスカとナミのためにと作ったお菓子を食べながら甲板でタルの上に乗せてもらって座っていた。


「風よし!!舵よし!!んー、実に快適!巡航は順調だ!しかしノロイなコリャ…おい航海士!何とかしろ!」

「何ともなりません、キャプテン・ウソップ。"雲の川"は起伏が激しいからダイアル船の動力しか頼れないんだもん」

「ぬぬ!!頑張れカラス丸!!―――あぁ、それとサンジ。お前は常におれ様の護衛にあたれ!キャプテンこの森恐いんだ

黙れ、おれが守るのはナミさんとアスカちゃんのみだ


脱出チーム、ウソップ・サンジ・ナミ・アスカはダイヤルで動くカラス丸にメリー号を引いてもらって進んでいた。
まだカラス丸の大きさが大きければもう少し早いのだが、何分4人座って手狭と感じるくらい小さいので引っ張って走れる分だけいいとしないと罰が当たるだろう。
何故か胸を張りながら怖がるウソップにサンジは相変わらず男には冷たくつき放つ。
サンジの美味しいお菓子をはむはむと食べながら彼らの会話を聞いていたアスカは冷たく見捨てるような事を言うサンジを見ながら『でもなんだかんだ言って助けるんだろうなァ』と思う。
ここでぽつりとつぶやけばサンジからどれだけアスカやナミ、ロビンを心から愛しているかを伝えられることになるので決して言わないが。
彼らの会話を聞いていたガン・フォールはポツリと言葉を落とす。


「…この国の…歴史を少し……話そうか…」

「……………」

「我が輩…6年前まで"神"であった」

頭打ったかおっさん


ガン・フォールの呟きにウソップは突っ込みを入れるもピエールがウソップの頭を噛み付く。


「……この"神の島"がスカイピアに姿を見せたのは…おぬしらの知る通り400年も昔の話だと聞く…それまでの"スカイピア"はごく平和な空島だったそうだ…たまに"突き上げる海流"に乗ってやってくる青海のわずかな物資は空の者にとってはとても珍しく重宝される…」


語りだしたガン・フォールの話をナミ達は黙って聞き、ナミはガン・フォールの薬と水を手に階段を上がりその場で聞いていた。
アスカも話を聞くため食べるのをやめる。


「空島にある"大地"は全てそうやって偶然空にやってきたものだ…だが"神の島"ほど大きな"大地"が空にやって来る事はまずあり得ぬ…奇跡なのだ。」

「…………」

「空の者は当然それを天の与えた"聖地"だと崇め、喜んだ………しかし"大地"には先住民もいて"大地"をめぐる戦いは始まった…その者達こそが"シャンディア"」

「ゲリラ達の事か…」

「じゃああいつら元々地上の"ジャヤ"に住んでたやつらなのか!?」


ウソップとサンジの言葉にガン・フォールは頷いて見せた。


「そうだ…きっと不本意に島ごと空へ飛ばされたのだ」

「なのに島から追い出しちゃったって事!?」

「そうだ。"空の者"が私欲の為に彼らの故郷を奪い取った…以来400年シャンディアと空の者との戦いは未だ止まぬ…シャンディアはただ故郷を取り戻そうとしているだけだ…」

「それ…ちょっと切ないわね…」

「うん…」

「「じゃおめェらが悪いんじゃねェかよ!!」」


話を聞き、真っ先にウソップとサンジはガン・フォールを指差し、ピエールに噛まれてしまう。
確かにアスカも思ったが、それを言わないで置いたのに…とアスカは二人を呆れあ目で見る。
しかし言われたガン・フォールは自分でもそれは気づいていたのか、二人の言葉に弱弱しくだが否定せず頷く。


「………そうだな…おぬしらの…言う通りだ…」

「……………」


ナミは悲しげな表情を浮かべるガン・フォールを見つめるが、かける言葉が見つからなかった。
今のガン・フォールを見ていれば、それは間違いだと分かっていると見て取れるため関係のない自分たちが責めるわけもいかない。
空気を変えようとナミは何か言おうとしてもかける言葉すらなく、口を開きかけ閉じてしまう。


「エネルは…?」

「?」

「神・エネルって何?」

「…我輩が神であった時…どこぞの空島から突如兵を率いて現れ我輩の率いていた『神隊』と『シャンディア』に大打撃を与え、"神の島"に君臨した…6年前の話だ…『神隊』は今、そのほとんどがエネルによって何やら労働を強いられているらしいが…詳しくは分からん。…だがシャンディアにとっては神が誰であれ状況はなんら変わらぬ…ただ故郷を奪還するのみ……」

「でもその"故郷を奪還するのみ"のシャンディア達が何で空から来たとたんに私達を狙って来たの?」

「空の騎士になったのもそんな脱走者を他の空島へ無事逃がしてやる為でもあるのだ…犯罪者ゆえにもはやエネルの目の届くこの国にはおれんのでな…」

「聞いてりゃ"神・エネル"ってのはまるで悪の大王だな」

「コラコラコラ!!お前滅多な事を言うもんじゃねェぞ!?全能なる"神"は全てを見ているのだ!!き…聞こえたんじゃねェか!?今!!」

「お前はいつからスカイピアの人間になったんだよ…」


アスカは空島でコニス達から聞いたとき今みたいに神・エネルの事なんて興味もなかった。
ああ神がいるんだな程度しかとらえていなかったが、目の前の人物がその神で、蹴落とされたというのを聞いて青海人として不思議に感じてしまう。
青海人の言う神とは、一言で言ってしまえば『会う事が出来ない存在』である。
天にいて自分達には決して姿を現さないのが神という存在。
そこでいるいないの問題は別方向へいってしまうためここでは協議はしないが、とにかく神という存在はまさに雲の上の存在なのである。
だから余計に政権交代と言わんばかりのガン・フォールの言葉に違和感を感じた。
多分アスカが空島出身の人間ならば今のアスカのような疑問は思わないのだろうが。
エネルの問い、そしてここに来たときに問答無用に襲ってきたゲリラ…それらを聞いてアスカはなんとなく納得する。


「恐怖か…いや、それより性質が悪い……エネルはお前たちの様に国外からやって来る者達を犯罪者に仕立て上げ、裁きにいたるまでをスカイピアの住人達の手によって導かせる…これによって生まれるのは国民達の"罪の意識"」

「……………」

「……………」

「己の行動に罪を感じた時人は最も弱くなる…エネルはそれを知っているのだ…『迷える子羊』を自ら支配する…まさに"神"の真似事というわけだ……食えぬ男よ…」


ガン・フォールの説明を聞き、ナミは深い溜息をつき顔を手で覆う。


「エンジェルビーチに着いた時はここは楽園にさえ思えたのに…とんでもない…かつての黄金郷もえらいトコへ飛んで来ちゃったものね…」

「うん…楽園は見かけだけだったね。」

「おぉ、そうだ、おぬしら……その…昨夜から騒いでおる"オーゴン"とは一体……何なのだ?」

「……え??」


ガン・フォールの予想だにしなかった言葉にその場に居た全員が呆気に取られる。

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