バチバチ、と何かが弾かれたような音がアスカの耳に嫌に大きく聞こえた。
その瞬間ドサリとした音も聞こえアスカはハッとさせ顔を上げた。
そこには黒こげになって倒れるサンジがいた。
「サンジ君!!」
「サンジ…!!」
「サンジーーー!!!ギャ〜〜〜!!ギャ〜〜!!!」
つい先ほどまでサトリも使用していた、インパクトダイヤルの事を教えてもらっていたはずだった。
しかし突然の訪問者―――エネルと名乗った男が現れ、そして―――サンジが黒こげにされたのだ。
「うお…お…!!おい…!!しっかりしろよ!サンジ!!!おい!心臓の音が聞こえねェぞ!!!」
「うそ…!」
「サンジ!!」
「ヤハハハ!」
怪しくない、危害を加えるつもりはない、と言われてもタイミング的に見てもどう考えても敵としか言いようがない。
むしろ怪しくない、危害を加えないという輩は大抵敵である。
だから愛しのアスカとナミを守るべくサンジはエネルに蹴りを入れようとした。
しかしバチバチと電撃のような物がサンジに振って落ちサンジは動かなくなった。
一瞬何をされたのか分からなくて唖然としていたが、サンジが倒れる音にみんなハッと我に返る。
ウソップとナミが倒れるサンジに駆け寄り、ウソップがサンジ抱き起こし胸に耳を当てるが音がしないと騒ぎナミは涙を溜める。
サンジの心臓が動かないと聞いてアスカは頭に血が上りギッとエネルを睨みつけた。
ガン・フォールも同じくエネルを睨む。
「ヤハハ…馬鹿な男だな……別に私はお前達に危害を加えに来たわけではないというのに…」
「ならば何しに来た!!」
「ヤハハ、冷たい言い草じゃあないか…実に6年ぶりだぞ…!!先代"神"ガン・フォール!!」
エネルの言葉にアスカはガン・フォールを見た。
エネル…その名前はアスカも聞いたことがある。
コニス達が恐れ崇め、そしてガン・フォールを神の座から下ろされせた本人…この空島の現、神である。
神であるエネルの登場にアスカは緊張でグッと拳を握った。
「ぢきしょう!!こいつ…サンジを……!!殺しやがったァ〜〜〜!!!!ちくしょう!チョッパーがいてくれたら!!何も聞こえねェ…!!心臓がピクリとも動かなねェ!!」
「………ねえ、ちょっと…ウソップ…そっち右なんだけど……」
「「え」」
ガン・フォールを見ているとウソップ達も見え、アスカはウソップが聞いている心臓があるであろう場所に違和感を感じた。
じっと観察してみれば、そこは心臓がある場所の反対側であり、肝心の心臓はその隣の左側にある。
それを指摘すればウソップは反対側の胸元へと耳を当てる。
「ゲ!!心臓が動いてる!!!」
アスカに言われてウソップが改めて調べると心臓が動いていた。
それにナミもウソップもアスカもホッと胸を撫で下ろし、サンジが生きているという事でアスカの入れていた力も少しだけ解れた。
だが警戒はおろそかにはしていない。
「よかった…!生き返って…!!」
「でも重傷よ!!死ぬかも…!!!」
「なにィ!!?えらいこっちゃ!!大変だ……」
「!!」
警戒はおろそかにはしていない。
そのはずなのだ。
しかし無事な事に喜ぶウソップの体が瞬きを一度した瞬間には…サンジのように黒こげになっていた。
一瞬にして体を黒こげにされたウソップはそのままサンジの上に倒れてしまい、アスカもナミも突然の事で声を失くす。
「黙っていれば……何も…―――!!」
サンジの時も、ウソップの時も、このエネルがそばにいた。
アスカは仲間を二人も傷つけられ頭に血が上り、足をウサギにし骨にヒビが入っているというのにエネルの顔面に蹴りを入れた。
アスカは当然蹴りが入ったと思った。
エネルはナミ達に気を取られていたし自分は目も合っていなかったのだから不意をつけたと思ったのだ。
しかし…
「なっ…!!!」
「なに…!?」
「え…!?」
アスカの蹴りは効くことなく、バチバチと音をさせエネルの顔を貫通した。
(こいつ…!自然系の能力者…ッ!!)
蹴りが顔を貫通するなんてものは現実にはあり得ない。
しかし、たった一つ…あり得ることがあるのだ。
そう…それは悪魔のみの能力者。
それも自然系の特権。
それを見てアスカはエネルの力の正体が分かった。
サンジ達がなぜ突然ただ触れただけなのに黒こげになったのかも分かった。
このエネルという男は―――…
「黙っていれば何もしないと言おうとしていたのだが…気の早い奴だ」
顔を貫通されながらもエネルはアスカを睨むように見つめ、バチバチ!!と音をさせる。
あとはいつものように力を入れれば2人と同じようにアスカも黒焦げになる…はずだったが…
「なに…?」
「あ…危なかった…!!!」
≪雷…主にとっては厄介な獲物よの…≫
アスカもエネルの攻撃を防ぎ、飛びのいた。
地に足をつけばやはりいくら気は張って能力で誤魔化そうとも足のヒビの痛みは強く響く。
足を気にしながらもアスカはエネルからの攻撃を盾で防いだシュラハテンを戻す。
エネルは盾が蛇となりブレスレットへと戻ったのを見て不思議そうに見つめていたが、小首を傾げる隙にアスカは痛みを無視しエネルの懐にあっという間に入り込む。
体勢を低くし腕を挙げ、顎に拳を振り上げた。
しかし、やはりその拳は貫通し通じず、アスカはそのまま回し蹴りを二度連続で繰り返した後後ろに下がる。
それを見てエネルは笑い声を上げる。
「ヤハハ!案外大した力の持ち主ではなかったのだな!!!私に危害を加えた罪は重いぞ!!!」
アスカの攻撃が効かないのを見てエネルはアスカを格下と見た。
アスカは自分の攻撃が効かないのを見て、そして自分をあざ笑うエネルを見ても逆上するでもなく、荒れた息を整いすっと表情を変える。
「シュラハテン」
「…!」
深呼吸した後アスカの表情が変わったのを見てエネルは違和感を感じた。
その瞬間アスカの手に突然棒が現れ、アスカはその棒を構えエネルに向かう。
エネルは『また無駄な事を』と思いアスカの攻撃は効かないと思った。
だが、それが仇となる。
「グッ、―――!?」
エネルの顔横をアスカは棒で殴った。
本来ならエネルはその攻撃は効かないはずだった。
だが、アスカの攻撃はその油断したエネルに当たり、エネルは思いっきり吹き飛んでしまう。
「え…!?うそ…!!」
「エネルに攻撃が…当たっただと…!?」
ナミもアスカとのそれまでの闘いを見てエネルに攻撃が当たらないと思っていた。
そしてそれはエネルの体質を知っているガン・フォールも。
当然エネル本人も。
アスカは驚く二人をよそに吹き飛んだエネルに歩み寄り、倒れているエネルにシュラハテンを分裂させ動きを封じる。
「?…力が…」
「出ないんでしょ?やっぱりね……あんた、能力者でしょ?それも自然系の。」
「能力者…?」
「自然系はちょっと厄介だけど…うちのシュラハテンは海楼石を食べて海楼石そのものになれるから…だから、私は今からあんたを殴り放題ってなわけ。」
なぜ自分に攻撃が当たったのか…理解できていないエネルは首を傾げていた。
アスカはそんなエネルをよそにエネルの上に跨りハートマークがつくくらいのいい笑顔で拳にシュラハテンを覆わせ殴りかかる。
サンジとウソップを黒こげにした腹いせにアスカは強く殴り血が周りに飛び散り鈍い音が何度も響く。
このまま死ぬまで続くと思っていた。
しかし…
「―――ッあ、ぐ…!」
「アスカっ!!」
アスカの脇腹にエネルの杖が貫いた。
その時出来た隙にエネルは杖が刺さっているのに関わらず蹴り飛ばし、アスカは手すりにぶつかり川に落ちずに済んだ。
エネルは殴られている間、杖に手を伸ばし、アスカの体を突き刺したのだが、顔からは血が大量に流れ痛みに苦しみ手すりを支えに立ち上がり刺された脇腹を抑えるアスカを睨みつける。
「神である私に血を流させるとは…!!!貴様は今ここで殺してやる!!!!」
「待て!エネル!!!」
「黙れ!老いぼれ!!!」
「が…ッ!!」
「変な騎士!!!」
血を流す脇腹を抑えるアスカを本気で殺しにかかるエネルに慌ててガン・フォールが庇うが杖で殴られ飛ばされてしまった。
エネルはアスカの首を手にやり持ち上げ見上げ、アスカの苦しむ様を見て楽しんでいた。
「お前は能力者だったな……能力者は確か泳げないとか…しかもその血だ…魚が引き寄せられるだろう」
「アスカを放しなさい…!!」
アスカの危機にナミがエネルにクリマタクトを向けるが杖で吹き飛ばして離れさせる。
そして腕を掴むしか抵抗できないでいるアスカを見上げ、その様に機嫌よく目を細める。
「ヤハハハ!!恨むなら私ではなく己の弱さに恨むがいい!!」
「―――――ッ!!!!!」
留めと言わんばかりにエネルは力を入れた。
その瞬間にバチバチと音をたてアスカの体がサンジ達と同様黒こげになった。
気を失っているようにぐったりとしているアスカをエネルはそのまま川に投げ飛ばし、それを見たナミが慌てて駆け寄る。
「アスカ!アスカ…ッ!!!」
「ヤハハ!これで分かっただろう!!私に逆らい危害を加えたらどうなるか!!!」
アスカの血なのか、川は血で赤く染まりナミはその広がる血の量に力なく座り込み涙ぐんだ。
「そんな…ウソ、でしょ……!!」
アスカは妹のように可愛い女の子だった。
それを言えばゾロは『お前大丈夫か?チョッパーに診てもらえ』と言われるが、それでもナミにとってアスカは可愛い妹なのだ。
年齢を聞けば自分より下だがそう変わらないのに、見た目の方が実年齢より下に見えるのだからどうしても放っておけないのだ。
だからナミもサンジもどうしても過保護になってしまう。
その反面ナミはアスカの能力と度胸にいつも助けられてきた。
今回だってサンジが戦闘不能となって自分たちを助けるためにエネルに立ち向かってくれた。
いつもロビンに並ぶほど冷静沈着だが、仲間が傷つけられれば怒る優しいところもあった。
そんなアスカが今…川に落ち沈んでしまった。
血が広がる水面を見てナミは助け出すという考えも出来ずその場に座り込みポツポツと涙を流す。
ポツリとナミの涙が床を濡らしたその時―――…
―――ヒュンッ!
川から突然、小さな円状の刃物が飛んできた。
その刃物は避けきれなかったエネルの体を傷つける。
「…っ!!」
「え…?」
突然の出来事に唖然としていたが、ザパリと水音が聞こえ、ナミはエネルからその音の方へと振り替える。
そこには…
「アスカ…っ!!」
アスカがいた。
アスカは大蛇となったシュラハテンの上にいた。
川の血は確かにアスカの物だが、どうやら溺れ死ぬのも魚の餌になるのもシュラハテンが防いでくれたようで、ナミは心の底から安心する。
「ハァ…ハァ……」
「貴様ァ!!何度も何度も…!!私を傷つけるとは!!殺しても殺したりんぞ!!!」
エネルはまたアスカに傷を付けられたことに怒り狂うように叫ぶ、
ナミはエネルの怒りで怯えるよりも、仲間が生きていた事に喜んでいた。
アスカはエネルの怒りに反応するでもなく、俯きな加減のその顔は真っ青となり息も浅い。
アスカの傷口からだろう…シュラハテンの体を伝って赤い血が川に流れていた。
喜んでいたナミだったが、そのアスカの顔色に不安そうに顔が曇る。
「…ハァ…ハァ…」
「ん?ヤハハハ!!!喋れもしないほど弱っているというのにまだ私に立ち向かうつもりか!!」
「………ハァ…」
シュラハテンがゆっくりとアスカを船に戻し、アスカは滑るようにシュラハテンから降りじっとエネルを睨みつける。
エネルもアスカを睨み怒りを露わにしアスカを今度こそ息の根を止めようと近づいた。
しかし、エネルは気づいたのだ――アスカはすでに意識が朦朧とし戦うどころか体、指一本動かすことができないことに。
だからそれに気づいた瞬間にエネルは大声で笑い、そして…自分を睨むことしかできないアスカの額に指を当てる。
「これで…最期だ……!!」
「やめ……!!!」
何をしようとしているのか…ナミは気づいた。
止めようとナミが駆け寄りアスカへ手を伸ばしかけたその瞬間―――眩い光りにナミもガン・フォールも目を瞑る。
―――そしてドサッ、という音に目を開けると光が収まっており、その代わりにエネルの目の前にアスカがうつ伏せになって倒れていた。
ピクリとも動かない黒焦げのアスカを見てナミは悲鳴を上げた。
「アスカ……ッ!!!」
「エネル…貴様…!!!」
ガン・フォールの睨みにエネルは笑みを向ける。
136 / 293
← | top | back | →
しおりを挟む