(137 / 293) ラビットガール (137)

「何てこった…!!」


目を覚ましたサンジは船にナミがいないことに気付く。
そしてもわんもわんといつもの妄想をし、ナミがあの後連れていかれたと思い込んだ。
勿論、理由は可愛いからである。
居場所は分からないがとにかくナミを連れ戻しにいかなければと慌ててウソップを蹴り起こす。


「おい!ウソップ!起きろ!!!寝てる場合か!てめェ!!!」

「ホゲ!ホゴ!ブホ!!」

「ぅ…」


サンジの声にウソップの隣で気を失っていたアスカも目を覚まし、瞼を開く。
その開ける瞼すら重く感じながら、アスカはダルイ体を起こす。
上半身を起こそうとするとズキリとした痛みが脇腹に感じアスカはそこへ手を伸ばしながら見る。
そこには包帯が巻かれており、まだ塞ぎ切っていないため起き上がった時傷が少し開いたのか血が滲んでいた。
それでも黙って寝てるわけにはいかないとアスカは起き上がり、そんなアスカを見てサンジは慌てて止める。


「あぁっ!アスカちゃんはいいんだ!そこで寝ててくれ!!」

「サン、ジ…」

「すまない…!!おれの為にこんな怪我までして!!おれの為に…ッ!!!」

(別におぬしのためではないが…)


相変わらず幸せな頭をしているサンジはアスカが自分"だけ"のためにエネルに挑んで酷い傷を負ったと思っているらしく、クッと涙を浮かべる。
確かにサンジが倒され頭に血が上ったが、実際はもう一人…ウソップもやられたからであるのだが……それにサンジは気づかないだろう。
今アスカがそれに突っ込む気力がないためシュラハテンがツッコミをしたが、今はブレスレット型になっているためサンジには聞こえていない。
その間にもアスカは止めるサンジをよそに起き上がり立ち上がろうとする。
しかし足のヒビがまだ治っていないためズキリとした痛みに立っていられず座り直した。
それを見てサンジがアスカに駆け寄り体を支えてやる。


「アスカちゃん…っ!!本気でやめてくれ!!!こんなに傷だらけで血も流してて…ッアスカちゃんにもしものことがあれば死んでも死にきれない!!」

「大、丈夫…」

「お、おい!アスカ!何が大丈夫なんだよ…お前足にヒビ入ってるしやめとけ!おれとサンジが行くからさ!!」

「大丈夫…」

「だから…」

「一人はいや…一人にしないで…」

「「…!」」


ウソップも本当は行きたくはないが、流石に怪我人を行かせるわけにもいないため残ってもらおうとした。
だがそれでもアスカは頑なに拒み、ウソップもサンジも縛り付けてでも大人しくさせようかと思った。
しかし、アスカが小さな声で呟くその言葉に二人は口を閉ざす。


「アスカちゃん…」


アスカの言葉に…泣きそうな顔に、これ以上何も言えなかった。







そして、現在…アスカ達は空を飛ぶ船にロープで上っていた。
元々空島で空に近いのに更に上に昇っているからか、ヒョオオオ、と強い風の音を聞きながらサンジとアスカとウソップはロープを上る。
正確に言うとサンジとアスカが、だ。
ウソップは船に繋げたベルトのロープに捕まったまま体を震わせていた。


「も、降りたい〜〜っ!!これ以上高く上がったら降りられなくなるぞ!サンジ〜〜!!アスカ〜〜!!!お前ら…これどう見てもこの船、神が乗ってるぞ!」

「乗りかかった船だ!観念しやがれ!!」

「だから…ハァ……ッ、行くん、でしょ!ナミを、助けたくないの!?」

「た、助けたいけどよ〜!怖ェもんは怖ェんだよ!!」

「神だろうが何だろうが…ナミさんに指一本触れてみろ……!!このおれは青海の悪魔と化すぞ!!!うおおおおお!!!ナミさ〜ん!!!!」


泣き叫ぶウソップにアスカも怒鳴るように声を上げる。
アスカはエネルの正体に気付いていた。
あの男は能力者なのだ。
あのビリビリとした痛みも体が黒焦げになったのもその能力の力である。
恐らくエネルは自然系の能力者―――雷人間なのだ。
空島なので人間と言ってあっているかは分からないが、名前はおそらく『ゴロゴロの実』。
自然系であり雷人間だからこそ、空島には天敵がいなかった。
だから神でいられたのだろう。
アスカだって自然系には勝てない動物系の能力者なのだ。
勝負なんて戦ってみなければ分からないと言うが、ヒエラルキーで言えば自然系に動物系が勝てないのは常識である。
何より正直まだ意識がはっきりしていないし今にも気を抜けば気を失いそうになっているから今ウソップにまで気が回らないのだ。
自分の事は自分で何とかしてほしい。
サンジの叫びは風にかき消されてしまった。







そしてウソップは悲しい事に船に乗り込んでしまい、三手に別れるというサンジの提案に声を上げる。


「中に入ったら三手に別れて一気に甲板を目指す!!ナミさんはそこに居る!!!」

「何ィーー!?バラバラに行くのか!?」

「バカ野郎!!!拡散しねェと共倒れになっちまうだろ!!!それにおれだっておれの為に傷ついたアスカちゃんと離れたくねェ!!!」

「何だそのどっちか死ぬような言い方!!!……待てお前…!!まさかナミのために…」


乗り込んだまではいいが、三手に別れるという提案をウソップは呑めなかった。
どちらかが倒されるような言葉にウソップはハッとさせる。
そんなウソップに後ろを向いていたサンジは振り返りウソップの肩に手をやり、そして…


いいかウソップ!!おれはナミさんの為ならお前が死んでも構わない。

「ハリ倒すぞてめェっ!!!!」

「ただし死ぬならアスカちゃんとナミさんを庇って死ね!」

「お前が死ねっ!!!」

「さァ行くぞ!!待っててナミさん!!!!」

「話済んでねェだろ!!!」


二人がコントを始めたのと同時に、アスカはさっさと乗り込みその場にはいなかった。

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