(139 / 293) ラビットガール (139)

「倒れかけた蔓を渡って舟まで飛ぶ〜!?」


ウソップの声でアスカは目を覚ました。
目を覚ましたと言っても深かった意識が浅くなっただけで瞼はまだ開いていない。
体が重いのだ。
アスカは動物系の能力者故の回復なのだが、基本の体の構造は人間…まだ意識が完全に回復するにはもう少しかかるだろう。
ウソップの焦った声に続いてゾロの声も聞こえた。


「それ以外に考えられねェだろ!!」


話を聞けばどうやらルフィはすでに上に登っているようで、それを追ったナミの指示で傾いている蔓を使ってルフィを船まで登らせるつもりらしい。
ウソップはその無茶苦茶な提案に反論しているようだった。
ウソップは反論していたが、ゾロに『じゃぁお前上に行って止めて来い』と言われ思わず『止まる奴かよ』と叫ぶ。
勿論止まる奴とはルフィの事である。
ゾロの言葉にぐうの音もでないウソップは口を閉じてしまう。
すると目も開けれないアスカの耳に雷が落ちる大きな音が聞こえた。


「地面のある場所へ!!ここじゃ遺跡につき落とされる!!!」


エネルからの攻撃はすでに始まっているようで、ここにいては危険だとゾロは気を失っているチョッパーをロビンに投げ渡し、サンジはウソップが抱え、ピエールはガン・ゴールが連れ、アスカはゾロが抱えて地面のある場所まで走る。
ロビンにチョッパーを渡したのは女の腕で人一人抱えられないだろうというゾロの考えだからだ。
避難しゾロはアスカを地面に降ろした後刀を抜きまた来た道を走る。


「とにかくやるぞ…!!舟の方へ蔓を倒しゃいいんだな…!アレを落とされる前にエネルの居場所に辿りつけるのは今この空島であいつらしかいねェんだ!!!」


今、エネルを倒せるであろう人物はルフィしかいない。
どうやらエネルの能力は雷のようだし、ルフィはその電気を通さないゴム人間である。
唯一、無敵を誇っていたエネルの弱点でもあるのだ。
だから今自分たちのすべきことはそのルフィを舟まで登らせることである。
ゾロは刀を手に蔓に向かって走り出し、そして蔓を簡単に斬った。
しかし、その瞬間ゾロは雷に直撃してしまう。


「ゾローーッ!!」


遠くて見えにくいが雷はゾロに直撃したいうのは分かった。
落ちていくゾロを見てウソップは悲鳴を上げた。
それでもゾロは仕事をこなしてくれたようで太い蔓の一本を斬ってくれた。
しかしその蔓は一向に傾く兆しはない。
もうあんな太い蔓を切れるのはゾロしかいないためそれに焦っていると、突然下から蔓に何かが突撃したような衝撃が走り少しばかり傾いた。


「何だ!?下からスゲー衝撃が!!」

「蔓が……」

「……!だめだわ!!少し傾いたけど…!倒れない!!今ほどの衝撃でも…!!」


ロビンの言葉に蔓を見つめているとワイパが立ち上がった。
すでに動けるメンバーで蔓を倒せる者は自分しかいないと思ったのだろう。
そんなワイパーに気付き女の子…アイサが止めに入る。


「無理だよワイパー!止めて!!」

「黙ってろ!あの鐘は……カルガラの意思を継ぐおれ達が鳴らしてこそ意味がある!!麦わらに何の関係があるんだ!!」


ワイパーは止めに入るアイサを余所に動こうとし、それにロビンが振り返る。


「放って置け!ロビン!あんな重傷マンに阻止されるもんか!あの蔓を倒すのが先だ!!上でルフィ達が待ってる!!」


そう言ってウソップはパチンコを持ち蔓を睨み上げる。


「ゾロが半分斬ってくれてるし!全体は傾きかけてんだ!おれ様の"火薬星の舞い"を炸裂させる事で"ヤツ"は大きな悲鳴と共になぎ倒されるのだ!!やはりこの海賊団…おれ様こそが砦なのだ!!!出動だ!!うおおおおお!!」

「待っ…」

「400年…」

「!」


腹をくくったのか、パチンコを手にウソップはワイパーが止めるのも聞かず蔓へ向かっていく。
ワイパーは止めようと手を上げるがロビンが割り込み、失敗に終わる。


「400年…青海である探検家が「黄金郷を見た」とウソをついた。世間は笑ったけれど、彼の子孫達は彼の言葉を信じ今でもずっと青海で"黄金郷"を探し続けてる…黄金の鐘を鳴らせば"黄金郷"が空にあったと彼らに伝えられる…"麦わら"のあのコはそう考えている…素敵な理由じゃない?……ロマンがあって…こんな状況なのにね……脱出の好機を棒に振ってまで…どうかしているわ……」

「そいつの…子孫の名は……?」

「モンブラン・クリケット」

「ならば、400年前の先祖の名はノーランドか…」

「え…」


ロビンの言葉にワイパーは涙を流し、そして走り出す。
アスカはうっすらと瞼を開けてその男の背を見送った。
その際…彼の背に赤い髪を持った誰かの背が被って見えた。







ウソップは雷を巧みに避けながら蔓を倒そうと必死になるが中々倒れそうになかった。


「ハァ、ハァ…畜生!何なんだ!!ビクともしねェ…!本当に植物か!?今度は3連…」

どいてろ


ググッとゴムを引っ張るが、ワイパーがウソップを下がらせ蔓の上に乗り込み"俳撃"を打ち込む。


「んな…!!なんじゃありゃ〜〜〜〜!!!」

「バカな…!…俳撃貝!!!」


その強力な威力は巨大で太い蔓を一発で吹き飛ばしたのだが…肝心の蔓はメキメキと音をさせるが倒れる気配はない。


「そ、そんな…ワイパー!!」


ワイパーも倒すことができなかったその事実にアイサは焦りをつもらせる。
今度はロビンが行こうと足を一歩踏み出したそのとき――後ろに動く気配を感じロビンは振り返る。
そこには上半身を起こし座っているアスカがいた。
目を覚ましたアスカにロビンは目を見張る。


「ウサギさん…!目を覚ましたのね…」

「うん…ねえ、ロビン…あれを倒せばいいの?」

「ええ、そうよ」


目を覚ました事にホッとしながらもアスカの目がまだうつろなのを見て完全に意識が戻ったわけではないと知る。
元々次は自分がやる番だと思っていたからロビンは蔓を見上げながら『でもあなたはここで安静にしていて』と言おうとしたのだが、その言葉をアスカが遮った。
名前を呼ばれロビンは蔓からアスカへと振り返る。


「ロビン…ロビンはジャヤの正体、気づいてた?」

「ジャヤの、正体?」

「あの絵本…うそつきノーランド……あの人、嘘、ついてた?」


名前を呼ばれ振り返ればアスカの言葉にロビンは怪訝とさせた。
今、絵本の内容は関係ない。
しかし答えないという選択も今はその時ではないという選択も不思議となかった。
目をうつろにさせながらもロビンを見上げるまっすぐなその金色の目にロビンは気づいたら首を振っていた。


「あの人は嘘なんかついていないわ」

「じゃあ黄金は…あの島はあったんだね」


首を振ったロビンを見てうつろだったその目に少しだけ光が灯った。
まだ気を失う寸前だが、その変化は本当に僅かなためロビンは気づかない。
黄金の島があるかという答えにロビンは…頷いて見せる。
その頷きを見てアスカは立ち上がり、能力を出して一瞬にしてロビン達の場所から蔓へと飛んで向かった。


「!――ウサギさん!?」


一瞬の出来事に呆気にとられたが、背後から大きな音が聞こえロビンは我に返り振り返る。
振り返ったロビンの目の前には…蔓が音を立てながら西へと倒れているのが見えた。


「…ウサギさん……」


唖然と落ちていく小さなアスカの姿をロビンを見つめる。







蔓を倒すのに精いっぱいでアスカはポスンと雲の上に落ちる。
仰向けに落ちたため空が真っ黒に染まっているのに今気づく。
しかしそんな気味の悪い空よりも倒れていく蔓の方が気になってすぐに蔓へと目を戻す。


「蔓が……」

≪お倒れになられますね…≫

「シュラハテン…」


ゆっくり倒れる蔓を見つめているとシュラハテンが蛇となって現れた。
アスカは体を起こそうとしても動けず、そんな主にシュラハテンはアスカを守るようにしながらも体を枕や足枕にさせながらどくろを巻く。


「ねえ…やっぱり、黄金はあったんだよ……『――』」


首や頭、足に蛇特有の冷たさを感じながらアスカは倒れた蔓を見上げ、声を零す。
『ねえ』と言われシュラハテンは声をかけられたかと思い主の顔を覗き込んだ。
しかしまだアスカの目はうつろで意識も朦朧としており、そして最後に誰かの名前を呼んだ気がしたため勘違いだと気づく。
そんなシュラハテンに気付かず、アスカは震える手を目線まで挙げ、手のひらを…正確には手の指先を見つめた。
そこにはまだ赤いペンキが残っていた。


「……まっか…まるで人の血みたい…」


独り言をポツリと呟き…アスカは朦朧としていた意識も限界が来てしまい重たい目蓋を閉じ、アスカは気を失った。
――深い夢の中に入る直後鐘の音が聞こえた気がした。

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