(141 / 293) ラビットガール (141)

アスカがいた建物は遺跡のようで、外に出れば今出た遺跡と似た建物跡が残っていた。
その遺跡たちに囲まれながらルフィ達は激戦の後の宴会を始めている。


「あ!アスカ!!」


周りを見渡し幼馴染を探していると、聞き慣れた声が聞こえそちらへ意識を向ける。
そこにはチョッパーがおり、アスカの姿に気付いて駆け寄ってきてくれていた。
そのそばには同じくアスカに気づいたナミもいた。


「アスカ!目覚めたのね!!良かった…」

「ああ!!あ、でもまだ歩いちゃ駄目だぞ!足にヒビ入ってるだろ!それに腹部も深く刺されてたし!!」


アスカの治療をしたのはどうやらチョッパーのようでそこにまずは安堵する。
背中のあの焼印を例えその意味を知らない空島の人だとしても見られるのは嫌だし、アスカにとって苦痛だった。
ヒビが入っている足で立つアスカにチョッパーは戻るように言うがアスカはそんなチョッパーをよそに辺りを見渡していた。


「どうしたの、アスカ?」

「ルフィはどこ?」

「ルフィ?ルフィならあそこに…」


『いるわよ』、とナミがルフィのいるところを指差そうとしたその時、その指さした方向から黒い何かが飛んできてアスカにぶつかった。


「えええええ!!?」

「キャーーッ!!私のアスカが〜〜!!!」


砂煙が舞い、アスカの姿が見えずチョッパーもナミも敵襲かと言わんばかりに叫ぶ。
その叫びは宴の楽し気な音にかき消されていたが、近くにいた数人はこちらを見ていた。
砂煙もしばらくすると薄れて消えていき、砂煙がなくなって現れたのはアスカだった。
そう……―――ルフィに抱き着かれ押し倒されているアスカがいたのだ。
あの黒い影はルフィで、ルフィはスカイピアの住人やシャンディアの戦士達と一緒に踊っていたがアスカに気付くと文字通り飛んできたというわけである。


「こらーーーッ!!ルフィーーッ!!何してんだよ!!アスカは怪我人なんだぞ!!」


医師であるチョッパーは怪我人であるアスカに突進に近い抱き着きをしたルフィをすごい剣幕で叱りつけたのだが、ルフィからはなんの反応もなくアスカの首筋に顔を埋めているだけだった。
『聞いてんのか!ルフィ!!』と怒鳴ろうとしたチョッパーの肩を傍にいたナミが叩く。
ナミに肩を叩かれたチョッパーは怒りをそのままに『なんだよ!』とナミに怒鳴ると、ナミが無言でルフィを指さした。
ナミを介して、ということもあり少し冷静えを取り戻したのか、チョッパーはアスカに抱き着くルフィの体が震えているのが見えた。


「ルフィ?ど、どうしたんだよ…」


体を震わせるルフィにチョッパーはどこか具合でも悪いのかと心配する。
アスカも抱き着いてくるルフィの体が震えているのを見て、起き上がれないため押し倒されたままルフィに声をかけた。
アスカの声かけでようやくルフィは顔を上げると―――


「よがっだ〜〜っ!!アスカ〜〜!!!」


ルフィの顔はこれでもかというぐらい涙と鼻水だらけだった。
それを見たナミが『うっわ…』と顔を歪めるほどの威力を持っており、それに気づいていないルフィはまたアスカを抱きしめた。


「ずっどおめ゙ェ起ぎないがら…!!も、駄目がど思っだんだよォ〜〜!!ま゙たあ゙ん時みだいに目を覚めな゙い゙んじゃな゙いがって…!!すっげェ〜〜怖がっだんだ〜〜!!」


おうおうと泣き出すルフィの言葉は正直理解不能である。
翻訳家を呼べと言いたいくらい分からない。
でも幼馴染パワーでアスカには通じているのか抱き着くルフィにくすりと笑い、自分もルフィの背中に手を回してすり寄った。


「ルフィ…ルフィ、ごめん…ごめんね、ルフィ…」

「も゙ゔ…お前、もう、勝手に怪我ずんな!!も…船がらおりる゙な゙!!部屋がらも゙出る゙な゙!!!」

「うん…」

「船長命令だがら゙な゙!!」

「うん…」


涙声で何言っているか分からないルフィに、頷くアスカ。
二人の会話を聞きながらナミもチョッパーもお互いの顔を見合う。
どうもこの船長は幼馴染の事になるといつもの様子から一変してしまうらしい。
『あの時』、と言うのは勿論アスカが来たばかりの事だろう。
アスカは『あの時』生死をさまよっている状態だったからどんな様子かだなんて分からない。
だけどルフィがここまでトラウマとなっているのだから相当だったのだろう。
この先の事は分からない。
だけど海賊である自分たちが名が広まれば広まるほど賞金は高くなり、その敵もそれ相応の敵が現れるはず。
だからアスカは確実な約束はできない。
しかし今のルフィにそんな事言えるはずがなかった。
ルフィも言ってはいるが本気ではないのだろう。

ルフィが落ち着くまでアスカはルフィに力いっぱい抱きしめられていた。







ルフィがガチで泣いていると気づかず、宴はまだ続いていた。
落ち着いたルフィはアスカの首筋に顔を埋めたままスンスンと鼻を啜っており、アスカはポンポンとルフィが落ち着くまで背中を優しく叩いていた。
それが数十分も続いており、そうなればチラチラとこちらに気付いている住人達が出てきた。
勿論仲間たちも気づいており、ゾロはルフィがアスカを押し倒しているのを見て一瞬ギョッとさせたがいつもの事だと酒を飲み直し…そして同じくルフィ達を見て驚いていたウソップに肩を叩かれ同情したような暖かな目で見つめられたというお馴染みのコントを繰り広げていた。
女に関したら目ざといサンジも当然気づいていたが、ルフィに押し倒されているアスカを見て相当ショックを受けたのか呆然と立ち尽くした後白目をむいて気を失った。
そのせいでチョッパーは駆り出されてしまい、その場はナミしか残っていない。


(さて…こいつらをどうするか…)


ルフィの様子からしてアスカから離れることはないとナミは軽いため息をつく。
自分たちが目を覚ましたのに気を失ったままのアスカが気が付いたことはナミもルフィと同じく嬉しい。
が、まだアスカは怪我人なのだ。
バケモノな男たち連中と違い(ナミ視点の)アスカはか弱いウサギ少女。
あんなバケモノ連中の生命力と同じにしてはならないのだ。
しかし現実のアスカは動物系の能力者だから治癒力は少し強い程度でか弱くもなんともないのだが…ナミはそれに気づいていない。(盲目すぎて)
どうやってルフィを引き離しアスカをベッドに戻すかと策を考えているとルフィが突然ガバリと起き上がり、アスカの顔横に手を付けて本当に押し倒しているような格好となる。
突然ガバリと起き上がったルフィにアスカではなくナミが驚きビクリと肩を揺らす。


「そうだ!アスカ!腹減ってねェか!?」

「減ってないけど」

「じゃあ、トイレとか…」

「いきたくないけど」

「青空見たいとか!!」

「いやここ空島だし今夜だし」

「………あー……ゔー……あーーーー…あー…………んーーー…」


なぜ飯の次にトイレなのだろうか、とナミは思いながら突然のルフィの様子に困惑気味だった。
アスカはというと冷静に意味の分からない突拍子もないルフィの問いに返していたのだが、単純なルフィの頭ではもう次の言葉は見つからないようで、うんうんと唸っている。
そんなルフィにアスカがくすりと笑う。
その笑みはルフィにしか見せないような本当に年相応の笑みだった。
そんなナミをよそにアスカは笑みを浮かべたままそっと下からルフィの頬へと手を伸ばす。
ナミはすでにバカップルに構っていられないと既に姿がなかった。
アスカの小さい両手が自分の頬に触れ、ルフィはそこで我に返り唸り声を止め、バッとアスカの手首を掴む。
突然アスカの手首を掴んで起き上がるルフィにアスカは驚いた表情を浮かべ、アスカは手を引っ張られる形で上半身を起こす。
ルフィはアスカの手を見た後、すごい剣幕でアスカを見た。
アスカは怒っているような焦っているような…切羽詰まった表情を浮かべるルフィに首をかしげる。


「お前この手どうしたんだよ!!」

「手?」



ルフィの言葉に、ルフィが掴んでいる手を見れば、手先が血で赤くそまっていた。
血はまだ止まっていないのか掴んでいるルフィの手さえも赤く染めており、己の血でルフィの手が赤く汚れているのを見てアスカはどうしてか安堵した。
『チョッパーの治療の時はこんなのなかったぞ!!』と言うルフィにアスカは忘れていた先ほどの事を思い出す。


「ちょっと、すりむいちゃって」


嘘のような、本当のような…しかし全く嘘は言っていない。
説明するにも夢の事を話さなきゃいけないため、正直あんな夢見の悪い内容は話す気分でもなかった。
ルフィは応えるアスカの目をじっと見据え、嘘か本当かを見極めている。
しかし暫くの沈黙の元、ルフィは…


「そうか…すりむいたのか…」


アスカの嘘を信じてくれた。
と、いうよりは嘘を見抜いていながらも深く聞かないでおいてくれた…と言った方が正しいだろう。
ルフィは何に対しても鈍い方だが、こういう人の気持ちなどには鋭い方だ。
だからきっとアスカが言いたくないのに気付いているのだろう。
ルフィは納得したように零した後、手を放しアスカを横抱きで抱き上げる。


「おーい!チョッパー!アスカが怪我してんだー!治してやってくれー!!」

「え!?だ、大丈夫か!?アスカ!!」


横抱きしたままルフィはチョッパーのもとに駆け付ける。
チョッパーは騒いでいる人達に交じっていたが、アスカが怪我をしていると聞いて慌ててルフィのもとに駆け寄る。
チョッパーが来てくれたのを見てルフィはアスカを抱きかかえながらその場に座り込みアスカを後ろから抱きかかえるように体勢を変えて、自分の手の上にアスカの手甲を乗せてチョッパーに傷を見せる。


「うわっ!!すごい傷だ!!」


アスカとしてはそれほど傷は酷くないと思っていた。
しかし意外と酷かったらしく、チョッパーは痛々しいその傷に思わず顔を歪めてしまう。


「とりあえず布を持ってこないと…ルフィ、アスカをあの遺跡の中に!」

「おう!」


医療器具は遺跡に置いてあるし、布やら包帯やらはあちらの方が豊富にある。
ルフィもそれを知っているからかアスカをまた横抱きにしてチョッパーと共に遺跡に戻っていった。
それを見送っていたナミやウソップだが、周りに踊っていた空島の人たちが『あの二人って付き合ってんのか?』『そりゃそうだろ!なんたって船長と副船長だぜ!?』『そうそう!信頼しあう二人の間には誰も入れない絆があるのよ!!』『船の中で一番近い船長と副船長!!航海の中で一緒に居るうちに恋が芽生えたんじゃない!?』『きゃーっ!ロマンよね!!見た!?あのお姫様抱っこ!!私もされた〜い!!』『私もあんな風に大事にされたいなァ』と話していたのを聞きながら、『傍にいたらいたで面倒だぞ』とウソップが心の中で呟き、『でもあの二人付き合ってないのよねェ』とナミが心の中で答えた。
どうやら乙女は天使だろうが人間だろうが変わらないらしい。
治療は手と、そしてルフィが突っ込んだおかげで若干傷が開いた脇腹の傷だけだったが、それでも少し時間がかかった。


「いいか!ぜったいアスカを一人で歩かせない事!!あと腹にも怪我してるんだから無理はさせないこと!!」

「ああ!」

「あとあと!!何かあったら…ちょっとの事でもいいから絶対おれを呼べよ!!いいな!ルフィ!!」

「分かったって!」


暫くして出てきたのは、ルフィとチョッパーと…アスカだった。
ルフィもアスカも外で宴会をしたいと我儘を言いだし、医師として認められないと言ったのだが、滅多に来れない空島だからというのもあって渋々外にいることを認めた。
アスカは相変わらずルフィに横抱きされて出てきた。
先ほどそういう話題をしていたからか、周り…特に女性の熱い眼差しが二人に集中していた。
ルフィもアスカも気づいておらず、チョッパーのしつこい注意に頷いていた。
あまり火の近くも駄目だという忠告もちゃんと聞いており、ルフィは少し離れた場所で座り、その膝には当然のようにアスカも座っている。
アスカを抱きかかえるように座るルフィ、そしてそんなルフィを背もたれにするように体を預けるアスカ。
後ろからアスカに話しかけるルフィと、そんなルフィに答えながら腹に回されるルフィの手に己の手を重ねるアスカを見て…やはり乙女たちは盛り上がっていた。

141 / 293
| top | back |
しおりを挟む