(157 / 293) ラビットガール (157)

青雉達は荷物を纏めるのを手伝い、年に一度引き潮になるという海岸へ来ていた。


「たまには労働もいいもんだ」

「お疲れ様です」


青雉の上着を手にミコトは青雉に労わりの言葉をかけ微笑む。
青雉も笑みを浮かべるが、ミコトの後ろで隠れるように引っ付いているアスカに睨まれ困ったような笑みを浮かべた。


「なァ、シェリーを乗せる台車がないんだけど…」

「ん?あぁ、それならミコトちゃんが…ねェ?」

「姉ちゃん?」


チョッパーの問いに青雉は隣に居たミコトを横目で見ると、ルフィ達もミコトに目を移す。
ミコトは溜息をついて青雉を見上げる。


「まったく、台車を作らないからどうしてかと思ったら…」

「でも予想はしてたでしょ?」

「……仕方ありませんね…怪我した子を寒い中に放り込むのは気が引けますもの」

「寒い中…?」


肩をすくめ青雉の上着をアスカに渡したミコトは怪我しているシェリーに近づき、シェリーの身体に手を当てる。


「?なんだ…」

「し、黙って…今からいいもの見せてやるからさ」

「いいもの…?」


ルフィ達は青雉の言葉に首を傾げているとミコトの手から暖かい光りが溢れ、目を丸くする。


「な、何してるんだ!?」

「…………はい、終わりました。もう動いても構いませんよ」

「ヒヒーン!」

「動いた!?」


特に船医のチョッパーが驚き慌ててミコトに駆け寄る。
すると黙っていたミコトが微笑みを浮かべシェリーを撫でると、シェリーは立ち上がり動き回る。
動いたシェリーにルフィ達は唖然としてしまう。


「いやー、やっぱりミコトちゃんは凄いねー」

「褒めても見逃しませんからね?」

「わー、きびしいなー…」


棒読みの青雉に笑みを深めていた時、チョッパーがシェリーの包帯を取ると、そこにあった傷が綺麗になくなっていた。


「シェリーのケガが治ってる!!」

「え!?」

「傷が一瞬で消えただと!?」

「どういうことだ…?」

「さて…次はおれの番か……」


ざわめきだす一味を余所に青雉は海へ近づき、海面に手をやる。
すると海王類が姿を現し、青雉を食べようと口を開けて襲って来た。


「いかんっ!この辺りの主だ!!」

「危ねぇぞ!!」

「……"氷河時代"」

「「「!!!?」」」


一瞬にして海王類もろとも海は凍りつき、あたりは冷気が漂う。


「悪魔の実!?」

「海が…凍った!!」

「自然系…"ヒエヒエの実"の氷結人間…!!これが海軍本部"大将"の能力よ…!!!」

「これが…大将……」


ロビンの言葉にアスカは寒いのと恐ろしいので身体を震わせる。


「!」


寒さから身体を抱いていたら白いスーツが掛けられ、顔を上げるとミコトが青雉の上着を掛けてくれる。
みんな白い息を吐くなかミコトだけは白い息は出ていなかった。
それどころか、寒そうに感じられなかった。


「一週間はもつだろ…ミコトちゃんに治してもらった馬が居るから早く村に合流できるはずだ……少々冷えるんで…温かくして行きなさいや……」


そうトンジットに伝え、背を向ける。


「…夢かこれは……」


唖然とトンジットは氷の海を見つめ、呟く。


「海が…氷の大地になった…!!なァ、シェリー…海を渡れる…村のみんなに会えるぞ!10年ぶりだ!!」

「ヒヒーン!!」

「あんたら!ありがとうなァ!!ありがとう!ありがとう!!!何ちゅう奇跡だ!!」


お礼を言っても言い切れないのか、トンジットは青雉とミコトに手を振る。
青雉は手を上げるだけでそのまま草原の方へ去っていき、ミコトもゆっくりと青雉の後を追う。







ルフィ達がトンジットと別れている間、ミコトは寝転ぶ青雉に困ったような笑みを向け、傍に立っていた。


「やはり見逃すことはできませんか?」

「……まァ…ミコトちゃんの言いたいとは分かるけどさ…あいつら危険よ?分かってるだろ?」

「…………」


青雉の言葉にミコトは目を伏せる。
原作を全てではないが覚えているミコトにも青雉の言葉は分かっていた。
しかし、原作を読んでいたあの時とは違い、今はその主役と同じ血がこの体にも流れているのだ。
助かると知っていても今の弟と目の前の男の力の差を考えれば心配になってしまうのだ。


「ミコトちゃんには悪いけど、ここであいつらを潰しておかないと後々面倒になる気がするからな…」

「あなたの勘は当たりますもの…疑うことはしませんわ……いいでしょう、わたくしは一切手を出しません。」

「そうか…」

「ただし…」

「?」


原作を信じ、ミコトは手を出すことをしないと決めた。
それはルフィ達を助けもしないが、青雉に手助けもしないということである。
それでもミコトからの妨害がない事に、そして分かってくれたミコトに青雉はホッと安堵の息をつく。
しかし続けられたミコトの呟きに顔を上げる。
顔を上げて見上げるミコトの表情は少し辛そうだった。


「アスカだけは、手を出さないで下さい」

「アスカって…あの紫の髪の子?」


青雉はミコトの昔ながらの知り合いだが、その弟であるルフィともミコトも面識はない。
名前くらいは聞いた事あるが、確認のために聞く。
青雉の問いにミコトはゆっくりと頷き、青雉は困ったように頭をかいた。


「手を出すなって言ったって、あっちから手を出したら相手するよ?それでもいいかい?」

「えぇ、アスカから手を出そうなら…わたくしがあの子を相手します」

「……………」

「あの子はまだ…子供で、女の子ですから……」


青雉もミコトの願いはできるだけ聞いてやりたいと思っている。
それが同僚から『甘やかし』となるのだが、小さい頃から成長を見てきた青雉にとったらミコトは可愛くて仕方ないのだ。
家族以外には不器用なミコトが愛おしいのだ。
それでもなんでもホイホイ聞くわけにもいかない時もある。
俯くミコトに青雉は無感情に見つめる。


「子供でも、女でも…今は立派な海賊だ…しかも一味で二番目に高額な危険な海賊だぞ…」


自分たちは海軍…そして相手は海賊。
いくら任務でもないとはいえ見逃せるほどの額でもない。
青雉はルフィを見て見逃せないと直感に思った。
だから一海兵として、脅威になる前に消さなければならないのだ。
青雉の言い分はミコトにも理解でき、ミコトも腐っても海兵…それは正しいと頷ける。
ミコトもきっと青雉の立場ならば同じ考えに至ったのだろう。
しかし…


「身内というものは…他人と違い小さい頃から見てきている分…とても可愛いのです…」


ルフィも、アスカも、エースも…ミコトにとって可愛い、可愛い、弟や妹なのだ。
ましてやミコトは祖父のために海兵になったくらいの家族第一なところがあった。
ミコトは悲しげな笑みを青雉に見せ、ミコトの言葉に青雉は『確かにな…』と思いながら目を細めて身体を起こしながらミコトを見つめ困ったように頭をかく。


「まァ、ミコトちゃんがそこまで言うのなら構わないが…船を持ってないから殺しにいくぞ…」


青雉の言葉にミコトは黙ったまま微笑み、ゆっくりと頷いた。

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