(158 / 293) ラビットガール (158)

寒い寒いと、トンジット達と別れを済ましたルフィ達は草原へ戻ると青雉が肘を突いて険しい顔をして座り、その横にいつも通り綺麗に微笑むミコトが立っていた。
まだいた青雉にルフィ達は首を傾げていると青雉は頭をかき、ルフィに目をやる。


「何というか…じいさんそっくりだな、モンキー・D・ルフィ…奔放と言うか……つかみ所がねェというか…」

「……………」

「…!!……じ…じいちゃん…!!?」


じいさん、と聞いてルフィは珍しくも顔を青くし怯えた表情を浮かべる。
それを見てミコトは口元を桃色の布で隠し笑うのを我慢する。


「おい、どうしたルフィ!汗だくだぞっ!!」

「べ……べ…別に…いや……そ…その…!!」

「ルフィ、どもりすぎ。」


相変わらず祖父に対してトラウマ持ちの幼馴染にアスカが呆れたように半目で見つめツッコんだ。
そんなルフィを余所に青雉は溜息をつく。


「お前のじいさんにゃあ…おれも昔…世話になってね…おれがここへ来たのは…ニコ・ロビンと…お前とそこの紫の髪の子を一目見る為だ……」

「え、アスカを…?」


ルフィを横目で見ていたアスカは突然自分の事を言われキョトンとした表情で青雉を見つめる。
青雉はゆっくりと顔を挙げ、低い声で呟いた。



やっぱお前ら…今死んどくか

「!!!?」



青雉の言葉にルフィ達は一気に警戒を高め、殺気を放つ青雉を睨みつける。


「政府はまだまだお前達を軽視しているが…細かく素性を辿れば骨のある一味だ……――少数とはいえ、これだけの曲者が顔を揃えてくると後々面倒な事になるだろう…初頭の手配に至る経緯…これまでにお前達のやってきた所業の数々。――その成長の速度……長く無法者共を相手にしてきたが末恐ろしく思う…!!」

「そ…そんな事急に…!!見物しに来ただけだっておまえ…さっき…!!」


さきほどは見物しに来たと言ったのにどうしてそういう結論になったのかは分からないが不穏な空気を漂わせる青雉に慌てだす。
ミコトも言葉通りルフィ達を助ける気もなければこちらを手助けする気もないのか黙ったまま傍観を決めつけていた。
正直『億』の賞金首とはいえ今の実力では自分には敵わないと分かっているため手助けしてもらおうがしなかろうがどうでもよかった。
問題はミコトが弟を助けるために動くかどうか…である。
チラリとミコトを横目で見た後青雉はロビンに目を移す。


「…特に危険視される原因は……お前だよ、ニコ・ロビン…」


青雉のその言葉にルフィはやはりロビン狙いかと怒り出す。
だが、それでも青雉の目はロビンに真っすぐに向けられており、その凍えるような目にロビンは息を呑む。


「懸賞金の額は何もそいつの強さだけを表すだけじゃない…政府に及ぼす"危険度"を示す数値でもある…だからこそお前は8歳という幼さで賞金首になった。子供ながらにうまく生きてきたもんだ。裏切っては逃げ延びて…取り入っては利用して…そのシリの軽さで裏社会を生き延びてきたお前が次に選んだ"隠れ家"がこの一味というわけか」

「おいてめェ!聞いてりゃカンに触る言い方すんじゃねェか!ロビンちゃんになんの恨みがあるってんだ!?」

「やめろ!サンジ!!!」


青雉の言い方に今度はサンジが我慢ができなくなったのか、青雉を睨みつけ突っかかろうとするもウソップに止められてしまう。


「別に恨みはねェよ…因縁があるとすりゃあ…一度取り逃がしちまった事ぐらいが…」


『まぁ昔の事だがな…』と呟き青雉はロビンから目を外しルフィ達を見渡す。
ロビンは完全に青雉に怯えているが、一部怯えているように見えるも全員のその目は敵を見る強い意志を感じさせる目だった。
青雉はそれらを見渡し目を細める。


「お前達にもその内わかる…厄介な女を抱え込んだと後悔する日もそう遠くはねェさ。」

「…………」

「それが証拠に…今日までニコ・ロビンの関わった組織は全て壊滅している」

「!!!」

「その女一人を除いて、だ……何故かねえ、ニコ・ロビン」

「やめろお前!!昔は関係ねェ!!」


これ以上我慢できないとルフィは青雉に声を上げるが青雉は無表情にゆっくりルフィを見つめ、ロビンに目を戻した。


「成程…うまく一味に馴染んでる…」

「何が言いたいの!!?私を捕まえたいのならそうすればいい!!」


ロビンは"三十輪咲き"を青雉にかけようと構え、30の手を咲かせる。
それをミコトは横目で冷静に静観していた。


「ロビ〜〜〜ン!!!やめろォ!!!」

「あららら…少しお喋り過ぎたかな?残念…もう少し利口な女だと買い被っていた…」


青雉も自分の体に手が生え技をかけられているというのに冷静さを見せていた。
そして青雉が言い終わる前にロビンは"クラッチ"を食らわせ青雉の身体を反り返させる。
その瞬間青雉はガラガラと氷が砕けたように砕け散け、ミコトは仲間が、同僚が、粉々に砕けたというのに焦りも見せず目を細めるだけの反応を見せた。


「うわーーーー!!死んだーーー!!!!」

「いや…無理だ…!!おいみんな!逃げるぞ!にげよう!!!」


ミコトは砕けた青雉を見下ろすだけだった。
それもそのはずである…彼はヒエヒエの実を食べた自然系能力者なのだから。
当然ながらその程度の攻撃で倒されるほど大将は弱くはなく、砕け散った氷の中から青雉は体を再生させながら起き上がる。


「んあァ〜ひどい事するじゃないの…」

「自業自得なのでは?女性には優しくなさらないとモテませんよ?」

「ミコトちゃんにだけモテればいいんだけどねー…」


ふざけながらミコトは手から水を出し青雉に投げる。
手助けはしないが、こういうフォローはしてくれるらしく、ミコトからの水に青雉は息を吹きかけ、"アイスサーベル"を作り出し残念そうに零す。


「命…取る気はなかったが・・・」


"アイスサーベル"をロビンに向け振り下ろすがその"アシスサーベル"はゾロに刀で受け止められてしまい、更にゾロの背後から現れたサンジに"アイスサーベル"を蹴り飛ばされてしまう。
自分よりも弱いと気を抜いてしまっていた青雉は自分の"アイスサーベル"を受け止め蹴り飛ばしたのに目を微かに開いていた。
その隙にルフィが青雉の腹に"ゴムゴムの銃弾"を撃つ。
しかし…


「ウ!!」

「ん!!」

「冷たっ!!」


確かに驚き、少しだけ呆気にとられた……とはいえ、経験値としてはこちらが上。
青雉はすぐにゾロの腕を、そしてサンジを足を掴み、腹に放たれたルフィの攻撃を吸収しながらルフィの腕をも凍らせる。


「ギャアア!!凍らされたアアア!!」

「あの三人がいっぺんに…!?」


ルフィ、ゾロ、サンジの主戦三人がいっぺんに一部とはいえ凍らされ、ナミ達は驚き目を丸くする。
自分たちが強いとは思っていないが、それなりに死闘を乗り越えてきたから大将でも少しは通じると思っていたところもあった。
それがあの三人が手も足も出ず、絶句してしまう。
アスカもあの三人があっという間に赤子の手を捻るように倒され唖然としていたが、三人の声にハッと我に返りアスカも青雉へ向かおうとした。
しかし、


「あなたは駄目よ、アスカ」

「…!!」


後ろから肩に手を置かれ、アスカはその声に息を呑む。
緊張しているように体が動かずゴクリと喉を鳴らしながら睨んでいた青雉の視線を少しズラす。
そこにはいるはずの人がいなかった。


「お、おねえ、さま…」


恐る恐る振り返れば、そのいるはずの人が自分の背後に立っていた。
その人…ミコトはアスカの震えている声に目を細め微笑み、アスカの唇に人差し指を寄せる。


「あなたは手を出してはダメ」

「…ッ」


ナミ達も青雉がやられても動かなかったミコトをそれほど意識はしていなかった。
しかしミコトは突然姿を消したかと思えばアスカの背後を取り、ナミ達は青雉の能力よりも見抜くことができないミコトに警戒を高める。
そんなナミ達をよそにミコトはアスカの耳元に口を近づかせ何かつぶやく。
その言葉にアスカは目を丸くしミコトの整った顔を唖然と見上げた。


「な、んで…」


怪訝とさせるアスカにミコトは目を細めるだけで何も答えない。
ミコトが何を言ったかはナミ達には分からない。
しかし相手は何もミコトだけではなく、青雉もいる。
チラリとウソップが青雉へ目をやれば、青雉も監視するようにじっとミコトを見つめており動くつもりはまだないようだった。
ミコトは青雉の視線を感じながらアスカの肩に置いてある手をそのままアスカの頬へ包むように伸ばす。
その瞬間アスカは自分の体がフッと軽くなったのを感じ、思わず手を見る。


「アスカ…あなたには…フーシャ村に居てほしかった…」

「え…」


手を見ても何も変化が見られない。
包帯を取ろうとしたアスカにミコトがポツリと呟いた。
その言葉に弾かれたように顔を上げる。
顔を上げた途端―――アスカの視界はミコトではなく、空が映った。
アスカは周りを見渡すと誰もおらず、そこは……


「……メリー号に、戻った…?」


アスカはあの草原から、一瞬にしてメリー号に戻っていた。

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