(166 / 293) ラビットガール (166)

ルフィがメリー号との決別を決めた。
それはおそらくルフィにとってもみんなにとっても辛い選択だったのだろう。
冷めていると自覚のあるアスカだってこんなに辛いのだ…きっとナミ達はもっと辛いに決まっている。
そして…


「おーい!ウソップが目を覚ましたぞ!!」

「ホントかっ!!よかったーーー!!!」


看病していたチョッパーがウソップの目覚めを知らせるがサンジは町の方に気を取られていた。


「サンジ」

「!アスカちゃん…」

「ウソップが目を覚ましたって……」

「……ああ…」


ロビンが気になっているのはアスカでも分かっているしアスカもロビンの事が気になっていた。
しかしアスカは人を慰めたりしたことがないため、慰めの言葉も励ましの言葉も見つからずただサンジの名前を呼ぶことしか出来なかった。
自分のような人間を他人は不器用と呼ぶのだろう。
そんな不器用な自分が嫌になってしまいそうになる。







ウソップは大工達と会っている時にお金を盗まれたという。
正確には強盗。
追いかけたウソップを見つけたのはナミだった。
ウソップはボロボロで血だらけとなって見つかったらしく、ウソップに怪我を負わせたのはどうやらゾロとアスカを船で襲った連中…フランキー一味の連中だったらしい。
ゾロ達と会った連中とは違うようだが、彼らはアスカ達だけではなく海賊を相手に金品を奪い賞金をも貰っているゴロツキ達で、ウソップはナミから動くなと言われたのに責任を感じてフランキー一味のアジトに乗り込んでしまった。
見つけた時にはもうすでに気を失っている状態で、ナミが見つけた時以上の傷を負っていたという。
そのため船内でウソップは治療を受け、今やっと気がついたらしく、治療の間外に出ていたルフィ達は船内に入った。
ルフィ達の姿を見た瞬間、ウソップは傍にいたゾロの足にしがみ付き謝った。


「面目ねェ!!みんな…!!大事な金をお゙れ゙は!!!!」

「おいおい!ちょっと待て!落ち着けよ!!」

「だげど…!!おれァせっかく手に入ったとんでもねェ大金をみすみすあいづら゙に゙ィ!!!」

「ウソップ!!まだ寝てなきゃダメだ!!!」


ウソップはゾロの足にしがみつきながら涙を流す。
落ち着いたウソップはルフィにお金が戻らないことを聞き、肩を落とす。


「……じゃあやっぱり…金は戻らねェのか…」

「いや、それよりもフランキーってのが帰って来ねェと分かんねェんだ。もしダメでもまだ1億ベリーもあるんだからいいよ!気にすんな!!」

「まったく…無茶しやがる!命があったからよかったものの!!」


ルフィの言葉にウソップは力のない声で謝る。
肩を落とすウソップだったが、ふと一億でメリー号を直せるのか問うがその言葉に全員の空気が更に重く変わった事にウソップは気づいていなかった。
ウソップの問いにルフィは一瞬、間を置きながらもニッと笑った。


「船はよ!乗り換える事にしたんだ。ゴーイングメリー号には世話になったけどこの船での航海はここまでだ!」

「?」


ウソップはルフィが言った内容が理解できていないのか耳に入れたくないのか怪訝としていた。
それはルフィも予想通りだったのか、気にするそぶりも見せずルフィは貰ってきた船のカタログを手にページを捲って本を見る。


「ほんでな、新しく買える船を調べてたんだけどカタログ見てたら…まァ1億あれば中古でも今よりデカイ船が…」


パラパラとカタログ開くルフィにウソップは我に返った。
ようやく頭では理解したようで、次の船に乗り換えるというルフィに待ったをかける。


「待てよ待てよ…そんな…お前…!!冗談キツイぞ、バカバカしい!……何だ…やっぱり修理代…足りなくなったって事か!?おれがあの2億盗られちまったから…!!金が足りなくなったんだろ!!一流の造船所はやっぱ取る金額も一流で……」

「違うよ!そうじゃねェ!!」

「じゃ何だよ!!はっきり言え!!おれに気ィ使ってんのか!!!」

「使わねェよ!!あの金が奪られた事は関係ねェんだ!!!」

「だったら!!なんで乗り換えるなんて下らねェこと言うんだ!!!」

「おいお前ら!怒鳴りあってどうなるんだよ…もっと落ち着いて話をしろ!」


売り言葉に買い言葉…今の二人はこの言葉の通りだろう。
二人はゾロの落ち着けという言葉を言われても頭に血が上りお互い引くに引けないため、言い合は更にヒートアップする。


「落ち着いてられるか!!!馬鹿な事言い出しやがって!!!」

「ちゃんとおれだって悩んで決めたんだ!!!」

「ちょっと!!大事な話しなんだからちゃんと順序よく…!」

「ウソップ!体にさわるよ!!熱くなったらダメだ!!!」


ナミとチョッパーも二人を落ち着かせようとした。
特にウソップは大怪我した怪我人だから余計にチョッパーはウソップを落ち着かせようとした。
サンジも殴りかかんばかりのルフィを抑えていた。
しかし…


「メリー号はもう直せねェんだ!!!」


ルフィはついに言ってしまった。
いずれ言わなければならないとは分かっていたアスカでもその時になれば息を呑んでしまう。
ルフィの言葉を聞きウソップは絶句し、ナミとチョッパーは黙り込み目を伏せてしまう。
先ほどとは違い静まり返る中、ルフィはポツリと呟きながら続ける。


「…どうしても直らねェんだ……じゃなきゃこんな話しねェ!」


ルフィもメリー号の事が大好きなのだ。
まるで人のようにこの船を仲間だと思っている。
だから修復が出来ず尚且つ乗り換えなければならないと分かった時大工達に噛みついた。
でもそれでもどうにもできない事だと受け入れるしかなかったのだ。
あがいてどうにかなるならとっくの昔にルフィがやっている。
しかしウソップは納得できなかったのか床を叩く。


「この船だぞ…!今おれ達が乗ってるこの船だぞ!!?」

「そうだ…沈むんだこの船は!!」

「……何…言ってんだ……お前……ルフィ………」

「ッ本当なんだ!そう言われたんだ!!造船所で!…もう次の島にも行き着けねェって!!!」

「ハァ…そうかい…行き着けねェって……今日あったばかりの他人に説得されて帰ってきたのか…」

「何だと!?」


ウソップはどうしても受け入れられなかった。
ウソップからしたらカヤから譲ってもらったこの船を…仲間を簡単に切って捨てることはできないのだろう。
だからルフィの、船長の言葉もそのまま受け流すこともできなかった。
ウソップはギロッとルフィを睨む。


「一流と言われた船大工達がもうダメだと言っただけで!!今までずっと一緒に海を旅して来たどんな波も!戦いも!!一緒に切り抜けてきた大事な仲間を…お前はこんなところで…見殺しにする気かァ!!!!」


ウソップは声を上げたことで体に響き咳き込んで血を吐いてしまった。
そんなウソップを見つめながらルフィは呟く。


「じゃあお前に判断できんのかよ!!」

「………!!」

「この船には船大工がいねェから!だからあいつらに見て貰ったんじゃねェか!!」

「だったらいいよ!!もうそんな奴らに頼まなきゃいい!!今まで通りおれが修理してやるよ!元々そうやって旅を続けて来たもんな!!」

「おい待てウソップ!!」


赤の他人を信用できないから、ウソップは自分で直そうと考える。
今までだってウソップが船の修理を任されていたのだから当然ではあるが…起き上がるのも痛みが走り体を震わせるウソップに、流石にサンジも引き留めようとする。
しかし…


「お前は船大工じゃねェだろ!!ウソップ!!」


ルフィのこの言葉にウソップはカッとなった。


「おうそうだ!それがどうした!!だがな職人の立場をいい事に所詮は他人の船をあっさり見限るような無責任な船大工なんかおれは信じねェ!!!!自分達の船は自分達で守れって教訓だなコリャ!!絶対におれは見捨てねェぞ!この船を!!バカかお前ら!!大方船大工達のもっともらしい正論に担がれてきたんだろ!!!!おれの知っているお前ならそんな奴らの商売口上よりこのゴーイングメリー号の強さをまず信じたハズだ!!そんな歯切れのいい年寄りじみた答えで…!!船長風吹かせて何が"決断"だ!!見損なったぞルフィ!!」

「ちょっと待ってよウソップ!!ルフィだって最初は…!!!」

「黙ってろナミ!!!」


ウソップはルフィの言葉に体を引きずりルフィの胸倉を掴んで再び二人の口論が始まった。
また喧嘩になり今度は取っ組み合いが始まるのではないかと不安になったナミが必死に誤解を解こうとするも、ウソップではなくルフィに止められてしまい下がるしか他なかった。
と、言うよりかは食い下がろうとしたナミの手をアスカが掴んでやめさせたのだ。
首を振るアスカを見てナミはアスカが何が言いたいのか察したのか唇を噛んで俯くしかできなかった。


「これはおれが決めた事だ!!!今更お前が何言ったって意見は変えねェ!!!!船は乗り換える!!メリー号とはここで別れるんだ!!!!」

「フザけんな!!そんな事許さねェ!!!!」

「おいお前ら大概にしろ!!!そんなに熱くなってちゃ話にならねェだろ!!!!」


ナミの代わりにサンジが止めても2人は止まるわけもなく、言い合いは続く。
どちらも冷静ではなく、いつ手足が出てもおかしくない状態だった。


「いいかルフィ!誰でもおめェみたいに前ばっかり向いて生きて行けるわけじゃねェ!!!おれは傷ついた"仲間"を置き去りにこの先の海へなんて進めねェ!!」

「バカ言え!仲間でも人間と船じゃ話が違う!!!」

「同じだ!!メリーにだって生きたいって底力はある!!!お前の事だもう次の船に気持ちを移してわくわくしてんじゃねェのかよ!!!!上っ面だけメリーを想ったフリしてよォ!!!!」

「!!―――いい加減にしろお前ェ!!!」

「ルフィ!」


ついにウソップの言葉が頭にきたのか、ルフィはウソップを押し倒し、床に押さえつける。
力ではルフィに勝てないのと怪我をしているのもあり、ウソップは暴れるも押さえつけられて抵抗も出来なかった。


「お前だけが辛いなんて思うなよ!!!!全員気持ちは同じなんだ!!!」

「だったら乗り換えるなんて答えが出るハズがねェ!!!」

「じゃあいいさ!!そんなにおれのやり方が気に入らねェんなら今すぐこの船から―――」

「バカ野郎がァ!!!」

「!!」


その先の言葉をルフィが声にして出す前にサンジがルフィを蹴り飛ばし、机とイスごとルフィは吹き飛ばされてしまう。
珍しくサンジの本気で怒った声にナミがビクリと肩を揺らし、そんなナミにアスカは『大丈夫』という気持ちを込め繋いでいる手の力を少し強くする。
口論が止み、ガラガラと机の破片が落ちる音だけがその場に響く。


「ルフィ!!てめェ今何言おうとしたんだ!!頭冷やせ!!滅多な事口にするんじゃねェぞ!!」


ルフィはサンジに蹴られ頭が多少冷えたのか自分が何を言おうとしたか気づき、我に返ったルフィはウソップに謝る。


「………あ……あぁ…!!…………悪かった…今のは…つい…」

「いやいいんだルフィ……それがお前の本心だろ」

「何だと…!!」

「"使えねェ仲間"は…次々に切り捨てて進めばいい……!!この船に見切りをつけるんなら…おれにもそうしろよ!!」

「おいウソップ!下らねェ事言ってんじゃねェぞ!!」


カッとなった言葉とはいえ、その先の言葉はウソップにも分かる。
多分冷静になればルフィもウソップもそれは誤解だと分かるだろう。
だが今はそれを誤解だと、冗談だと笑える余裕はお互いにない。
どちらも意見が真っ二つに分かれ冷静ではない以上…誤解を解くことは一生無理なのだ。
取り返しのつかない事を言いかけるウソップにサンジが止めようとするがウソップは止まらない。


「いや本気だ!……前々から考えてた…正直おれはもうお前らの化け物じみた強さにはついて行けねェと思ってた!!今日みてェにただの金の番すらろくにできねェ!この先もまたおめェらに迷惑かけるだけだ!おれは……!!」

「…………」

「弱ェ仲間はいらねェんだろ!!!」


ウソップの言葉にみんな何も言えず黙ってしまう。
ウソップの言葉が正しいからではない…誰も口がはさめなかったのだ。


「ルフィ…お前は海賊王になる男だもんな…おれは何もそこまで"高み"へ行けなくてもいい…!!」

「!」

「――思えばおれが海へ出ようとした時に…お前らが船に誘ってくれた。それだけの縁だ…意見がくい違ってまで一緒に旅をする事ねぇよ!!!」

「おい!ウソップ!!どこ行くんだ!!!」


重く痛む体をウソップは無理やり立たせ船から出て行こうとする。
それをサンジが引き留めるも、ウソップはそのまま船に降りてしまう。
ウソップが出ていき、サンジ達もウソップを追って外に出る。
ルフィもそれに続き外にいるウソップを睨むように見つめていた。


「どこ行こうとおれの勝手だ…おれはこの一味をやめる」

「そんな…!!ダメよ!!待ってよ!!!!」

「おい戻れ!!!」

「え!?え!?行かないでくれよォ!!ウソップ〜〜〜!!!!」


サンジ、ナミ、チョッパーがウソップを引き止める中…ルフィ・ゾロ・アスカはただ黙ってウソップの背中を見つめるだけだった。


「お前とはもう…やっていけねェ…最後まで迷惑かけたな」

「……!!」


ウソップの言葉にルフィは拳を握る。


「この船は確かに船長であるお前のもんだ…だからおれと戦え!!」

「!」

「おれが勝ったらメリー号は貰って行く!!」


背を向けていたウソップは振り返り…


「モンキー・D・ルフィ!!…おれと決闘しろォ!!!!」


ルフィに決闘を申し込んだ。

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